@s_ota92
2026年5月3日
朽ちる散る落ちる
森博嗣
p9
「毎日違う道を選択しても、その数は知れているけれど、その高々数万、数千という数を、若者は無限だと錯覚できるかもしれない。」
p10
「そんな有限の中で、人間は無限への畏怖を抱き、有限の生の儚さを懐かしむ。」
p15
「「客観というのはね、つまり主観の裏返しなんです。客観だけで存在するものではありません。主観があって、初めて体現できる感覚なの。したがって、思いっきり主観的な情報入力を通してこそ、私たちの視点は高く駆け上がることができる、というわけ。ほら、ジャンプをするときだって、まず膝を折って、一度は小さくなるでしょう?」」
p19
「子供の頃は、遊園地に来ただけで、全てが目新しかったせいだろうか、何を見てもどきどきしたものだ。いたしか、遊園地は、他の誰かと一緒に来る場所になり、その誰かを見つめることが主となった。歳を重ねるほど、人の視野は狭くなるという一例である。あるいは、このさき、他人との関わりを遠ざけ、孤独の中に楽園を見つけられるだろうか、と保呂草は考える。」
p23
「覗いたその瞳は、相変わらずの栄光を宿している。」
p26
「保呂草は驚き、一瞬言葉が出なくなる。髪型も違う、メガネも違う、しかし、藤井の顔に見覚えがあった。」
p31
「「そこで、貴方に、確かめてもらいたい。あるものが、そこにないか……、もし、それがあったときには、それを持ち出してほしい。」」
p32
「結局のところ、空にはなにもない。だから、空なのである。」
p33
「今、へっ君のグローブをはめているのが練無である。イニシャルがS・Sとあった。」
p34
「彼は黄色のデニムのオーバオールを着ていたが、頭の上には赤い風船が一つ浮かんでいた。どこかでもらってきたもののようだ。風船の糸が肩のところに結ばれていた。」
p39
「「うん、図書館で少し調べものがあったんだけれど、知り合いの教授に摑まってしまって、話が長いんだ。」」
p41
「「鬼も十八、番茶も出花って。」
「一途に向かっていくのに、受け止めてくれる人がいない。私は寂しい。」」
p57
「「生きていることが、つまり、死にかけている状態なんだから。」」
p66
「「たしか、数学者の小田原長治、と聞きました。」」
p70
「「小田原先生が、私をパーティに行かせた理由。」」
p74
「「一途な男だったな。」小田原は目を細める。「先生が最後にお会いになられたのは、いつ頃ですか?」「さあ、何年もまえ、もう三年、いや四年になるかな……。だいたい、わしは、あまり人に会わんことにしておるからな。人間に直接接近したところで、大した違いはない。会っても会わんでも、ほとんど同じだ。」」
p74
「「ようは、徐々に死んでいるのという道理だ。最後は、屍を晒すかどうかの違いだけじゃな。雄ネコなどは偉いもんだ。ちゃんと、死ぬ間際に姿を消してしまう。おおそう、デルタはどうした?」」
p76
「「大好きな方に、自分の大事なことをお話しできないのは、とても残念です。」」
p77
「シャトルの事件を、この人に説明して下さい。そのあとに、「Odawara」の小さなサインもある。」
p86
「「さあ、私を平和な読書に戻してもらおう。」」
p93
「SLUG ONLY MAD IS JUNKIE」
p99
「「もういい。誰かが嘘をついている。誰かが私たちを騙した。それだけのことだわ。もう、その誰かさんの思うとおりになってしまったのだから、あとは……、そうね、どうせ考えるなら、目的が何か、という方はエネルギィを向けた方が賢明。」」
p116
「それは、NASAの友人が送ってくれたレポートだった。」
p125
「壊れた人形のようなものが、投げ出されていたのだ。服を着ている。」
p141
「「謎が謎を呼ぶ、地下密室の怪。」」
p143
「人工衛星に乗り込んだ宇宙飛行士が四人とも、地球周回軌道上で殺害された。このため、衛星は地上からの操作で強制的に軟着陸する結果になった、という短い物語だった。」
p144
「保呂草がなにかを知っている、あるいは、なにかを企んでいることは、まず間違いない。それに、小田原長治も、紅子の知らないことを知っている。何のために、自分をここへ来させたのか?どうして、周防教授のところへ行かせたのか?何故、宇宙船の殺人事件の話など聞かせたのだろう?」
p145
「そんなに簡単に橋が架かるものなのか、もしそうなら、どうして、普通の橋の工事は、あんなに長期間かかるのか、という疑問を、誰かが口にした。そう、根来機千瑛だ。彼が紅子にそう尋ねたのだった。」
p148
「これは、知らない谷だ。それが、目の前に見えた。まったく新しい橋を、そこに架ける必要がある。」
p153
「「ええ、私の印象では、少なくとも、レンドル博士や、宮下博士は、知っているのでは、と思います。」」
p154
「「えっと、理学部の周防教授のところですよ。ご存じですか?」」
p161
「「思い出した。指輪が落ちていなかったかね?」」
p167
「「もし、私に協力を求めるのなら、できるだけ早く、そして隠し立てなく、情報を流して下さいね。」」
p171
「「なんか、そこんとこを、こそこそっと上手にできへんもん?うーん、ほら、磁石とか、糸とか、電波とか、適当に使って……。あ、そやそや、ほれ、超音波とか、ふんだんに使ってもええんよ。」」
p175
「お互いに、相手のことなんてわからない。自分のことだって、よくわからないのだ。」
p189
「「こいつだ!」」
p196
「「周防先生の部屋から、何が盗まれたのか、お話ししようと思ったのに……。」」
p208
「「女の子って、女の子って、複雑ね。」練無が歌う。」
p225
「「僕にあんな依頼をすること自体、そんな感じだ。でも、このまえの彼女が、知っていたんじゃないかな。」」
p229
「「現在の名前は存じませんが、旧姓は、纐纈。」」
p233
「「ようするに、つながっているのに、つながらない。」」
p233
「「お互いにまったく関連のない要素ばかりを集めた集合があったとしよう。」小田原は指を一本立てた。「その条件は、一般に確定ができる。したがって、属性としても成立するだろう。すると、その集合で作られたことで、それらの要素は、同じ集合に属している、という条件によってお互いに関連を持つ。すなわち、お互いに関連がなかったとする最初の条件と矛盾する結果になる。」」
p234
「「ある存在が秘密である場合、それが秘密だと示すことによって、その存在を明かしてしまうのだ。秘密だと答えるだけで、既に存在は秘密でなくなる。隠したいものは、命に代えても隠さねばならぬが、その強い意志によって、結果的に際立つことになろう。ドアに鍵がかかっておれば、その中になにかがある、と必ず人は考えるだろう。どうしても開かなければ、ドアを壊してでも、そこへ入ろうとする。それが人の心、人の情、人の流れというものだ。」」
p234
「「ああ、星空が見たいな。」小田原は呟く。「花園が見たい。」目を瞑ったまま、彼は言った。「潮騒が見たい。」」
p234
「「星空なら、今夜にでもご覧になれますわ。花園だって、春になれば……。もう少し暖かくなれば、潮騒だって、思う存分ご覧になれますよ。私がご一緒いたしましょうか?」」
p235
「「小田原長治、一生のお願いだ。」彼は紅子を優しく見つめた。「どうか、謎の答を探さないでほしい。」」
p241
「「しかし、個人の出資者が三人いて、これが大きい。一人はもちろん、土井博士本人。それから、数学者の小田原博士……、当然、知っているよな?」」
p243
「「ホームステイ先は、あっちの大学の教授の家だった。もちろん、彼女とは学部が違う。工学部の先生で、名前は、ジョージ・レンドル。」」
p253
「「藤井苑子と申します。」」
p253
「熱い自分の息を感じて、小田原は驚いた。まさか、これが……、死と呼ばれている人の最後の夢ではないか、と思う。」
p255
「「何を嘆くことがあろう。もう、わしは長くない。貴女は、貴女の思うように、貴女の信じるところを生きなさい。会えて嬉しい。本当に嬉しいよ。ありがとう。本当に、ありがとう。よく来てくれたね。」」
p257
「「藤井苑子さんです。」保呂草はずばりと答えた。「つまり、纐纈苑子さん、その人です。」」
p261
「「貴方、纐纈さんと会ったことがあるでしょう?」」
p262
「「会ったから。」」
p263
「「デゴイチ。」練無が言った。「そうか、D51のナメクジか……。」紅子が呟いた。」
p277
「瀬在丸家の元執事、根来機千瑛は、練無が通う少林寺の道場の師範代である。」
p279
「「へっ君が一人で寝ているんだぞ。なにをぼやぼやしてる、早く帰れ。」」
p279
「しかし、彼女は腕を伸ばして、根来の手を取った。「ご苦労様でした、帰りなさい。」「お嬢様も、お気をつけて。」根来は満面に笑みを浮かべ、もう一度頭を下げてから立ち去った。」
p283
「「私の勝手な想像ですが、小田原先生も同じ気持ちだったと思います。しかし、世の中は、なかなかそうは見てくれない。気持ちは同じでも、そこに、お金や立場が絡んでくると、特に、それが沢山で立派なほど、真っ直ぐなものも捩れて、単純なものも歪んでしまう。正しい形も、斜めから見られれば歪んだ形になります。放っておけば、人はいくらでも捩曲げる。基本的に人間って残酷なんです。」」
p291
「「あ、おぼっちゃま。」奥から根来が声をかける。「そちらへは……。」「図書館に行く。」少年は振り返り、根来に答えた。それから、テーブルに七夏がいることに気づき、彼女の前まで来て、頭を下げた。」
p293
「「まえにね、林さんが来たとき、とんでもなく苦い紅茶を出したのよ。」彼女はキッチンの方を窺った。「私も嫌われているみたいです。」七夏は言う。」
p295
「「外国。」」
p296
「「機千瑛!ちょっと!」」
p297
「「こんにちは。」少年はお辞儀をした。」
p298
「かつて、林は息子と一緒に暮らしていた。」
p298
「紅子と別れて既に六年あまり。その後、一度だけ、四年ほどまえに、一週間だけ、息子が彼の家にやってきたことがあった。」
p307
「その後、紫子が二十項目くらいの質問をして、それに対して森川素直が短く答える、という応酬を繰り返すことによって、だいたいの事情がわかってきた。」
p313
「「そうやって、自分の意見に対する反論を持っていることが、強力な意見の条件だと思う。」」
p316
「「どんなに突飛で、確率の低い現象であっても、それが現実に起こったのだとしたら、それを理解したときには、もっと感動があるものです。」」
p322
「「へっ君が?」」
p323
「根来を含め三人には、少年に注意をして止める機会があったのだ。」
p323
「いつだったか、紅子の口から、林のためならば息子を殺せる、と言う言葉を聞いたことがあった。今の彼女の様子は、その言葉と矛盾しているだろうか、それとも、それ以上に彼女は林を愛している、ということだろうか。」
p323
「いずれにしても、単純ではない。人間は複雑な生きものである。」
p324
「「友達とかは?」林が尋ねる。紅子は黙って首をふった。」
p330
「「彼女たち、きっと昔は毎日こんな食事をしていたんじゃないかなって。なのに、へっ君なんて、今はコーンフレークとか食べてるんだもん、なんか可哀想だし。」」
p331
「「へっ君、さっき会ったよ。」森川が言った。「どこで?」「図書館まで送ってった。」」
p334
「「へっ君なら、えっとね、森川君の車に乗っていったよ。」」
p337
「「へっ君が行きたいって言ったからです。ええ、それに……、貴方が、私たちのことを忘れないようにって、少し思ったから。」」
p338
「自分は、結局、彼女がしてほしいと口で言ったことしかできない男なのだ、とわかっていた。別れた理由は、そこにある。もちろん、それも、彼女の方から言い出したことだった。彼女が言ったことには、何一つ逆らったことはない。何一つ……。紅子の方から手を放した。彼女は視線を窓に向け、諦めたように、感情を遮断した。表情にそれが表れる。彼女はもう覚悟をしているのだ、と林にはわかった。なにもかも、先回りして、すべて考えてしまう。それが、彼女の仕組み。そう、なにもかも。彼女は、すべてを考えてしまう。」
p340
「「はい、いつもと違う図書館だったんです。千種の図書館にいました。」」
p340
「「ええ、たまたま彼が出かけるところだったみたいで、じゃあ図書館まで乗せてあげる、という話になったみたいですけど、それで、車に乗ってから、息子さんが、まえから隣の区の図書館へ行きたかった、と話したようで、それで、森川君はわざわざ大回りして……。」」
p342
「「でも、この本は貸し出し禁止だから、また来なくちゃいけない。」」
p344
「「そういう意味じゃなくて、僕には、どっちかわからない、のわからない。」」
p344
「「歩いて五キロもありません。徒歩で一時間十五分くらいの距離です。」「そう、そんなに近いかな。」「地図まで確かめたことがあります。」「そうなんだ。ずっとまえから、ここへ来たかったのね?」「はい。それに……。」少年は少し口籠もった。「何?」「お父様が家に来たから。」「来たから、何?」「しばらく、帰らない方が良いと思った。」「どうして?」「わからない。」「私も、いたよ。」「だから、三人で、喧嘩をするんだと思った。」「私のこと、知っているのね?」「なんとなく。」」
p345
「何がそうなのか、言葉にはできなかったけれど、なんとなく、彼の言いたかったことがわかった。自分にも、同様の感情がある。おそらく、一言で片づけてしまえば、甘え、だろう。しかし、もっと複雑で、もっとプライドが入り込み、もっと、異形なものと化している感情。彼は、きっと自分では気づいていないだろう。彼の中の一部が、明らかに反発して、自分に無茶をさせて、大人に心配をかけようとしたはず。そういった感情が絶対にあったはず。」
p349
「この後、二十項目ほどの質問を浴びせ、それに対する短い返答から類推して、練無はようやく状況を把握することができた。」
p349
「「ふうん、そう……。昨日のことがあったから、みんな、過敏に反応したってことだね。」「どうして、花瓶に?」「保呂草さんとか殴られたんだよ。」「花瓶で?」「え?何?どうして過敏だと殴られんの?」」
p350
「いずれも赤い風船である。」
p351
「このように、彼の省略の美学を理解するためには、高度な推理力が要求されるのである。」
p354
「「森川君、わかってるじゃん。無口探偵、すっかり素直。」「もともとは地下じゃなかったとか。」」
p364
「「私が言いたかったのは、メカニズム的に、あるいは現象的に違いがないからといって、戦争や人殺しを許しても良い、という意味ではありません。そうではなくて、そういった行為を排除するための方法論が間違っている、と思うわけ。これこれ、こういう理屈だから、戦争や人殺しはいけない、という理由をつけようとする。そこに矛盾が生じる。だから逆に、その矛盾をついて、過激な思想が生まれ、社会に対する威嚇になってしまう。学校では、子供に理屈を教えようとする。ところが、教師よりも頭の良い子供は当然沢山いるわけで、彼らは、たちまち教師の思想の浅薄さ、論じられる理由の軽薄さを見抜く。彼らは自分たちの理屈を求めて、より高等な、より説得力のある論理を築こうとする。その一部が、やがては反動の力を生むのです。いったい、どこが間違っていますか?明らかに、最初の理屈なの。だって、もともと理屈なんかなかったんだから。人を殺したら気持ちが悪い。友達が死んだら悲しい。もっと話がしたかった。自分はもっとやりたいことがある。だからもっと生きていたい。そんな簡単な感情だったはずでしょう?嫌だ、というとてもシンプルな気持ち、それがすべてなのよ。そらを、みんながただ確認すれば良い。理屈を捏ねるための議論なんかやめて、もっと、その本質を見据えて、これは自分が望んでいるもの、見たいものなのか、あるいは、避けたいもの、見たくないものなのか、という判断すれば良い、私はそう思います。特に、抵抗を感じるのは、科学技術が理由に使われること。銃や兵器が人を殺すわけではないのにね。」」
p367
「「だから、加速するんだってば。」」
p368
「「科学とは真実を見るための目だ、って言うものね。」」
p373
「「日本に潜伏している、ということかしら?NASAの殺人事件の犯人が、藤井苑子の夫、藤井徳郎だった。いえ、直接、宇宙船に乗り込んで手を下した人間は、もちろんパイロットのうちの一人でした。彼だけが生き残って地上へ帰ってきた。CIAは彼を尋問をして、指導者の藤井を割り出した。違いますか?」」
p380
「「瀬在丸紅子。スペルはC・E・Z・A・I・M・A・R・U、これがファミリィネーム。ファーストネームは、V・E・N・I・C・O。」「私は、リィ・ジェンです。」」
p382
「「ええ、そのとおり。周防教授は、藤井苑子がテロリストだと知っていました。彼女の顔を覚えていたのです。」紅子は咄嗟に嘘をついた。嘘はすべてギャンブルである。リィが周防教授の勘違いの本当の理由に気づかないことを、彼女は祈った。」
p383
「「簡単なことよ。」」
p383
「「タカナシさんに話があって待っていた。」」
p384
「「君にそっくりの……、纐纈家の最後の娘だ。」」
p387
「この駐車場で最後に会った友も、強かっただろうか。」
p389
「「デゴイチ?」」
p393
「「あ、はい、そのときは、ええ、お嬢様とご一緒だったのです。お孫さんですよね。もちろん、ここへいらっしゃったのは、初めてのことですが、とても可愛らしい方で、ええ、よく覚えていますよ。その後も、もう一度、纐纈さんと二人でいらっしゃいましたね。」」
p394
「「ああ、そういえば、ご自分のことを、僕っておっしゃるんですよ。お嬢様がですよ。それが可笑しくて、あとで、女房にきかせましたっけ。」」
p397
「この研究所の六人の博士たちの顔を描いたモダンな作品である。」
p398
「「迷うのは必ず、行き先がはっきりしているとき。」」
p398
「「数学者らしい、抽象的な思考だと思う。」「自分自身で来て、直接確かめたら良いのに。」「それでは、具体的過ぎます。」」
p399
「「私が、それに気づいたのは、小鳥遊君の風船のおかげだよ。」」
p401
「そこには、<SLUG ONLY>、そして、<MAD IS JUNKIE>と書かれている。」
p402
「デゴイチのナメクジ、これをアルファベットで書くんです。ただし、5がSに、1がIになるんですけどね、DSI、NAMEKUJIを並び替えたわけ。」
p409
「若き色に響く音もあり掠れ消え遠く逃げ行く道の音もあり」
p418
「「どうなってるのかな。こっちへ加速度を感じるから……。」練無が背中をつけている壁を指さす。「あ、そうか!傾いているんじゃなくて、もしかしてさ……、ぐるぐる回っているんじゃない?」」
p429
「「落下したのです。」」
p433
「「小田原長治に会いにいく、一緒に来てくれ。」」
p435
「「小田原先生に会いに。」」
p436
「そして、そのうちの一人が、小田原長治であることは、まず間違いないだろう。」
p441
「「淡い期待だが、あるいは、小田原が話してくれるかもしれない。もし聞けるとしたら、これが最大で最後のチャンスだ。」」
p446
「こちら側は白いワンピース。向こう側は赤いワンピース。」
p448
「「月を見ている。」」
p450
「憧れの形は溶け、慈しみの味となる。羨みの影は混ざり、恥じらいの香りとなる。」
p453
「「彼、今日はオレンジだったはずです。」」
p454
「「迫真だったな。」布団に寝ている小田原が目を開ける。「本当に、わしは死んだのかもしれん、と思ったよ。」」
p454
「「思うとおりに生きなさい。」」
p454
「「ご恩はけっして忘れません、などといった具体性のない約束は無意味かもしれませんけれど、万が一、将来、私にできることが巡ってきたときには、そちらにお知らせもせず、こっそりと借りをかえさせていただきたいと思います。」」
p456
「保呂草はポケットから指輪を取り出し、苑子に手渡した。」
p457
「「保呂草さんは、絵画に造詣が深いとお聞きしています。私の実家へ行って、この名刺をお見せになって下さい。手配はしておきます。」」
p458
「「まさにまさに、散りどきではないか……。なあ?死ぬなら、今夜が最高だったのに。月も良い加減であったのになあ……。」」
p459
「自分に触れようとする手、自分から離れようとしている手、そういった数々の影を、知らず知らずに見過ごしている。」
p462
「「あ!」へっ君が突然立ち上がる。」
p464
「「どうも、ご声援ありがとう。サンキュー、へっ君。」」