@s_ota92
2026年5月3日
赤緑黒白
森博嗣
p12
「長期間にわたって、一つのベクトルを持つことは尊いことだと思えてしかたがない。もしそれが自分にできるなら、とても素敵だと心底感じるのである。」
p14
「ただ、急速に熱して、将来に広がる夢を描き、それらを収めるためのケースを準備をする。そして、最初の二つ三つの戦利品を恍惚と眺めつつ、その後は、静かに消えてしまう。まるで魔法ではないか。」
p15
「完成に近づくことを私自身が忘れている、という可能性が考えられる。完成のあとにやってくるものが恐いのでは?」
p17
「山の頂上に石を積み上げるように、その一つずつに意味があってほしい。それが、人の望みというもの。崩れても良い。願わくば、それを私が見ていないときに、崩れてほしい。そんな矮小な奇跡的な我が儘に、私たち人間の生は支えられているのだ。」
p21
「人は赤色を作り、赤色を集める。人は緑色を作り、緑色を集める。しかし、それらは、人間が生まれるまえからあった。赤も緑も、その中間も、ある。自然はいずれも連続している。人は黒色を作り、黒色を恐れた。人は白色を作り、白色に憧れた。しかし、それらは、人間が滅びたのちにも残るだろう。黒も白も、その中間も、残る。いずれも宇宙には存在し続ける。」
p24
「エッシャの絵のように同じ形のブロックを並べた歩道がまだ新しい。」
p37
「赤。」
p48
「「誰が犯人かは、あの、私、わかっているんです。」」
p58
「タイトルは『虹色の死』。作者の帆山美澪の写真がカバーにあった。」
p58
「「えっと……、毎週一人、ペインタによって誰かが殺される。赤、橙、黄、黄緑、緑、青、紫と、七人の被害者は、いずれも全裸で全身を塗装されていた。七色には、いったいどんな意味があるのか。世間を恐怖に陥れた虹色連続殺人に、名探偵、早阪香太郎が立ち上がった。」」
p62
「否、紅子という人間には、親しい者などいない、ということもできる。」
p65
「「赤井さんと結婚してたら、赤井美登里さんだね。」練無がにこにこと微笑みながら言う。「赤い緑なんて、色彩的矛盾っていうか、目の検査みたいな名前になっちゃう。」」
p94
「すると、その階段を小さな女の子が下りてくる。小学生だろうか。人形ような可愛いらしいドレスで、スカートを左右に揺らしていた。」
p94
「淡いピンクのドレスと同じ色の小さな靴を履いている。ほっそりとした手足に小さな白い顔。髪はまっすぐで長く、本当に人形のようだった。」
p95
「「お願いしたいことがあります。ボタンを押してもらえないかしら。」」
p95
「「どうもありがとう。」彼女は練無を見上げて言う。「貴方、男の子なの?」」
p97
「「まあ、新しいお友達?」彼女は少女を見る。ジュースのストローをくわえていた少女が、口からそれを離して紅子を見上げた。」
p97
「「どうして子供なのに敬語を使うの?」少女がきいた。」
p97
「少女は階段を上っていき、図書館の建物の中へ消えた。」
p110
「「ああ、そういえば、彼、読書家でしたね。文庫本をいつも持っていましたから。」」
p116
「「赤というのは、やはり、恨みの色かな。」筆を絵の具の缶に入れながら、佐織が呟くように言った。「情熱の色、その裏返し、人の血の色だ。」」
p117
「「女だろうね。」」
p120
「「どんなに正常な人間でも、あるいは、どんなに規則正しい生活をしている人間でも、ときとして、自分の生き方、自分の人生、さらには、人間の歴史、人間の将来に目を向けるときがある。まるで自然見つめるように、自分を見つめ、そして、その中にいる小さな存在として、自分の位置を感じる一瞬がある。そういったとき、その圧倒的な孤独感から、自分の生命も含めて、あらゆる存在を、宇宙的な視野から見下ろしてしまう感情が生まれる。ごく自然のことだ。つまりは、タイミングの問題でもある。そのときに、たまたま、手に拳銃を持っていれば、それでなにかを破壊してみようと思いつくかもしれない。あるいは、ペンキを持っていれば、めちゃくちゃに色を塗りたくなるかもしれない。なにも持っていなければ、酒でも飲んで寝てしまうだけかもしれない。違うかね?そもそもが、我々人間は、そういった揺れ動く存在なのだ。今までレールの上を走ってきたからといって、ずっとレールから外れないと思う方が、どうかしている。そちらの方が不可解だ。」」
p136
「緑色。」
p153
「関根朔太は、地元出身の世界的に著名な画家である。彼がこの地に戻ったのはつい最近のことで、それまではずっとフランスで活動していた。今回の展示作品の多くは、フランスからやってくるものらしい。」
p159
「「各務亜樹良さんでしょう?」紅子は言う。」
p166
「「あ、そうだそうだ。割引券をもらったんだ。」「映画?」「違う。関根朔太展。」」
p182
「もしかして、それは無意識の願望?つまり、甘えか……。」
p189
「「別に、あの、ノーコメントでもかまいませんよ。そんな、将来のことなんて、普通決められないし、決めていても、どうなるものか、わかりませんからね。」」
p198
「保呂草は、思わず吹き出した。紅子に凧のように簡単にコントロールされている自分が微笑ましい。彼女が引いている糸は、どこにあるだろう、と自分の胸を見る。」
p202
「灰色の夜空は望洋としていて、月も星も見えない。欲望と危険はいつもセットになる。うまい具合に組み合わさっているものだ。いずれを取るか、いずれを棄てるか……。」
p205
「「でもね、当てになりませんよ。僕、女性に対しては、見る目がないってよく言われますから。」「誰から言われる?」「だいたい、その女性本人から。」保呂草は欠伸をする。」
p207
「「で、冷静になって考えてみたら、保呂草って男、わりと信頼できるぞって。」」
p209
「「こんばんは。」突然、後ろから声をかけられる。保呂草は驚いた。」
p210
「空腹だったが、紅子、七夏、亜樹良のフルコース、とこっそり不謹慎なことを考える。少々カロリィが高過ぎるだろう。寿命が縮まるメニューだ。」
p211
「「うん、いや、別に用件はないよ。」」
p213
「保呂草は空を見上げた。星は見えない。各務亜樹良の真意もまったく見えなかった。だが、そんなことは小事である。星が見えようが、見えまいが、夜には違いない。それと同じで、彼女が何を考えていようが、彼女には変わりない。」
p228
「「焼身自殺かと思った。」老人が言う。」
p228
「真っ黒なのだ。」
p233
「「だって、赤、緑、と来て、今度は黒。」」
p236
「「みんなそれぞれ良い人なのに、組合せって難しいもんだよね。」」
p251
「「秋野秀和を知っているな?」」
p252
「「瀬在丸紅子に会わせろと言っている。」」
p255
「「てんねん。」練無が繰り返す。「ナチュラル。」」
p257
「「僕思うけど、医者もそうなんだよね。病気の原因とか、悪い場所を教えてくれるだけで、それを治すのは、結局は患者さん本人の体力なわけでしょう?」」
p261
「「そうかな……。戦争って、みんなその平和を夢見て戦っているみたいだけど、それだけかな?それだけの動機で、あんなに長く戦いが続けられるかな?」」
p264
「「お嬢様、あの……。」彼は頭に片手をやってジェスチャで示す。紅子が気づいて、髪を解いた。ストレートの長髪が肩に軟らかく広がった。根来はにっこりと微笑み、パイプを片手にキッチンへ入っていった。」
p270
「「帆山美澪の本名は?」下を向いたまま保呂草は尋ねた。「えっと、市川優子。」「高橋じゃないのか……。」」
p272
「「この事件が解決したら、お祝いに、飲みにいきましょう。」」
p274
「「赤、緑ときたら、黄色、そして紫ね。」」
p275
「「意味がないことに意味があるっていうの、まえにあったよね。」」
p279
「裏切りというものは、結局のところ、裏切りを許す環境で増殖するものなのだ。」
p282
「「字しかない本を読む奴ってのは、魔法使いじゃないかって思っている口だ。」」
p287
「「だから、プライベートだって言ったでしょう?仕事の話じゃない。」」
p288
「「関根朔太展から目を逸らしたいために、貴方が、スプレィを持って夜な夜な出没しているんじゃないかって。」」
p298
「「いえ、単に、見たかっただけだと思います。」」
p299
「「普通じゃない。そう、誰だって、普通じゃないわ。普通っていうのは、つまり平均でしょう?平均したものは、シーソーの中心に来る。だけど、そこには誰も乗っていない。」」
p300
「「二人だけ例外がいます。一人は今からお会いする秋野さん。彼が最も今回の殺人に相応しい人格ですが、物理的に犯行は不可能です。」「もう一人は、誰ですか?」七夏はきいた。「言えません。」紅子は即答する。「大丈夫、その人ではありません。私が保証します。」」
p304
「人間の人格、人間の自由、人間の尊厳、人間の欲望、いろいろなものが、たった一本のキーで封じ込められている。否、そうではない。そもそも、初めから、すべてが封じ込められているのだ。人の躰の中に、そして、人の社会の中に。個の人格、個の自由、個の尊厳、そして、個の欲望、それらすべてが封じ込められている。人の形の殻の中に。そして、人々が手をつなぐ、その鎖の内側に。」
p309
「「紅子さん、貴女を殺さなくて良かった、と今は思いますよ。こうして再会できたわけですからね。」」
p310
「「貴女は、寂しくなった。というよりも、寂しさを思い出した。欠け落ちていたのもに、ようやく気づいて、だからそれで、警部のことを求めるようになったんじゃないかな。急に、彼のことが恋しくなった。違いますか?自分の変化に、貴女はどんな解釈を持っていますか?」「いいえ、解釈なんてしていません。」「そうかな。一度別れた男でしょう?自分の決断に対するフォローが必要だったんじゃありませんか?貴女は後悔をするような人ではない。新しい価値観を生み出したはずです。たぶん、貴女はその処理にまだ慣れていない。戸惑っているはずだ。」」
p310
「「そうだ、へっ君は元気ですか?」」
p311
「「人の家には、勝手に上がってはいけないの。貴方は、自分でも知らないうちに、人の心の中に立ち入ってしまう。」」
p312
「「そう。自分がやってもおかしくない、と思います。とても自然だ。こんなに自然な犯罪は珍しい。でも、この種の自然な欲望を持った人間は、多くはない。そして、その特異性のために、同類には敏感にそれがわかる。」」
p312
「秋野は紅子を見た。顎を引き、上目遣いに。獲物を威嚇するような角度だった。貴女もそうだ、と彼は言いたかったのだろう。その言葉は語られなかった。」
p313
「「これまでに僕が出会った人間の中で、これができる、いや、これをしてもおかしくない人物が三人いる。」」
p313
「「一人は除外しましょう。」秋野は楽しそうな表情で話す。「もう一人は、N大のキャンパスで会ったことがある少女です。」「え?少女?」「そう……、もう一年以上まえになりますね。講堂の前の広場で遊んでいた。たまたま通りかかって、少し話をした。彼女、手にトカゲを持っていました。」「トカゲを?」紅子は首を傾げる。「いくつくらいの子?」「さあ、七つか八つかな。」」
p314
「「あとの一人は、中学・高校のときに文通をした女の子です。実際に会ったことは一度もありません。僕よりも歳上でした。」」
p314
「「さあ、そこにあった一文が気に入ったからかな。こうあったんです。生きることを自分任せにしても平気な男の子へ。」」
p314
「「僕たちは、人を殺すことについて、かなり深い議論をしました。彼女が書いてきたことで、一番印象的だったのは、知らない人を何人か殺してみたい。殺したら、死体に綺麗な花を飾ってやりたい、この人間は、私が最後を仕上げてあげたんだ、という気持ちを想像できる、できれば、そんな死体を色鉛筆のように並べてみたいって、そう書いてきたんです。」」
p315
「「その当時は、漢字ではなかったんですが、ホヤマ・ミレイ。」」
p320
「液体に浮いた瞳。しかし、涙は零れない。「優しい目だわ。」紅子は、秋野の額に、唇をつけた。」
p320
「紅子は、紅子を必死で抑えている。紅子は、紅子を殺したくなかった。理由は、それだけだ。生きることなんて、平気で自分に任せられる。」
p325
「「佐織宗尊。」」
p336
「「端的に言えば、それは問題解決です。その邪魔ものが科学的な謎であれば、解決した者は科学者として成功し、その邪魔ものが技術的困難であれば、解決した者は一流のエンジニアになる。その邪魔ものが、たまたま生きた人間だったときには、解決に成功した者が、殺人者と呼ばれるのです。」」
p339
「「けれど、そんな矛盾を抱え込むことが、すなわち、人間として生きていく、成長していく、ということなんだと、そのうちに気づきました。しかも、そういった小さな矛盾を抱え込むことで、もっと大きな矛盾に立ち向かうこともできる。まるで、予防接種みたいなものだなって。」」
p341
「「それは、そのあとに、自分の手できちんと並べたいからなのよ。本人が気づいていなくても、最後にはそれがあると思うな。子供の頃に、なにかを散らかしてしまって、怒られる。ちゃんと仕舞いなさい、と命令される。泣きながら、元どおりに戻すの。そのときの安心感こそ、人間というシステムの非常に重要なパーツなんです。泣きながら並べたこと、それが、とても幸福なシンボルになる。幼い子供は、親に叱られて泣きたいために、おもちゃ箱をひっくり返すのよ。結果はちゃんとわかっているのに、それをやるの。」」
p342
「時刻は午後の三時。市立美術館が閉まるのは五時。時計を見ながら、その引き算をした。」
p350
「関根朔太画伯の娘が、練無の中学時代の先輩で、どういうわけか、彼は、その古い友人の前では普通の青年でいたいようだった。」
p358
「真っ白なのだ。」
p363
「もしかしたら、これが、この絵の機能……、関根朔太という天才画家の技かもしれない、と練無は発想する。」
p367
「「そうそう、さっきな、むこうの、その卒業展だかで、マネキン人形にべったりペンキを塗ったやつがおいてあったで。そのタイトルが、確か、『当て込んでヒューマン』。」」
p369
「赤、緑、黒、そして、今回は白だ。」
p383
「何度も自分に言い聞かせている。何度も、何度も。諦めなさい。諦めなさい。もう、終わったのだから、と。」
p385
「棚上げにできる、ということが、人の素晴らしさかもしれないな。」
p398
「「誰かの幸せは、誰かの不幸なんよ。そういう理屈なんやから。民衆の苦労を掻き集めて、王様が一人幸せになってきたん。幸せって、そうやって君臨するもんよ。」」
p400
「練無が口にしたものよりも適当な言葉を、どうしても思いつけなかったからだ。つまり、紫子がいつも思っていて、常に考えていて、それでも何故か言葉にできなかったもの、言葉にすることを恐れていたもの、それを練無の口から聞いた気がした。」
p416
「「ああ、なんか、引っ越しばかりの新居みたいじゃなないですか。」「そうかな。」林は低い声で言う。「僕には、離婚が決まって、出ていったあとの部屋に見える。」」
p418
「「変わったペンダントだった。」」
p421
「プレートのタイトルには、≪幼い友人≫とある。」
p426
「「じゃあ、僕は……、白。」」
p429
「「言っておきますけど、僕、そんなもの持っていませんからね。だけど、仮に、仮にですよ、僕が≪幼い友人≫を今持っているなら……。」」
p434
「「あまり、思い込まない方が良いな。」「思い込む?」「自分はこうだって、思い込んでいるよ。」」
p436
「自分は、ここにいるのだろうか?否、自分はここにはいない。彼女は、自分の影を見ているのだ。光が当たれば消えてしまう影を。違いすぎる。」
p444
「「これは、帆山さんにもお話ししたことですが、このような事件を起こす人物は、間違いなく子供ですね。」」
p446
「「私は、ある少女に出会いました。彼女はまだ、当時五歳だった。こんなに小さい女の子だった。」」
p446
「「愛らしい、あどけない、無垢な少女だった。しかし、私は、彼女からすべてを学んだのです。自分でも信じられなかった。こんなことがあるのか。こんなところにあったのか。そう思いましたよ。彼女は、私の友人のお嬢さんだったが、最初は少々ませた子だな、くらいにしか思っていなかった。しかし、何度か会って、話をするうちに、私はそこに真実を発見したのです。彼女の中に、真実があった。別の言い方をすれば、神が宿っていたのです。そして、同時に、その少女に教えを乞う自分を、発見した。そこに真実があった。」」
p447
「「いわゆる、視点の飛翔。」佐織がゆっくりと言う。「すべては、その飛翔にある。人はそのために生まれてきたのです。」」
p449
「「金に困ってやっているんじゃないだけに、難しいところですね。もしかしたら、どこにも流さないで、自分の部屋に飾っているのかもしれない。」」
p456
「「本の印税といえば、本の値段の十パーセントなんだから、超ベストセラになって二千円の本が百万部売れたら、二百円の百万倍だから……。」「二億円?」」
p457
「そやけど、赤、緑、黒、白って、なんか、意味がありそう。」
p461
「「役者が駄目なら、本ものの怪盗になるか、だね。」保呂草は笑った。」
p464
「急に思い出したことだが、初めて会ったときの紅子は、今と同じように白衣を着ていた。まだ、十六か十七歳だっただろう。階段から下りてきた彼女は、客として訪れた林に驚き、今と同じように、自分の着ている服のことを謝った。誰がそんな服を見ていただろうか?誰が化粧の出来など見ていただろうか?それは、今でも、変わらない。」
p470
「「では、その卒業展の作品の中です。」紅子が言う。「何が?」麻井がきょとんとした顔で尋ねる。「関根朔太画伯の絵が、まだそこにあると思います。」」
p476
「「あ、そういや、麻雀牌も、ほら。」紫子が言った。「赤が中で、緑が發で、あと東南西北が黒くて、白がまっ白やん。あらま、もしかきて、麻雀を意味してるんちがう?」「だったら、大三元殺人事件だね。」」
p481
「「いえ、簡単なのよ。」」
p484
「「これ、どこにでも同じもんが出回っていると思いますよ。あ、おんなじ言うても、私のは色が違います。この真ん中の黄色いガラスが、私のはピンクっぽい紫です。確か、色違いで、もっと何種類かあったと思いますけど。」」
p487
「一番大事なものを切り捨てさえすれば、友人として林とつき合えるのではないか、という期待もあった。そんなことは、もう十年も考えている。しかし、どうしてもできない。それを切り捨てることは、自分を失うことに等しいと思えた。そして、そう思えるうちは、つまり、彼との関係は前進しない。このまま、平衡状態だ。いつまでも。必要なものは、きっと革命家の心臓。それ以外にない。」
p488
「「学費は全部僕が出すから、好きなところへ入れなさい。」」
p489
「「不思議なものですね。自分も含めて、死ぬ事が恐くなった。若い頃に比較して、という意味ですけれど。」」
p505
「「紫ではなく、黄色でしたか?」紅子はにっこりと微笑む。」
p510
「「おそらく、あの二人の後ろに、彼がいるんじゃないですか?」壁際で保呂草が発言した。」
p517
「ケーブルの中の四本のコード。それらは、四色で、赤と緑と黒と白だった。」
p517
「「何度も言いましたけれど、逆なんです。彼女は、まず第一に、殺したかった。次に、それを彩るアイテムを、周辺から探したの。なにか使えるものはないかしらってね。」「そうしたら、この四色のコードがあったというのか?」「うーん、どうかな。」紅子は首を傾げて微笑んだ。「これだけでは、ないと思うんだけれど……。」」
p521
「「理解する必要はないと思う。そうではなくて、それらの存在を認め、それらの実体を正確に把握することだ、重要なのは。それ以外に防御のしようはないよ。」」
p524
「「帆山美澪さんが、自殺したって……。」」
p526
「「紅子さん。」保呂草が話しかける。「何?」彼女は厳しい表情で保呂草を見上げた。「落ち着いて。」彼は言う。「え?」「大丈夫ですから。」「何が?」「貴女が。」保呂草は口元を上げる。紅子はしばらく保呂草の顔を見据えていたが、やがて微笑んだ。「ありがとう。」」
p529
「「普通の人間には、貴女のことが理解できない。確かにそうかもしれないけれど、でもね、ちゃんと理解できる人間がいる。秋野さんがそうだったように、この私が、そう。貴女の考えていることが、手に取るように、まるで自分のことのように、よくわかる。」」
p531
「「もう終わった。貴女は、自分の設計図どおりに、作品を作り上げ、そして、最後には自分で壊してしまった。満足でしょう?」」
p531
「「最後は、自分の作った人形を壊してしまわなければならなかった。今やその人形が、あなたのシステムにおける最大の危険物だったからです。彼女さえ死んでしまえば、もう恐いものはない。どう?そう思っているのでしょう?だけど、まだ完璧じゃない。この際だから、もう一つ、貴女の弱点を教えてさしあげましょうか?」」
p532
「「それは、名前です。」」
p532
「「もしかして、世界で一番自分が上だと思っていた?自分の才能を、そこまで信じられたの?」」
p534
「「むろうは、み、れ、い。あ、そうか、まゆみが、えっと、ほ、や、まになるわけか。」」
p534
「「五人、殺した。」」
p557
「「いや、たとえ僕がですね、その≪幼い友人≫の絵を、美術大学の展示作品の中に隠したとしてもですよ……、ええ、そんなの、もう終わってしまったことなんですよ。たぶん、そんなことした僕がいたとしたら、裏側にある絵が見たかっただけじゃないでしょうか?それを一晩中、堪能できたのですから、もう充分。あとは、どっちだって良い。ポストカードは、ちゃんと買ってきましたしね。」」
p559
「「ネルソンを預かってもらえませんか?」」
p559
「「貴女の幸せは、僕の幸せです。」」
p560
「夜が逃げ出すのではないか、とさえ思った。」
p560
「保呂草は彼女の手を取り、地面に片膝をつく。彼女の手にキスをした。」
p560
「「また、会えますか?」彼女はきいた。「紅子さんが、そう思えば、いつだって。」保呂草は答える。彼女は頷く。「じゃあ、さようならは、やめておこう。」紅子は最後にそう言った。」
p564
「「だから、≪幼い友人≫です。」」
p575
「「うーん、川と、林。」」
p575
「「何だろう。へっ君の卒業祝いかなあ?」練無が首を傾げる。「根来さんの還暦祝いかも。」欠伸をしながら紫子が言った。」
p577
「だんだん、自分が探しているものへと近づく、この感覚が彼女は好きだ。」
p578
「「こんにちは。」後ろで声がした。少し驚く。思いもしない声だった。振り返ると、小さな女の子がそこに立っている。大きな本を両手で抱えていた。」
p580
「「二年と四か月と十三日まえ。」」
p581
「「反応する時間でわかります。」」
p582
「「私は、其志雄です。」」
p582
「「赤、緑、黒、白の四色は、四つの季節を表しています。」」
p583
「「もう、どうでも良いことですけれど……。失礼します。」」