@s_ota92
2026年5月4日
p11
「「砂の密度は、石や岩の密度よりも統計的に小さいのです。」四季は話した。」
p13
「目の前に存在するもの、それが絶対的、そして圧倒的だった。」
p13
「天才的ではない。ただの天才でもない。真の天才だ。」
p16
「「ねえ、また遊園地へ行きたいわ。」」
p19
「唯一の問題は、その少女の頭脳、その少女の能力、そして、その少女の美しさになる。」
p25
「「そう、そこまでは洗練されていません。形式的には、あと数十年かかるでしょう。しかし、それがあるべき姿だということです。人の躰は、外側で周囲と接していますが、人は、頭脳によって外部を認識しています。これはすなわち、頭脳の中に、社会や自然というすべての概念が取り込まれていることに等しいのです。そうなれば、結局、その人間の外部は、脳の中にこそ存在するのではありませんか?それが外側なのでは?」」
p29
「「いかがでしたか?妃真加島は。」歩きながら各務はきいた。」
p31
「生きている間に、纏いついたものが、毛玉のように自分の躰の中に溜まっているように感じられる。そういったものは、もちろん個々には取るに足らない存在であるが、気がつくと、空間を占領し、道を塞ぎ、見通しを悪化させている。おそらく、森川須磨が死んだことで、その毛玉が一つになって、目に見える大きさの存在になったのだろう、と彼女は感じた。馬鹿馬鹿しい理屈である。しかし、言葉というものは、元来が馬鹿馬鹿しい記号なのだ。」
p33
「「いえ、知り合いというほどではありません。私の友人の知り合いです。」」
p33
「「瀬在丸紅子は……。」」
p35
「「いえ、私はとても良い経験ができて、むしろ喜んでいるの。なるほど、忘れるというのは、こういうことなのかって、初めてわかりました。」四季は可笑しそうに言う。「なかなか不思議な感覚ですね。くすぐったい、に似ているかな。」」
p38
「そうだ、矛盾だ。あの瀬在丸紅子という女から感じたものが、それだった。」
p43
「「なるほど、トカゲの尻尾みたいなものですな。しかし、そういった攻撃に対しては、お金が最も手っ取り早い。」」
p44
「このままの推移では将来きっと投げ出したくなる。つまり、生きていることを。」
p45
「「いつか、四季様の絵を描かせていただくことが、私の人生の夢です。」」
p49
「「えっと、栗本其志雄さんの妹さんね?」「こんにちは、瀬在丸さん。」四季は頭を下げる。「さすがに速いですね。」」
p49
「「真賀田四季といいます。」」
p50
「四季の中では、既に議論が巻き起こっていた。瀬在丸紅子に対する評価が分かれたのだ。」
p51
「「好意です。」「フェイヴァ?カインドネス?」紅子はすぐにきき返す。四季の中で評価が逆転した。」
p53
「紅子が膝の上にあった片手を僅かに持ち上げたので、四季はこの手を握った。細い指輪が見える。彼女は既婚者なのだ。」
p53
「瀬在丸紅子は既に本に視線を落としている。こちらを見ていなかった。四季の中で、彼女の評価は既に一致していた。」
p56
「「喜多といいます。犀川君と同じ組の。」」
p59
「数が小さくなれば、いずれはゼロになる。」
p70
「ずっと追っている相手だ。美術品専門の窃盗犯。」
p71
「「いいんですか?そんなふうで。ちょっとね、手口が、なんていうか、怪盗っぽいですよね。ほら、いつだったかな、那古野の美術館でも、一度、やられましたよね、関根朔太の……。」」
p75
「「誰なの?」「真賀田四季。」」
p77
「「人それぞれ、別々の歩き方をします。顔の表情を変えるように、仕草にも表情がある。遠くから見たときには、こちらの方がわかりやすい。」」
p78
「「もう一度おききします。彼は誰?各務さん、貴方のボーイフレンドは、泥棒なの?」」
p82
「突然、四季が抱きついてくる。顔を寄せ、彼女は各務の唇に触れる。一瞬だった。」
p86
「「信じられない。本当にこんな場所にいたんだ、ドクタ・パーフェクト。」「デートだったの。」四季は微笑んだ。」
p93
「すぐに飽きてしまうようなことに、人間は時間を使いすぎる。しかし、これは良いことだ。執着することが善と信じられているように思える。飽きることが良い状態だという認識を持つべきではないか。」
p95
「四季は悪戯を考えた。」
p97
「彼女の大部分が驚いた。仕事もすべて中断された。こんなに突然のシャットダウンは非常に珍しいことだ、と彼女は思った。」
p102
「ようきゅうはのちほどこちらからする。」
p104
「その男は、人の行動の裏をかくこと、あるいは、ほんの僅かな隙をつくことにかけて天性の素質を持っていた。」
p106
「あえていうならば、単に趣味的な活動であったし、価値のあるものが、その価値を理解している者、価値を知っている者の近くに置かれるべきだという、ごく自然な方針に従って、慎ましいほど遠慮がちに位置を修正しているに過ぎない。」
p107
「欠陥のないものには特徴がないという理屈である。」
p109
「今回の目的物は、小さな習作のスケッチ。」
p117
「「何が卑劣で、何が正義なのか、そんなことは奴の知ったことじゃないよ。そういったことに影響を受けない人間だ。」」
p122
「「悪かった。君にはなんの恨みもない。あとは、僕がここから出ていっておしまい。すべて忘れてほしいけれど、そうはいかないだろうね。」「何を盗んだの?」四季はきいた。「さあ、何だろう。」彼は微笑んだ。」
p123
「「それならば、最初に殺しているわ。そのときが一番簡単だった。いろいろな手間が省ける。それなのに、私のために無駄で危険な時間を使っている。どうしてわざわざ戻ってきたの?合理的な行動とは思えないわ。貴方、冷静そうだけれど、どこか破滅的な部分があるわね。そこが魅力的なのかしら?各務さんのことが好き?」」
p124
「「今から、私、貴方についていくわ。一緒にどこかへ連れていって。」彼は一度吹き出し、しばらくものが言えなかった。」
p124
「「どうして、一緒に行きたい?僕が立ち去ったあとは、もう自由なんだから、自分でどこへでもいけるだろう?」「貴方に教えてもらいたいことがあるの。」」
p125
「「貴方、とても変わっている。そう言われるでしょう?」」
p128
「「今日の仕事で、最後にするつもりなんだ。遠くへ行こうと思っている。」」
p134
「「私は全部覚えています。」」
p136
「「そんな馬鹿なことしたんだ。」四季は小声で言った。可笑しそうな声、笑っているようだった。」
p136
「「犀川といいます。」林は答える。」
p137
「「いいえ。でも、仕事は済んだって。もう、これで終わりにするって。」」
p138
「「瀬在丸紅子さんと、おつき合いがあるのね?」」
p138
「「心配しないで。貴方の指輪を見ただけ。」「ああ、彼女と……、会ったそうだね。」「結婚しているの?」「今はしていない。」「そう……。」四季は頷いた。「離婚したのに、どうして指輪をしているの?」「外れないだけだよ。」「嘘。」四季は微笑んだ。「緩そうだもの。」」
p140
「「奴は、今回の仕事を最後にするつもりだと言ったそうだ。」「え?」七夏はそれを聞いて立ち止まった。」
p141
「「駐車場なんかで寝ていると、だんだん気が短くなって、エキサイトしたままの人生になる。しかし、そういう熱いときに、人は打たれて、形を変えるんだ。」」
p142
「結局、どちらの男も、捕まえられなかった。」
p143
「今まで、父の人格をこのように見切ったことは一度もない。それをしないように、彼女は今まで気を遣ってきた。そうすることが、娘としてのマナーだ、と彼女なりに考えていたからだ。」
p145
「なにもかもが遅い。彼女の思考の外は、ほとんど止まっているかのようだ。」
p147
「人に会いたいとは、その人間の躰を見たいという意味だし、人を愛したいとは、その人間の躰に触れたいという意味だ。」
p150
「おそらく、最近の自分は母親を遠ざけている、と四季は感じていた。それは、五年まえ、あの山荘で見た光景、首を絞められた女の死体のせいかもしれなかった。」
p151
「「ご心配には及びません。彼は、私には関心がなく、自分の目的があって、警察の警戒を別の方へ向けさせようとしたのです。それに、たまたま私が利用されただけです。」」
p153
「循環を望んでいるようで、阻害する。永遠を望んでいるようで、悉く断ち切る。」
p154
「そう、生きようとする幻想は、つまりは、死への憧れなのだ。」
p155
「「恐いのよ、なにもかもが。自分の外側のものが、自分の内側に入ってくることが恐い。」」
p158
「「貴女を産んだのは、この私です。それは信じて。」」
p159
「夏は過ぎた。」
p164
「「私は、全然大丈夫。今日も、散歩に出かけました。お昼寝も沢山しました。猫みたいによく寝るって、みんなに言われています。」」
p166
「しかし、数ヶ月の観測では、その感情が弱まることはなかった。むしろ、強くなっている気がする。否、明らかに望みは強くなっていた。」
p166
「おそらくは、その不確定さこそが、この特殊な感情の持続性に関係しているだろう。」
p169
「「シンタックス・エラーばかりだからな。」」
p172
「「いえ、現在は、息子は父親が引き取っています。たぶん、通っている高校が近いためだと思われますが。」」
p172
「「ええ、たしか……、十七か十八。」「なるほど、それがあの人を、あんなふうにしたんだわ。」四季は言った。」
p174
「「失礼ですが、たぶん、四季様もいつかご理解なさるでしょう。相手がどう思おうが、どんな仕打ちを受けようが、自分から相手に向かった愛情の強さには関係がないのです。」「それで報われるの?」各務は首をふった。「よくわかりませんが、そういうものなのです。人を愛することは、うーん、自分が死んでしまうことと、大差がありません。」」
p175
「「その、結局は、私自身のことしか考えられない人間なのです。こんな因果な仕事をしていますが、これも、自分が我が儘でいられるということが、主たる理由です。彼が私のことをどう思っていようと、私には関係がありません。私は、その……、その一時の、その一夜だけの時間を手に入れた自分に酔うだけです。時間も、社会も、それに、彼さえも、私にとっては、単なる背景に過ぎません。」」
p180
「人はチェスの駒のようには動かない。」
p181
「これまでに会ったことのある人物の中で、自分に一番似ているのは、おそらく瀬在丸紅子だろう。」
p182
「まだ十三年しか生きていない。もう十三年も生きた。」
p182
「一度記憶したものを、忘れるということが、できない。そのコントロールだけが、どうしてもできないのだ。」
p182
「あのとき、なにかが掴めそうな気がした。あの感覚は、今までになかったものだ。」
p184
「すべて抽象に過ぎない。しかし、具象よりは真だった。」
p185
「後悔とは、何だろう?その感覚を、彼女はまだ理解できないでいる。何故、悔いることがあるのか。どうやったら、悔いることができるのか。それがわからない。想像するに、瀬在丸紅子は、きっと後悔を初めて知ったのだ。」
p193
「「ありがとう、正しいことは、いつか理解されるわ。」」
p195
「おそらくは、これも自分自身を確認する行為に帰着するのだろう。他人を意識したことは、かつてないこと。他人にこれほど依存しようと欲したことも、一度もない。」
p202
「「女性が日本の首相になるには、まだ二十年以上はかかります。」」四季の口調は既に平生のものに戻っていた。
p204
「四季は黙って彼を睨みつけた。十六種類の言葉を同時に思いついたが、どれもこの場に適当だとは思えなかった。すべてが却下されることは、非常に珍しい。」
p209
「「忘れちゃった。」其志雄は笑いながら言った、機嫌が良さそうだ。「森川さんもいるよ。」」
p214
「「そうだったの。それは気がつかなかった。意識って、それくらいでは不連続に認識されないってことかしら。」」
p219
「ピストルがあったら、時計を撃ち殺していただろう。」
p222
「驚いたことに、なにも、考えていない。四季の中で、なにも、考えていない。四季の中で、誰も考えていない。黙っていた。みんな、黙っていた。」
p223
「また夏が来る。」
p226
「四季は、しかし、両親のことについては関心を失っていた。」
p226
「その他の人間たちは、つまりは自然環境と同じレベルのもの、あるいは人工物、建物や機械や書物などと同じ存在だった。」
p228
「「彼が南米にいることがわかりました。私は、彼のところへ行きます。」」
p231
「「はい、回転木馬です。」」
p232
「曖昧な判断の積み重ねで、社会は作られているようだ。空を横切る太陽のような、精確さを、誰も求めていない。判断しない、考えない、関わらない、知らない振りをする、それでも、みんながここに集まって、こんなに接近して、生きているのだ。ほとんど、身を寄せ合っているのに等しいのに、大多数は他人、名前も知らない、話をしたこともない。言葉と信号。記録と再生。コミュニケーションを複雑化して、絡みつくネットワークに、善意の集結を夢見ている。どうして、ここまで善良なのか。しかし、アスファルトだって、鉄だって、善良だ。この世に邪悪なものはない。邪悪さを知らないのだ。」
p234
「眩しい夏の光。」
p235
「酸化するだけのプログラム。」
p237
「「えっと、ナイフを。」四季は答えた。」
p240
「「妃真加島へ行きたいのです。」」
p241
「見えるものと、見えないものの差は大きい。不思議なことに、存在するものと、存在しないものの差よりも、ずっと大きいようだ。」
p242
「六つの新しい感覚を認識した。このところの新しい概念の発見は、しかし言葉に還元することが難しい。既に言葉を超えた細分化の領域へ、彼女の意識は到達している。そういった場合には、自分だけの言葉を生み出すか、あるいは、そのニュアンスを抽象のままそっくり記憶するしか方法はない。」
p245
「この島に、自分一人だけだったら、良かったのに、と思いついた。誰も近づけないで、自分だけで生きていく、それも面白そうだ。雑多なことに気を遣う必要もなく、いろいろな自分と対話して、自分の精神空間を隅々まで見てみたい。世界旅行をするよりも、ずっと楽しいだろう。良い考えだ、と彼女は思った。」
p246
「そうか、これが後悔か。四季は少し笑った。」
p246
「科学的な根拠も二十数例挙げることができる。」
p249
「季節からは絶縁された場所だ。」
p255
「結局のところ、精神が躰を支配しているようで、実は、精神は躰に隷属しているのだ。瀬在丸紅子が行き着いた袋小路がこれなのだ。」
p256
「彼は、壁際にある荷物のところへ行き、袋から人形を取り出した。」
p259
「「私の子です。」四季は答えた。」
p262
「「私という人格に、これは関係のないことです。私の躰の問題です。」」
p263
「「早くはありません。私が学位を取ったのも、早すぎましたか?」」
p264
「人の心も、このメカニズムで、波を鎮める。同じ波の反射で、それを緩和するのだ。しかし、ときには、位相が一致し、共振する。生かすか、殺すか、の判断は、その僅かなタイミングの差。」
p265
「波形認識は、確か、瀬在丸紅子の専門領域。」
p266
「チャンスを与えよう。誰が、気づくだろう。頭脳明晰な人たちよ、己を拘束している、形もなく、目に見えることもなく、しかも存在さえしない呪縛の鎖を解きたまえ。」
p274
「四季は人形を本棚に飾り、それから、新藤に近づいた。」
p274
「新藤はナイフを掴み、じっとそれに見入った。彼は佐千朗を見て、それから美千代を見て、そして、四季はを見た。」
p275
「「私がやります。」四季は小声で囁く。」
p277
「「私の産む子が大きくなれば、私や、叔父様をきっと殺すでしょう。」」
p280
「「どう?経験すべきことを経験した感想は?」「思っていたとおりの答えになった計算。」「君の場合、なんだって思ったとおりになるんだろう?」「それだけ沢山の予想を立てて、準備をしているだけのこと。未来が予測できるわけではないわ。」」
p282
「十四回目の夏だった。」