@s_ota92
2026年5月5日
p10
「なんとなくピントが合うまえから、彼女の神経に同調する電波を予感した。くすぐったいような、そして甘いような。それは、犀川創平だった。」
p11
「「雨宿り。」犀川は煙を吐く。それもなしだと言うべきだったと萌絵は後悔する。「これだけ雨が降ると、ニコチンを吸収してくれるかもね。アクア・フィルタ。」」
p13
「「妃真加島の研究所で、停電になったときのこと。」」
p14
「「四年と……。」萌絵は二秒ほど目を瞑った。「七十七日です。ああ、計算が遅くなったわ。」」
p15
「「今頃、真賀田博士はどうしているだろうね。」犀川は呟いた。」
p16
「犀川の言葉の意味がわからなかった。だが、こういうケースは稀ではない。」
p16
「萌絵は犀川を睨みつけていたが、思わず吹き出してしまった。残念ながら、直ったみたいだ。」
p17
「真賀田研究所で四年まえに起きた事件は世界を震撼させた。」
p20
「それを、二度も、しかも、自分の血までも断ち切ろうとした行為に、人々は震撼したのである。」
p23
「そのとき、幼かった萌絵は、真賀田四季を見て泣いたという。」
p23
「四季は明らかに、犀川に関心を持っている。犀川の能力を彼女は知っているのだ。」
p30
「「実は、真賀田四季のことなんだけれど。」」
p32
「「先生は、もしかしたら、真賀田博士と今でも連絡を取り合っているかもしれません。」萌絵は言葉にした。言葉にすると、残酷さはますます際立った。」
p33
「「つまり、もしかしたら、真賀田四季は、創平君のことが好きなのかもしれない、そう言いたいのね。」「言いたくありません。」」
p36
「「いえ、それはわかるの。でもね、正しく理解して、十分に評価することと、愛情は、また別ものでしょう?」」
p37
「「愛情なんて、どこからだって芽生えます。なにかが擦れたときに発生する摩擦熱みたいなものです。」」
p37
「「周りを見てごらんなさいよ。誰か、創平君にアタックしている子、いる?」」
p38
「「どうしてよ?それは、貴女の認識が間違っている。こういうことはねぇ、なんでも包み隠さず、相手に気持ちを打ち明けるべきだと思うな。」」
p38
「犀川も同じようなことを言ったことがある。気持ちなんて伝わらない、言葉を尽くして説明しなければ、コミュニケーションは成り立たない、と。」
p39
「「でもね、本来の世津子さんは、わりかし、こう、きっちりしていて、果敢なところがあって。」」
p40
「儀同世津子は、犀川の妹である。年齢は彼と七歳違い。彼女が兄のことを「創平君」と呼ぶのは、子供の頃には、お互い別々に生活していたためだという。初めて彼に会ったのは、世津子が中学生のときだったらしい。」
p42
「「犀川先生、帰ってきたよ。」国枝は萌絵の窓際の萌絵に視線を移す。」
p43
「機嫌というものが彼女にはない。感情の起伏はほとんど外部からは観察できなかった。」
p44
「「私には私の時間があるの。」洋子はまたぐるりと目を回した。ケーキ屋の人形に似ている。」
p48
「「実は、長崎から帰ったあと、一度だけ、僕は真賀田博士に会った。」」
p50
「振り返ると、長身の男が立っている。年齢は五十前後か。顎鬚を蓄え、茶色っぽいレンズのメガネをかけていた。」
p51
「メールを交換しているときは、彼はずっと海外だったのだ。それも、いつも別の場所。南米かヨーロッパが多かった。」
p52
「「いや、知っているというほどのことではありません。以前に、一度会ったことがある、というくらいです。」「それは、いつのことですか?」「もう、ずいぶん昔ですね。えっと、二十年くらいになるかなぁ。」」
p54
「「各務亜樹良です。」」
p54
「「その各務さんと、真賀田博士の関係については、椙田さん、どうしてご存知なのですか?」」
p56
「「地球の裏側にいると思ったら、すぐに隣にいた、なんてこともあるでしょうね。」」
p56
「「ああ、ええ……。実は、この近くですよ。エヌエス・ランドという遊園地なのですが。」」
p57
「「お母上から、お聞きになったのでしょう?」組み合わせた両手を鬚に当てて、椙田は微笑んだ。」
p58
「「いいえ、なにも。その……、そういったことを人に話すようなタイプじゃないんです。」「うん、そうでしょうね。」」
p60
「「日本じゃなかったら、僕を誘ったと思う。」」
p61
「「それに、こんなことを言ったら、気持ちが悪いかもしれないけれど、なんというか、一度、貴女を見たかった。」その言葉は、世津子には少し重かった。彼女は黙って、椙田の視線を受け止め、同時に確信した。やはり彼は、母のことを知っている。最初から、祖父江七夏の娘として、自分にアプローチしてきたのだ。」
p63
「「君に対して秘密にしようというつもりはない。でも、ある人に、これは言わない方が良いと判断した。」」
p63
「「あの、真賀田博士は、その、犀川先生のことが、好きなんです。」萌絵は口にした。」
p66
「「彼女は、とにかく特別で、誰にも追いつけない。時間が違うと思うしかない。今、君が真賀田四季のことを具体的に考えないように、思考を遮蔽しているのを見て、僕は自問した。自分もそうではなかったかってね。」」
p67
「「そうか、久しぶりに面白い発見だったね、西之園君。」「何がですか?」「ありがとう。」「えっと、先生?」「ん?どうかした?」「会話して下さい、私と。」「うん、ときどき、君って、わけのわからないことを言うね。」萌絵は犀川を上目遣いに睨み、溜息をついた。」
p70
「ただ一つ、研究環境に大きな変化が生じた。萌絵がD1になった四月に、助手だった国枝が、県内の私立C大学へ転出したのである。」
p71
「これは、本当に予想外のことで、しかし、心の奥ではずっと期待していたことで、そして、とんでもない幸せといえるものだった。」
p72
「「犀川先生から、これをいただいたの。」萌絵は片手を差し出して、指を広げて見せる。」
p74
「「それは、つまり、その……、私のことを愛しているっていう、意味です。」」
p79
「明るいうちに佐々木睦子がやってきて、萌絵はキッチンから閉め出されてしまった。」
p81
「「うーん、小さい頃によく預けられたからかな。あまり可愛がってもらえなかったっていう覚えばかり。これ、一種のトラウマね。」」
p83
「ねえねえ、新婚旅行はどこにするか、決めた?」
p86
「「あ、そういえば、えっと、ロバート・スワニィ博士との関係を調べたことがあります。」世津子は言った。それを聞いて、犀川の表情が少しだけ動いた。その小さな変化を萌絵は見逃さなかった。」
p87
「「スワニィか……。」犀川は呟いた。「それは、気づかなかった。」」
p88
「「もちろん、結婚するおつもりがあるのよね?決断なさったのですね?」「あ、はい。」犀川は簡単に返事をした。」
p89
「「私、よく事情がわからないのですけれど、兄と萌絵さん、婚約でもしたのでしょうか?」」
p91
「萌絵の黒い髪は、肩よりも下まで、伸びている。四季の髪型に似ていた。その白い顔も、白い頬も、よく似ている。瞳の色は違う。」
p92
「そう、なにかのプログラムに乗せられたはず。思い出せ。四季は、ファイルにメッセージを残した。そんな真似をする彼女なのだ。犀川のために、犀川に読ませるために、書かれたメッセージ。」
p98
「「どうするかは君の自由だよ。」」
p101
「「考えることだけが、自由なんだ。」犀川は言う。「行動なんて、些細な問題だ。考えたことを、僅かに具体的に、ほんの部分的に試すに過ぎない。完全なサブセットなんだ。考えたことの百分の一だって実現することはできない。行動するだけで時間やエネルギィが消費される。真賀田博士くらいの思考能力を持っていれば、行動はすなわち無駄だ。」」
p101
「「思考は生きていなければできない。肉体を動かすこと、物体を移動させることが無駄だという意味だよ。そう考えている人間が、何故、あんなことを、つまり研究所を抜け出したりしたのか、という問題。」」
p101
「「わからなかった。僕には理解できないものだと考えていた。ただ、ずっとひっかかっていたことは確かなんだ。自由へのイニシエーションといった、ぼんやりとしたイメージでお茶を濁していた。それこそ、彼女のマジックだったかもしれない。でもね、あの人は必ず、自分以外の知能の追従を意識している。その余裕によって、自分自身の位置を持続しているからなゆだ。」」
p102
「「Fになる、というメッセージを残したり、プログラム上でも、形跡をわざと消さなかった。自分よりも、どれだけ人類が遅れているか、そのタイムラグを観測しようとした、といっても良いね。」」
p105
「「どうして、今まで考えなかったんだろう?君のことで頭がいっぱいだったのかもね。」」
p107
「「僕の中の誰かが。」」
p108
「「そう、少し遅れて、あとから気づく。それで距離を測っているんだよ。」」
p112
「「喜多先生。」」
p112
「「こっちは大した用事じゃない。創平によろしく……、っていうよりは、創平をよろしく、だな。」」
p117
「黄色いブロックだった。」
p118
「「これが、真賀田博士が残したメッセージなんだ。」彼は言った。「これ以外にない。」」
p120
「亜樹良は身震いして、顔を上げた。そこに立っていたのは、保呂草潤平だった。」
p122
「彼のために髪を解こうとした自分が可愛いと思った。」
p125
「「真賀田四季とは?」」
p129
「写っているのは、レゴ・ブロックである。」
p132
「普通に聞けば理不尽な話であるが、犀川に限っては、むしろ通常のパターンといって良い。彼の言葉で表現すれば、それが「道筋」なのだ。その道の先に何があるかは、わからないが、とにかくそこを進めば良い、という意味らしい。」
p141
「「椙田さんね。椙田泰男さん。知っている?」」
p146
「「エンジェル・マヌーヴァ?」」
p151
「「レゴの個数。」」
p153
「「久しぶりに良いブレーキングだ。最近、国枝君がいなくて、だらだらしていたんだよ。ありがとう。」」
p154
「「馬鹿みたい。」国枝が言った。」
p157
「そこに並んでいる数字は、明日の日付だ。そして、そのあとに、≪Mondovi≫とあった。街の名前である。」
p159
「「少ないですね。二百三十七個。」「七十九の倍数だ。」」
p162
「一行目は数字で、≪19.01.2001.≫とあり、二行目には≪MNDV,PMNT≫とあった。」
p165
「「僕たちが計算した数よりも、ずっと多かった。三百個以上、なくなっているんだよ。」」
p167
「「婚前旅行ですね。」「え?」「いえいえ、なんでもありません。その前に結婚する手もありますし。」」
p167
「「長かったですよねぇ。」「そう、六年半、七十七ヶ月だからなぁ。」「ホント、長かったわぁ……。」」
p169
「犀川は、もう十三回も「寒いなあ」と口にした。」
p172
「「バイオ・テクノロジィ。」」
p176
「「実は、今日モンドヴィに来ることは、三年もまえから知っていた。これは、真賀田博士が、七年まえに決めたスケジュールなんだ。知っていた?」」
p177
「「気づくとしたら、瀬在丸紅子か、それとも……。」保呂草はそこで少し笑ったように見えた。「七年まえの夏に、真賀田研究所にいた、彼女の息子か。」」
p178
「「それが、僕が知りたかったことだ。真賀田博士が何を考えているのか、僕には興味はない。友人に危害が及ぶのを防ぎたいだけだよ。」」
p183
「「あ!秋野さん!」」
p183
「「エンジェル・マヌーヴァを返しなさい!」」
p184
「「あれ?保呂草さん?」犀川が呟く。」
p184
「「ありがとう。覚えていてくれて。」髭の男が口を斜めにした。「え?先生、この人を知っているんですか?」萌絵はきいた。「ああ、うん。昔から。」」
p187
「「ようこそ。」真賀田四季の声が聞こえた。」
p189
「「何故なら、そちらからアプローチしてきた点が評価できるからです。理解に必要な最小限の条件とは、理解しようとする意志、そして決意。よろしいですか?まず第一に、私の娘の死因です。彼女は事故で亡くなりました。実験中に感電したのです。突然のことでした。これが一点。誤解を防ぐために申し上げますけれど、特に、私は、自分の立場を弁解する必要性を感じませんが、この程度のことで、誤解がもし解けるのならば、理解しようとする意志に対しては、最小限の誠意を示そうと思う、それが真実を打ち明ける理由です。私は、亡くなった娘のために、あそこを出たのです。よろしい?」」
p190
「「第二点は、その事故が、娘の意志によるものだった、ということです。これには確証はありませんけれど、彼女の心理を分析すると、そこへ行き着きます。おそらく自分の意志で、自分の躰を電流に曝したのでしょう。あくまでも、私の推測です。犀川先生、そこにいらっしゃいますね?」」
p190
「「さて、第三点。私は泣いたことがない、と貴方に言いました。覚えていらっしゃるかしら?ここだけのお話ですけれど……。」彼女はそこで少し笑った。「あれは嘘です。私はだって、涙が流れることがありますのよ。化けものではないのです。では、どうして、あんな嘘を貴方についたのでしょうか?不思議ですね。自分でも実に微笑ましいと思っています。」」
p191
「だがしかし、今、初めて、萌絵は彼女が女性だと感じた。あるいは、そこに母性を見たような気がした。」
p192
「「さて、人類はどこまで豊かになれるでしょうか。」四季は話す。「自身の中に、どれだけの自由を取り入れることができるかしら。時間と空間を克服できるのは、私たちの思想以外にありません。生きていることは、すべての価値の根元です。では、どうか心安らかに……。」」
p193
「犀川の片手が動き、萌絵の頭に軽く触れた。子供を撫でるように、その手が数回往復した。嬉しい。目を瞑った。自分は救済されたかもしれない、と彼女は思った。」
p195
「「あの、ここでもう別れよう。」保呂草は犀川に言った。「また、きっと会える。」彼は片手を出す。犀川がそれを握った。」
p195
「「いつだったか、あのときの、西之園君の電話が……。つまり、保呂草さんだったんですね。エンジェル・マヌーヴァ。」」
p195
「「お母さんから、聞いている?」保呂草は犀川に尋ねた。「そう。ずいぶん古い記憶だけれど。」犀川は頷いた。」
p196
「「どんな理由があるにせよ、窃盗は窃盗です。許しませんよ。」「しかし、君は、真賀田四季を許そうとしているじゃないか。」保呂草は言った。「え?」萌絵は驚いた。頭の中に一瞬、閃光が瞬いた。「いいえ、私は……。」「それに、別に僕は、許してもらうつもりはないよ。」保呂草は微笑んだ。「僕自身だって、僕を許したことはないんだ。」」
p196
「「古いお友達なのですか?」萌絵は犀川にきく。「知り合い。」彼は短く答えた。」
p198
「「ドクター・スワニィ?」」
p200
「「フランスへ行こう。」保呂草は囁く。「どうして?」「君のまえの旦那さんのお墓を見たい。」」
p201
「動物は食物を摂取しないと生けていけないことに、犀川もようやく気づいてくれた。」
p201
「「僕たちの社会、今現在の社会には、もう干渉しない、という意味だろうね。」」
p203
「「つまりね、真賀田博士は、お嬢さんの細胞を持ち出したんだよ。」」
p205
「「可能か不可能か、という問題では、きっとない。」犀川は鋭い視線を萌絵に返した。「それを可能にする意志が、あるかどうかだ。」」
p206
「「それは、彼女の価値観であり、モラルだ。」」
p207
「「歴史的に築かれたモラルは、そのほとんどが、生命を守るために、我々が存続するために選ばれた手法の一部なんだ。人を殺してはいけない。人を食べてはいけない。血縁者と交わってはいけない。生命は神聖なものだ。人は神によって作られた。堕胎をしてはいけない。自殺をしてはいけない。しかし……。」」
p207
「「それらはすべて、結局のところ、人の集団を守るためのエゴでしかない。自然を破壊してはいけない、何故か?それは人が生きにくくなるからだ。あらゆる道徳は、そのエゴから発している。それが良い、悪い、という話をしているのではない。誤解しないで。我々のモラルと、真賀田博士のモラルが違うのは、その基盤が、人間社会にあるのか、それとも、彼女自身にあるのか、その差だ。彼女にとっては、自分自身が世界の中心にある。僕たちは、社会の中心にけっして自分を置こうとはしない。最初から、自分の存在を他人に預け、歴史に預け、役割を担うことを恐れ、働きかけをしないよう、避けている。僕たちは、平穏無事に、ただ安穏と生きていければ良い、毎日が楽しければ良い、美味しいものが食べられれば良い、自分だけが病気にならなかったらそれで良い、と考えている。さて、いったい、どっちが本当のモラルだろう?どっちが真のエゴだろう?」」
p209
「ハンカチを出して、涙を拭った。四季も泣いただろうか?人間は、どうして泣くんだろう。どうして、どうして、どうして、それを言うのが人間?けれど、涙を見てくれる人がいる。疑問を受け止めてくれる人がいる。それだけで、充分ではないか。彼女は目を瞑って息を吸った。静かに。自分が泣くことを許すように、沢山のことを許さなくてはいかない、と彼女は思った。」
p212
「「そのときは、エンジェル・マヌーヴァを売ろう。」保呂草は微笑んだ。「僕ら、二人くらいは食っていける。」」
p215
「「実験をしたいとき、ちょっとした設備や人員が身近にあって、すぐに使える、というくらいの価値だよ。だけど、そうだなあ、たとえば、そういうときは国枝君に頼めば良い。君だって、そのうち、どこかの大学の先生になるだろう?僕はもう引退して、ひっそり山小屋にでも籠って暮らしたいな。」」
p216
「「私と結婚すれば、仕事なんてなさらなくても良いのよ。」髪を持ち上げながら、独り言を口にする。」
p219
「「真賀田博士。」」
p219
「「お話よ。私の娘の父親が誰か、貴女は知らないでしょう?」「え?」「それが、昼間の地下室では言えなかった第四番目。」」
p220
「「いいですか。この思考の飛躍、この想像の幅。私が言っていることがわかる?貴女が縛られているものは、貴女自身の歴史。貴女自身の惨めさなのよ。捨てなさい、そんなものは。もっと自由になれる。貴女にはその能力がある。自由を勝ち取るのです。」」
p225
「なんという、儚い幻想。四季の言ったとおりじゃないか。自分で自分を制限して、思考を縛り、想像を抑え、不自由さと惨めさを、自分で演出しているだけ。」
p228
「愛する人を見つめることは、結局は、孤独を知ることであって、そして、きっと、自分を知ることになるのだ。」
p235
「「え?ロバート・スワニィ?」」
p237
「国枝桃子も、あの男を知っている。エンジェル・マヌーヴァが盗まれた場所に二人ともいたからだ。」
p241
「「全然違う。凄い、諏訪野みたい。」」
p243
「「あ、西之園さん、新婚旅行にいったんだって?」」
p249
「「世津子の母親が、保呂草さんのことを、よく知っているんだ。だから、面倒なことになる。彼女、なにもかも母親に話すからね。」」
p256
「「先生のお母様に、一度お会いできないでしょうか?」」
p262
「「そう……、私、抜きですか?ババ抜きってことね。」」
p266
「「はじめまして、瀬在丸紅子でございます。」頭を上げ、彼女は微笑んだ。」
p267
「「会ってくれって、あの子から言われたとき、どうしようかなって思いました。今も、どきどきしているわ。」」
p268
「「懐かしい人に会った、と……。」」「あ、保呂草さんのことですね。」
p269
「「エンジェル・マヌーヴァのことでしょう?」」
p270
「「許すか、許さないか、どちらかに決める必要はないのでは?」」
p272
「「眺めていても、いくら近くで見ていても、その理想には近づかないわ。」」
p272
「「私は、真賀田四季さんから学ぶものはない、と思ったわ。」紅子はゆっくりと話す。」
p273
「「いいの。ごめんなさい。そんなふうに呼ばれることがまたあるなんて、想像もしていなかったものですから……。」「はい、私も、口にするのに、とっても勇気がいりました。なん度も練習してきたのですけれど。」」
p274
「どうしても、あの瞳に見つめられると、話さずにはいられなくなる。そんな効果があるようだ。しかし、それならば、どうして犀川はあんなに無口なのだろう。そうだ、子供の頃の犀川の話を聞かなくては……。」
p276
「「ちょっと、林さん。」」
p276
「「これ、私の家にもあります。ずいぶん、昔のものでは?」」
p278
「「もしかしたら、知らない方が、愛せるかもしれません。」」
p279
「「貴女が、太陽を好きになったか、扇風機を好きになったか、の差です。」」
p280
「「それは、人を許すということですか?」「いいえ、自分を許すということ。」「自分を?」「そうよ。」紅子は言う。」
p280
「「人は、自分が許せないときに、悲しくて泣く、そして、自分が許せたときに、嬉しくて泣くの。」」
p282
「秋でもないのに、紅葉だ。」
p282
「なにかの答を得たような気がする。何だろう?どんな問題だったかしら?解けてしまったときには、問題も消えている。それが、本来の問題だ。消えたあとに、優しい気持ちだけが残る。」
p285
「バランスを取ろうとはせず、極端な状態を望んでいるようだ。その方が自分は安心できるのかもしれない。そう、バランスが取れている状態とは、シーソーみたいに、最も不安定な状態にほかならないからだ。」
p285
「真賀田四季が、レゴのブロックを使って組み立てた冷却装置に関しては、瀬在丸紅子に相談にいったことがあった。」
p289
「「どこへでもついていくよ。」彼女のその口もとを彼は見た。「墓場の一歩手前までだろう?」」