ゆらゆら "菜穂子 他四編" 2026年5月17日

ゆらゆら
ゆらゆら
@yuurayurari
2026年5月17日
菜穂子 他四編
堀辰雄「ルウベンスの偽画」「燃ゆる頬」「楡の家」「菜穂子」「ふるさとびと」。 「ルウベンスの偽画」は軽井沢で片山母娘がモデルという女性達との…というのは繰り返し描かれる話だけど、順番からしてもより習作感があった(自作の詩が挿入されるのも面白い)。現実の想う人より心象の中の相手の方が本当に感じられるという逆転はプルーストっぽくもあった。 「燃ゆる頬」は、確かに今で言うBLのような少年同士の愛(未満)の話で、堀辰雄はこんな作品も書いてたんだなあと興味深く、「最後の一撃」という表現や全体の切迫した雰囲気が良かった。冒頭の蜜蜂の受粉の話は、シャルリュスのマルハナバチのくだりを想起させ、これまたプルーストの影響なのか。 「楡の家」は、菜穂子の母(未亡人)の視点で描かれた日記という体の「菜穂子」前日譚。話の中心は、作家・森於菟彦に想われて戸惑う語り手のこと、そしてそこから派生する母娘の葛藤・すれ違い。森のモデルは芥川らしく、小説を読む時にどこまで実在の人物を思ってよいのか、少し複雑な気持ちにも。 「菜穂子」は、堀自身が「生まれてはじめて本当に小説らしい小説を書いた」という作品。視点人物が、菜穂子の幼馴染で建築家の卵・都築明、菜穂子の夫・黒川圭介、そして当の菜穂子の3人で、各人の思いが交錯し、なかなかの読み応えだった。「結婚した女」のしあわせの追求とその不可能性を感じたり(不可能の中での追求とも読めるのか)。 「ふるさとびと」は、「菜穂子」の脇役とも言える、おようを中心に、追分の学生宿・牡丹屋(モデルは油屋?)周辺の村の歴史、軽井沢の発展なんかも交えて、そこに暮らしきた人々の様子を素朴な味わいで描く、感じのよい小品だった。菜穂子三部作とも位置づけられるようだけど、わりと後期の作らしい。
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