プールに降る雨 "レイシズム (思考のフロンテ..." 2026年5月17日

レイシズム (思考のフロンティア)
ツイッターのフォロイーが挙げていた同シリーズの『ジェンダー/セクシュアリティ』が貸出中だったのでまあいいかと思ってやはり興味のある分野であるこちらを借りたのだった。 第1部で人種差別主義とは何かを概説し、第2部でそもそも言語システムに組み込まれているという、差別感情を引き起こす構造を浮き彫りにする。そして第3部ではそれらの概念を踏まえ、発禁処分になったという永井荷風の『悪寒』を読み解く実践編になっている。 短いし読みやすいので入門としてよい。要点をまとめながら再読したことで理解が大変深まった。 第3部のテクスト批評が細かな言い回しも見逃さない精緻な分析がほどこされていておもしろかった。この『悪寒』という小説?エッセイ?は、うっかりすると永井荷風って西洋かぶれのめちゃくちゃ嫌なやつじゃんと読めてしまうのだけど、筆者によると意図的に書かれたのだという。だとしたら永井荷風ってめっちゃすごいじゃんとなる。 ──────────────── Ⅰ 「人種差別主義」とはなにか “人種差別とは、現実の、あるいは架空の差異に、一般的、決定的な価値づけをすることであり、この価値づけは、告発者が自分の攻撃を正当化するために、被害者を犠牲にして、自分の利益のために行うものである。” 『エンサイクロペディア・ウニヴェリサリス』/アルベール・メンミ ・狭義の人種差別主義→生物学的差異に基づく。19世紀後半、帝国主義的植民地支配を正当化。 ・広義の人種差別主義→生物学的差異にかかわらない。 差異を価値づける。(優越性/劣等性) 否定的差異の社会的かつ歴史的一般化と全体化。→個別性を排除、普遍的なものとして実体化。 暴力的に支配する側の、不当に利益を得ているという罪悪感・負い目、および特権を奪われる不安・恐怖。→人種差別主義の論理によって自己正当化・歴史的因果関係に対する思考停止。 異質性嫌悪(ヘテロフォビア)=見慣れぬ他者に対する恐怖。自らの攻撃性を自覚しているがゆえに、他者から攻撃されるのではと不安をおぼえる。 動物の場合、相手が自分より強い→逃亡/弱い→攻撃 ネイティブ・アメリカン、アイヌの人々の神話。 自分たちが命を奪った動物を神格化。罪と他者性(差異)を認めることで共生する。 Ⅱ 言語と差別 人種差別主義の根本にある言語システム。 社会からの排除と囲い込みを可能にする「汚い」「臭い」をキーワードに、フロイトの口唇期・肛門期の理論をもとに人間の言語習得の過程を説明。 「キタナイ!」「クサイ!」とは、 ・社会的な規準、宗教的価値観、性差の文化的規準、排泄行為をめぐる習慣、浄と不浄の空間分類、排除と囲い込みの論理等、社会規範の網の目の役割を果たす。 ・恐怖と不安をもたらし、欲求不満=フラストレーションを引き起こす。また、他者に対する攻撃性を持った言葉。 ルネ・ジラール=赤坂憲雄のスケープゴート理論に対する佐藤裕の差別論。 差別者と共犯者との間で行われる言語コミュニケーションによる同化→被差別者に対する見下しと他者化の構造の維持・再生産。 同化させられてしまった共犯者が自己正当化するために偏見を形成(原因と結果の転倒)。 「われわれ」のカテゴリー化(=同化)をすることで他者化が可能になる。 有徴である排除される側(=客体)と無徴である排除する側(=主体)の非対称性。 〈やってはいけないこと〉を「なぜ」と問うことで〈やってよいこと〉を明らかにする。 否定的な性質・他者性の記号の原因を言語化→肯定的な性質・「われわれ」の記号を明示(=カテゴリー化)。 排除される恐怖から「言語の意味の体系」に同化する。 サイード『オリエンタリズム』 オリエンタリスト=書く人/オリエンタル(東洋人)=書かれる人 異文化として表象する行為=「われわれ」の言語システムのなかで二項対立(紋切り型)の否定項によって対象化。 差別を乗り越えるために、「なぜ」と問い続けることで政治的な力関係の非対称性を言語的・合理的に認識する。 自らが使用する言語システムに常に批判的であること。 Ⅲ 人種差別主義の言説 永井荷風『悪寒』 オリエンタル(東洋人)を自己として描いた典型的なオリエンタリズム的言説。 コロンボからシンガポールへ到着したという地政学的差異によって、それまで欧米列強に同化していた自己が、まさにオリエンタリズムの対象であるオリエンタルであることを自覚させられる。 「キップリング」を思い、「熱帯の美」に酔わされていた「我が心」。 野蛮から文明に至る植民地主義的な少年向け冒険小説(キップリング)。 大衆娯楽によって表象された熱帯をめぐるオリエンタリズム的言説。→欧米列強の欲望。 主人公は近代国民国家である大日本帝国を嫌悪の対象とする。 「ひどい力役の国」の一員であることに気づく。→〈かれら〉と〈われわれ〉という非対称な関係の逆転。 脱亜入欧を果たした〈われわれ〉=読者も東洋の一員であるということ。 甲板で目撃した三人の日本人親子連れ。 大日本帝国のあるべき男性像を肯定的な言葉で描写しながらその価値観を転倒させる。 野蛮と家父長制を体現する母と子。 現地人に向けられた典型的な人種差別主義的嫌悪のまなざしを日本人の母親に対しても同等に向けることで「大日本帝国」の女性差別を浮かび上がらせる。 “欧米列強に伍する「大日本帝国」の一員”として、“フランス語の翻訳語の日本語”で現地人に対するオリエンタリズム的言説を書く。 ↓ “同じ日本人”を対象にして“日本語”でオリエンタリズム的言説を書き続けることでその矢印が自分自身に向かう。 ↓ 言語システムが崩壊し,日本語はもはやフランス語の翻訳語として機能しなくなる。→フランス語が翻訳できない事態に。 自己植民地化を推し進めた国による自己オリエンタル化。 固定化された感情的二項対立(思考停止)をアイロニーによって突き崩す。→人種差別主義に対抗する言語実践。
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