
高卒派遣社員
@hidari_s
2025年3月20日

孤独のグルメ 【新装版】
久住昌之,
谷口ジロー
読み終わった
あまりにも有名な原作漫画を、遅ればせながら読んだ。
漫画で描かれる井之頭五郎は、説明もなく突然「腹が減った男」として登場する。輸入雑貨の販売業をしていること以外は、読者にはわからない。ちなみに主人公の職業設定は、自由に時間が使える人物である必要があったから、という理由らしい。(※要出典)
すでにドラマシリーズを知っている身からすると、物語の中に出てくる料理はそれほど惹かれるものはない。やはり松重豊が食べるあの絵面が刷り込まれている影響だと思う。
その前提を抜きにしても、主人公のモノローグを物語の推進力として進めつつ、街の空気を正確に切り取った画力と、ところどころに挟まれるなもなき人々の心情描写が見事である。
第九話に出てくる江ノ島の食事処では、テーブルの上に今では見ることの少なくなった「ルーレット式おみくじ機」が置かれていた。昭和生まれ平成育ちの私でさえ懐かしさを感じるのだから、作者たちの世代の読者であればなおさらだろう。
井之頭五郎の半生についてはほとんど明かされないが、「腹が減った男」にも忘れられない恋愛があったことが描かれ、別れた理由にも彼なりの美学があったのだろうと推察される。それほどページ数を割かれているわけではないが、キャラクターに奥行きを与えていると思った。
『孤独のグルメ』は日本発のビッグIPビジネスとして、今やアジアを席巻しているが、原作のテイストはその片鱗を微塵も感じさせない、素朴な味わいだった。
