
高卒派遣社員
@hidari_s
2025年3月21日

読み終わった
昭和41年に建てられた新橋駅前ビルと、昭和46年に建てられたニュー新橋ビルで商いを続ける人々の姿を追ったルポルタージュ。
戦後の闇市の流れを汲む世代から続く飲食店や、妖しい中国マッサージや日本人によるサービスをウリにする風俗店まで。ビルの外側を行き交う人々は変わっていくが、内側にはありし日の昭和の匂いが残っている。
戦後まもない時代に人々がひしめき合っていたマーケットを立ち退かせたビルは、再開発のためにその歴史に幕を下ろす日が近づいている。再開発に賛成する人もいれば、反対する人もいる。著者はその声に耳を傾けながら、人々が暮らしてきたビルそのものの空気を活字として残している。
おそらくGoProをつけてビルの中を歩けば記録として残すことは簡単なのだろうが、活字には記録だけではなく記憶も後世に残す意義があるのではないかと思った。
地方在住の読者にとって新橋は働くサラリーマンの代名詞と言えるような場所だが、そこには働く人々の受け皿となってきた無数の生活があることを意識させる。私の住む地域にはかつての時代を感じさせるものがほとんど残っていないだけに、逆に東京にそれがあるのが羨ましく思えた。いずれにしてもタイムリミットは残りわずかであり、個人の体験として覚えておきたいなら、早めに足を運ぶのが賢明だろう。