@s_ota92
2026年5月22日
p103
「それは、ギリシャ文字の≪α≫だ。」
p126
「そのとき、ほんの一瞬だけ、良い香りがした。」
p137
「「そのうち話そうと思っていたことだけれど、来年は、別の大学へ行こうと思う。」」
p139
「たとえるなら、夢を見たあとのような、なにか大事なものを忘れてしまって、それが思い出せないときに似ている。なくしてしまったものに気づくとき。そう、喪失感だろうか。」
p156
「国枝は、片手を箱の中に入れ、ケーキを一つ摘み上げると、立ったままでそれを食べた。二口くらいでケーキは消えてしまった。」
p177
「「その街で出会った人で、同業者の人がいたんです。年齢も私と同じくくらいなんですけど、その人が、かなり詳しいんですよね。その街に最初からいるって言っていましたし……。赤柳さん、その人に直接会われたら、いかがですか?」」
p178
「「えっとね、島田文子さんです。アヤは、文章のブンという字です。」」
p179
「私は初めて人間というものが美しいと思った。ずっと、それは醜いものだと私は考えていたのだ。」
p181
「でも、人間は躰ではない。この人間の形をした躰の中にいる存在なのだ。私もそうだ。少なくとも、そこは信じている。人間はここにいる。ただ、この躰から出られないだけなのだ。」
p207
「「そういう非常にゆったりとした時間軸で考える必要がありそうだ、ということです。」」
p215
「「赤柳さんは、時間的にゆっくりとしている、それが、今までにない特徴だ、みたいなことを言っていましたが。」「卓見だ。」犀川は即答した。」
p217
「「まあ、よくわかりませんが、僕がイメージできることといえば、彼女は、新しい生きものを作ろうとしているんじゃないか、ということですね。」犀川は言った。」
p220
「「現在の個人は自由な行動の権利を持っているはずなのに、ほとんど考えもせず、ただ、社会に合わせて生きている。いうなれば、細胞に近い存在です。さて、抽象的な話でしたが、わかりましたか?」」
p221
「「二つあると思います。一つは、それが、つまり成長というものだからです。個人の内側から、外側へ視野が広がっていくことが、成長という現象の最も顕著な観察傾向です。もう一つは、他者に干渉することで、自分への干渉を望んでいるのだと思います。」」
p222
「「まあ、俗っぽくいえば……、愛されたい。」」
p222
「「ということは、地球には、えっと、二人しかいない、ということですか?人類と、真賀田四季と。」」
p223
「「博士は、ただ、地面に豆を撒いて、そこに群がってくる鳩を観察しているだけです。鳩がどう動くのかを見ているのが楽しいのでしょう。」」
p224
「東寺昌子の入院中の夫、東寺健夫は、地元で建設業を営んでいたのだが、以前に殺された神居静哉の館を建設した人物だった。」
p230
「「人生にも、そして人間の社会にも、常に必ず障害はある。私たちの前に立ちはだかっているもの、それは、山のようなものだね。乗り越えるしかない。眺めていたって、消えることはないんだから。」」
p242
「人間なんて不確定なものだ。気持ちなんて簡単に変わってしまうことだってある。けれど時間は取り戻せない。」
p243
「本が読みたくても読めない人たちは多いはずだ。それ以前に、生きていくこと自体が困難な状況がある。そういう報道をときどき聞く。聞くだけだ。どうすることもできない、と目を瞑る。自分たちの周りに広がっているのは、そういう遠くのことに目を瞑るしかない静けさだ。」
p246
「刺々しいのは、いつもの海月及介と同じだ。違う。刺々しくもない。むしろ、いつもより、ずっと優しいではないか。」
p249
「時田玲奈の死亡を知らされたショックは大きかった。メモが残っていたというのは、遺書という意味だろうか。」
p254
「島田文子は、かつて真賀田研究所にいた。」
p255
「「目薬です。」」
p259
「「そうでもない。決められないから、いろいろもっと沢山見てみよう、というだけだ。」」
p275
「大丈夫じゃないよ。くそう!どうして、言えないんだ?言葉だけじゃないか。言葉だけだからだよ。こうなったら……、えっと、もう、どうにでもなれ。」
p279
「「素直に考えた方が良いこともある。」」
p279
「「ねえ、手をつながない?」「どうして?」「怖いから。」」
p282
「わかるでしょう?私の気持ち。その言葉が思い浮かんだ。でも、言えない。自分でも、そんな卑怯な言葉は駄目だと思った。」
p286
「「おそらく、どうすれば良いかがわかるのは、何十年もあと、もしかしたら、次の世紀かもしれません。だから、私たちに今できることは、記録を残すことだと思います。私たちの一生では、追えないレベルのイベントなのです。」」
p287
「「たとえばですね。ナイフや銃弾が躰を貫けば、怪我をします。命を落とすこともあります。でも、もし、ナイフや銃弾が、もっとゆっくりで、何十年もかかってゆっくりと躰を通過したら、どうですか?」「は?」赤柳は口を開けて、そのままの顔になる。「目にはとても見えやすい。考える暇も充分にある。防ぐこともできそうな気がする。ところが一方では、放っておいても、怪我はしないでしょう。それは躰と同化し、きっとそのまま生き続けられる。」」
p288
「「ということは、たぶん、その時間や寿命については、なんらかの解決が既になされているのでしょう。」」
p293
「貴方のことが好きです、なんて言えない。そんな権利、はたしてあるのだろうか。」
p293
「だから、曖昧にしかできない?それも変だ。曖昧にしたのは、自分に逃げ道を残しているだけではないのか?自分を追い込みたくないだけではないのか?」
p294
「「どう考えるのも、どう行動するのも、個人の自由だけれど。」」
p294
「「加部谷は、僕には関わらない方がいい。」」
p294
「「言葉どおりだよ。」海月は静かに言った。これ本優しい響きの海月の声は、今まで聞いたことがなかった。」
p297
「二度と顔を見合うこともなかった。眼差しを交わすことはもうなかった。もう、そんなことはしてはいけないのだ。そのルールがたった今、議論の末に成立したみたいだった。」
p301
「二人は夜の道を歩き続けた。星たちのように会話もなく。」
p306
「その言葉たちが、木の枝の葉っぱみたいに思えた。夜の中で、動かず、沢山集まって、静かに、じっとしている。光に照らされる無数のものたち。透けてしまうほど薄っぺらくて、すぐ散ってしまう存在。言葉、言葉、言葉、葉っぱ、葉っぱ、葉っぱ。沢山ある。沢山ありすぎる。綺麗なものも、汚いものも。正しいものも、間違っているものも。美しいものも、醜いものも。強いものも、弱いものも。そんな無数の対比が、ものの姿をして、形をなして、まるで一つのもののように、存在を見せるのか。対比があるからこそ、エッジが見えるようになるのだ、と私は考えた。対比がなければ、消えてしまうのものたち。対比がなければ、散ってしまうものたち。」
p311
「「そう、自分の力で解決しなきゃあ。ね?わかったでしょう?私に頼っていないで、ちゃんと自分で考えて、自分で行動しなさい。」」
p313
「私の手は血に塗れていたけれど、それは、生まれるときと同じく必然だった。血を流さずに生まれるものはないのだから。」
p326
「背中には、大事なパソコンの感触がある。引越屋に任せたくはなかった。時田玲奈が残してくれた最新型のものだったからだ。」