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@_angelicbe_
2025年3月21日

夢を与える
綿矢りさ
読み終わった
誕生の経緯から18歳になるまでの、とある女の子の定点観測のような小説。彼女は劇中、幼少期から同じ企画の中でその成長を視聴者に見続けられるCMキャラクターとして起用されるのだが、読者が同じように彼女の人生を追い続けるような体験のできる構成が巧みだった。ずっと誰かの意図の中で生きる人生。
起きてる事実のエグさの割に当事者がこざっぱりしててあんまり喰らっていない、みたいなことは現実に結構あって、多分事が大きすぎて実感がなくて他人事のように受け取っているからなんだけど、綿矢さんの書く人物像ってそういうところが生々しくて上手い。そして起きている事はちゃんとエグいのに、何故かドロドロしたものが心の中に流れ込んで来たり過度に喰らう事がないのは、なんでなんだろうなあ。(それは先に書いた、起きてる事の大きさで話を進めようとするのではなく、あくまで人物起点の描き方をしているからなのだろうけど)
去年読んだ江國香織しかり、そういう描き方をする小説はちまちま読んでも物語がぶつ切りになる感じがしないので、途切れ感が気になって今まであまり小説読んで来なかった自分にとっては向いてるっぽい。
とはいえラストはほぼバトルシーンのようで一気に読んだ。というかどんなに世間話の皮を被っていてもビジネスが絡む話はほぼバトルなのである。少しの言葉尻や声色や表情で踏み込ませない領域を相手に示したり、どんなに柔らかい言葉でもその隙間を逃さず攻めてくる。穏やかな戦争。わかりにくくてタチが悪く大嫌い。夕子って仕事から家庭まで、それが繰り広げられている場所でずーっと育ってきた割に素直に生きていて本当に自分が貫きたい事を見つけられていて、かなり強い方だと思う。でもどんなに強く人間も、言葉や憎悪で殴られ続ければ、普通に壊れるのだ。作中、何人か彼女が壊れかけていることに気が付いている大人もいた。気が付いてるなら助けてやれよと思うけど、それが叶わないシステムなら、近しい人間がケアするしかない。
火車みたいな日常の方が自分を上手く回していけるあの感覚は何なんだろう、亀裂にすら気付かないくらい走り続けていた方が心は健康かもしれないけど、それは多分、いつか自分を自分じゃなくしてしまう。
犬童さんのようなキャリアの方が解説書いてるのも良かったです。