にっかり青江 "君と夏が、鉄塔の上" 2026年5月22日

君と夏が、鉄塔の上
爽やかな、一夏の青春(ジュブナイル)小説。  鉄塔を愛する地味な主人公。破天荒な帆月。幽霊が見えるという特殊体質の比奈山。そんな少年少女たちが織りなす、一夏の大冒険。 季節はまだ夏には早かったが、あらすじの時点で惹きつけられ、読み始めずにはいられなかった。  年を重ねると、こうも彼らの初々しさが眩しく感じられるものだろうか。小説という媒体は、映像とは違って自分の内面で物語を追体験できる。感情移入さえしてしまえば、彼らの青臭さすらも愛おしく感じられるから不思議だ。  もしこれが映像化されるとしたら、実写映像だったら少し気恥ずかしくなってしまうかもしれないが、アニメーションならこの繊細で透明感のある空気感もより鮮やかに映えるだろう。ぜひアニメーションでお願いしたい。  終盤、決死の覚悟で挑む主人公の姿は純粋にかっこよかった。それに比奈山が迷うことなく寄り添うシーンには心底惚れさせられた。帆月もまた、持ち前の行動力で煮え切らない男子2人を少しずつ変えていく。彼女の破天荒さの裏側に潜む苦悩を知ると、より一層彼女たちの絆が尊く感じられる。  不完全な3人が、ほんの少し、でも確実に大切な一歩を踏み出す成長の記録。完璧ではないからこその「未熟さ」が瑞々しく描き切られていて、爽快かつ眩しい青春の記憶に触れたような読後体験だった。また夏の空を見上げるとき、ふっと手にとって読み返したい一冊だ。  文庫版の特典として収録されていた短編も、本編の余韻を深めてくれる素晴らしい贈り物だった。その後の3人の、どこまでもピュアで甘酸っぱい会話を読んでいると、忘れかけていた青春時代の感覚を鮮明に思い出せた。
読書のSNS&記録アプリ
hero-image
詳しく見る
©fuzkue 2025, All rights reserved