
にっかり青江
@faizRDM
- 2026年4月10日
おさまる家 井田千秋 作品集井田千秋気になる - 2026年4月9日
読み終わった人生に失敗し、詐欺を生業にしている中年男性二人のもとに、若い女性二人、青年一人、そして猫1匹が転がり込み、5人と1匹の奇妙な共同生活が始まる。やがて、それぞれの事情が複雑に絡み合い、一大ペテン”アルバトロス作戦”が幕を開ける。 中盤以降はとにかく面白すぎて目が離せなかった。興味に負けて「寝る前にちょっとだけ」とアルバトロス作戦を読み始めたが最後、深夜3時まで一気に読み進めてしまったほどだ。稀に出会う、まっさらな状態でこの物語に出会える人が心底羨ましくなる傑作の一つになった。 ただ序盤は、設定が重くて読むのが辛かった。 人生に敗れた二人の中年だが、特に主人公のタケさんは妻と死別し、娘も借金取りによって半ば殺されたような状態で物語がスタートする。折に触れてその過去を回想する場面があるが、実際に幼い娘がいる身としてはいたたまれない気持ちになり、胸が締め付けられて思わず本を閉じてしまいたくなる瞬間もあった。他のメンバーもそれぞれに過酷な背景を抱えていて苦しい。さらに、アルバトロス作戦を決行する引き金となる事件も非常に衝撃的だった。 読み終えた今となっては、あの見事な結末のために不可欠な描写だったと思うが、これから読む人にはどうか途中で挫折しないでほしい。最後には決して悪くない、むしろ最高の読後感が待っているはずだから。 「理想的な詐欺は、相手が騙されたことに気が付かないこと。理想的なマジックは反対で、相手が騙されたことを自覚できないと意味がない」 作中でとある人物が何気なく語るセリフだが、作者は実にみごとなマジシャンだった。 - 2026年4月6日
博士の愛した数式小川洋子気になる - 2026年4月6日
言語化するための小説思考小川哲気になる - 2026年4月6日
- 2026年4月3日
[映]アムリタ 新装版野崎まど読み終わった登場人物の造形がやや漫画的で大味な印象を受けるが、もともとライトノベルに親しんでいた私にとっては読みやすかった。こうした作風に抵抗がある人は戸惑うかもしれないが、そこでページを閉じるのはもったいない。 かなり昔に読んだ作品なので記憶に自信はないが、常人の理解を超えた天才が、何かとてつもないことを行っているという「不気味さ」には、『すべてがFになる』を彷彿とさせるものがあった。 タイトルに「[映]」とある通り、本作は映画をテーマにした物語だ。 主人公たちが、天才監督の企画した「神の映画」を撮影する。これが物語の核になっているのだが、その全貌はなかなか見えてこない。序盤からその映画の凄まじさが語られるため、完成した映像が文章でどう表現されるのか期待に胸を膨らませる反面、「本当にそんな映画を活字で描き切れるのか」という一抹の不安を抱えながらページをめくっていた。 (以下、少々ネタバレを含みます) 物語も終盤に差し掛かると怒涛の展開が続き、抱いていた不安など完全に杞憂に終わった。主人公が謎を解き明かすいわゆる解決編でカタルシスを得て、このまま美しい幕引きを迎えるのだと思った矢先――「私は完成した『アムリタ』を、ある人に見せました」からの衝撃のラスト。主人公とシンクロするように激しく動揺させられた。 キャラクターたちの個性豊かな掛け合いで楽しく読ませてくれる一方で、終始どこか不気味な気配を纏いつつ、ミステリーとしての骨格もしっかりした良作だった。いくつか引っかかる点もあったものの、それを有無を言わさぬ引力でカバーするような圧倒的な熱量を感じた。 - 2026年3月30日
ババヤガの夜王谷晶読み終わった日本人初のダガー賞受賞作と聞いて、ミステリー好きとしてつい手に取ってしまった。 私はミステリー小説を読むとき、なるべく前情報を入れずに読むようにしているので、今回もあえて何も調べずに入った。 作者のインタビューを少し見た程度で、LGBTQ+に関わる要素があることは薄々知っていたが、読んでみるとその部分は予想以上に自然に織り込まれていた。 昨今のアメリカドラマなどでよく見られるような、価値観の強引な押しつけや説教くささは一切なく、ごく日常的な描写として溶け込んでいた。 「ここがそうなんだな」と気づく箇所は確かにあったが、違和感はまるでなく、すっと腑に落ちるような書き方だった。 冒頭からスピード感のある展開と、生々しく目を背けたくなるような暴力描写が続き、「シスターバイオレンス・アクション」という帯の言葉に偽りなしという印象で、一気に物語の世界に引きずり込まれた。 面白さの勢いのまま後半まで一気に読んだが、中盤あたりでふと「これは確かに面白いけど、ミステリーとしてどうなんだろう?」という疑問が頭をよぎった。 しかし、最後まで読むとしっかりミステリーの要素も詰まっており、思わず「えっ!」と声が出るような展開もあって満足した。 未読の方には、ぜひネタバレを一切見ずにこの世界に浸ってほしい。 特に、雨の降る夜に一人で静かに読むと、没入感が格段に高まっておすすめです。 - 2026年3月26日
凜として弓を引く碧野圭読み終わった弓道に興味があったので、書店でなんとなく手に取った本書。内容はほとんど知らず、「爽やかな部活ものかな」と軽い気持ちで読み始めた。 予想に反して、社会人が多く所属する弓道会を舞台にした物語で、そこがとてもいい味を出していた。世代も立場も熱量もバラバラな人たちが、弓道を通じて緩やかに繋がっている。 そんな環境の中で、高校生の主人公は大人たちとの距離感に戸惑いながら、少しずつ前へ進んでいく。意見を言うことすら気後れしてしまう様子は、「若い頃は自分もそうだったな」と素直に共感できた。また、そんな主人公を理解し、そっと背中を押してくれるまわりの大人たちにも、自分が大人になった今は共感できる。 勝利や団結を熱く描くような話ではないけれど、等身大の高校生の心情が丁寧に描かれていて、昔の自分の経験をふと思い出させてくれる。読み終わったあと、穏やかな気持ちになれる一冊だった。 - 2026年3月24日
大地の五億年藤井一至読み終わったどこにでもある土にする土にフォーカスされた本。 土なんて地味で、そこにあるのが当たり前だとなんと無く思っていた。 そんな固定観念を吹き飛ばしてくれている。 地味なんてとんでもない、土の歴史は生命の歴史そのもの、なんてドラマチックなんだろう。 今は自然の豊かさの象徴のような木も、あと少しで地球の生態系を完全に破壊しかけた。その時、突如現れて救った英雄がまさかのキノコなど。 我々の現在の食生活に密接に関わり、資源の形成にも関わり、まさに生命の源のような土が持つ歴史に思いを馳せることができた。 研究者の本ではあるが、平易な文でわかりやすく一気に読んでしまったが、再度じっくり読んでみようと思う。
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