@s_ota92
2026年5月23日
p14
「山吹は、今年の四月から国立M大学に助教として勤務している。」
p15
「今は東京にいる海月及介である。山吹の親友であり、加部谷や雨宮の同級生だったのだが、途中で編入学して、W大に移ってしまった。」
p17
「「結論急いではいかんがね。不便だと考えるのがおかしい。鶏小屋の鶏みたいにな、目の前に餌があるのが便利か?わざわざ餌を探しにいくのが不便か?そういう不自由な便利さにならされとるのが都会人だがね。まあ一種、家畜みたいなもんだわさ。」」
p21
「店員がカウンタへ戻っていくのを見ながら、水野は名刺を取り出し、それを椙田に手渡した。」
p23
「「あ、いや、違いますよ。勘違いしないで下さい。ああ、そういえば、彼女の叔母さんに見破られましたよ。えっと、佐々木っていう元知事の奥さん。」」
p25
「「犀川先生にあったことは?」「え?あ、ええ、ほんの少しなら。」「ご両親は?」「誰のです?」「犀川先生の。」「いえ、知りませんよ、そんなこと。どうしてですか?」「お元気かな、と思って。」」
p27
「「ちょっと調べたんですが、そこの教祖が、βと名乗っているらしいんです。」「ベータ?ああ、つまり、神の次に偉いっていう意味で?」」
p29
「「なんだったら、紅子さんに会ってきいてみたら?」「瀬在丸さんですか?彼女、その方面にお詳しいのですか?」「僕よりはね。最近会った?」「いいえ、全然。それって、たしか、このまえのときも、ききましたよね。」「そうだったかな。」「そうかぁ……、今なら、おばさんに戻ったから、久し振りに会ってみようかな。びっくりされるでしょうね。」「しないと思うよ。」」
p35
「一度だけ、山吹早月の実家がある孤島へ、みんなで遊びにいったことがあった。「お姉さん、お元気ですか?」」
p35
「「今度、西之園先生のお祝いのパーティをすることになったよ。」「あ、結婚の?」「結婚?違うよ、准教授になられたから。」」
p41
「今は、言葉が綺麗になった分、なにもかもが曖昧になって、その曖昧さこそが人を安心させているようだ。」
p50
「水野は思わず、「あっ」と声を出すほど驚いた。その三人をよく知っていたからである。向こうも、こちらに気づいたのか、三人とも振り返った。お互いの視線がぶつかった。」
p83
「「もしかして、探偵さん?」」
p83
「「わ、わっ、本当に?えっと、赤柳さんですか?噓でしょう!」」
p84
「「違うって。だから、こちらが本物で……、えっと、赤柳さん?あっちが変装だったんだ。」「正解!そのとおり。」水野は指を立てて、雨宮を指差す。「貴女が、一番ね!」」
p95
「嫌なことは我慢をせず、できるだけ避けるという合理性が、理系の男子にはよく見られる傾向である。」
p99
「「相変わらずだと思うよ。山吹さんは、博士課程はN大へ行かれていたから、国枝先生だけじゃないかも。国枝先生のまたその先生の犀川先生のところ。ほら、西之園さんもそこの講座だった。」」
p101
「「えっと、もう三年近くまえになるけれど、そのとき東京で会って、それ以降連絡が取れなくなっていたの。どうかされたのかなって、心配していたんだけれど。」」
p103
「「いいえ、知らなかった。でも、赤柳さん、私と一緒に写真を撮られたの、東京でね。それをご丁寧に送ってこられたの。その写真を、たまたま叔母様に見せたら、ああ、この人知っているって、女なのに男に変装している人でしょうって言うわけ。」」
p123
「裸体にフィルムが巻かれている。」
p173
「≪絵を描く気分になれない。いつものように散歩を少し。久し振りにジェーンさんを見た。挨拶だけ。また彼女と話がしたい。661661からメッセージあり。神様とどっちが偉い?≫」
p179
「「世の中には、いろいろな人間がいます。ああいうことを本気でしたいと考える人がいても、不思議ではありません。いえ、もの凄く不思議ですけれど、でも、それくらいの異常さは、なんていうか、人間のばらつきとして、ありえる範囲ですよね。」」
p198
「真っ白な肌に黒髪の女性で、目を閉じて眠っているようだった。」
p200
「「目が開いて、こちらをじっと見たんです。なんか、青か緑か、そんな色の目でした。」」
p204
「「あれはジグだってことだね。」」
p208
「みんな、突然離れていってしまったのだ。たぶんそれで、なんとなく、自分もどこかへ行きたくなってしまった。」
p208
「大学院の願書を出すかどうか、一番迷っているとき、国枝先生に相談にいったら、「そんなの、どっちでもいいじゃん。」と言われて、少し気持ちが楽になったっけ。」
p210
「「そうかそうか、それはあとで話す。とにかくね、西之園からね、最後の人形についてリプラィが来たんだ。知っている人かもしれないから、もっと解像度の高い写真を希望って。」」
p213
「「真賀田四季ですね。」」
p215
「良かった、昨日と連続した今日だということが判明したのだから。」
p220
「答が出ないにしても、自分としてはなにがしかの納得が欲しい。それが人情というものではないだろうか。」
p234
「両手を上に伸ばして深呼吸をした。こういう姿を見たら怒るのは、執事の諏訪野か、あるいは叔母様だな、と想像したが、ここには彼女一人だけである。」
p235
「彼とはスケジュールを共有しているので、どこにいるのかはお互いに把握しているのである。」
p236
「「質問が多すぎるわよ。一度見たかったんですもの、可愛い姪の仕事環境がね。昨日からホテルに泊まっているの。諏訪野に案内してもらったのよ。駐車場で待たせています。」」
p240
「「叔母様ね、一度、瀬在丸さんに会っていただけません?」」
p240
「「うーん、だって……、私の保護者といったら、第一に叔母様じゃないですか。」」
p241
「「叔母様と瀬在丸さんとなると、もう意気投合するか、それとも大喧嘩をするか、どちらかでしょうね。」」
p256
「「何故、私を起こしたの?」人形の口が動き、優しそうな声が漏れ出る。」
p257
「「海月君……。」」
p257
「「土曜日は、時間が取れない、と書いた。」」
p261
「人形と同じだ、という言葉を加部谷は呑み込んだ。」
p270
「「ジェーンさん。どこにいたの?」」
p273
「「ああ、そういうこと。ええ、貴女は大丈夫よ。隅吉さんには、殺される理由があったのです。どんなことでも、必ず理由があります。」」
p273
「「羊はいつも怖がっているのよ。でも、それでも毎日草を食べる。」」
p273
「「貴女にお願いがあります。貴女にしかできないことなの。」「え、何?私にできることなら、ええ、ジェーンさんのためなら……、私、できると思う。」「そう、貴女は大丈夫。」「私は、大丈夫?」「可哀想に、迷っているのね?」「私は可哀想?」」
p277
「「解像度の高い写真を送れって、司令を受けているので。」」
p294
「「良いのよ、正直に言っても。どう思うことも自由です。噓をつくことのほうが、不自由を作ってしまうわ。」」
p295
「ああ、私はなんて幸せな人間だっただろう。神様、ありがとうございます。私は、貴女の御許にに行けますか?」
p301
「吊り下げられているのは、洋服ではない。人間だった。」
p302
「ごめんなさい。私がやりました。」
p308
「落葉が集められていた。昨年の秋の落葉だ。」
p309
「「よろしくお願いします。」瀬在丸紅子は笑顔で会釈した。」
p310
「「犀川先生が適任ですが、現在海外だそうですね?」「あら、そうなの?」「中国だそうです。」「西之園さんは?」「東京ですからね。」」
p317
「「科学者というのは、悲観的な人間です。真賀田博士も科学者ですし、世界一の天才なのですから、世界中の誰よりも悲観しているはずです。楽観しているのは、計算をしない幸せな凡人たちよ。」」
p318
「白い顔の女が、目を開けた。青い瞳が、ゆっくりとこちらへ。赤い唇が、少しだけ開き、そして動いた。「どうしましたか?」」
p324
「「カレーのことなら、美味しかった。」海月は顔を上げて即答した。」
p333
「「瀬在丸さんが、いらっしゃっているのかぁ。これは、ちょっと挨拶しておかないと。」」
p337
「「百パーセントなんてことが、普通にありますか?ピタゴラスの定理じゃないのです。これは。真賀田博士の計算でもありません。そうですね……、無理に確率にするとするならば、九十九パーセント以上、確かです。あの方は、ご自分を真賀田博士に見せようとしています。でも、明らかに能力不足。天才なら凡人の振りができますが、凡人には天才の振りはできません。真賀田博士に見せようとしていることが、真賀田博士ではない証拠です。」」
p338
「「二十年や三十年で人間が変わりますか?私は、彼女と話した一言一句を全部覚えています。言い回しも、発声も、アクセントも、どれも一致しません。わざと違うようにしているのではないの。ある程度は似せています。おそらく、そういった練習をしたのでしょう。でも、似ているだけです。ご本人ではありません。」」
p340
「「ですから、趣味ですよ。好きでやったのです。綺麗な形を作りたかった。それが見たかった。自己満足です。あとは、そうですね、やはり、誰かにそれを見てもらいたかった。それは、普通の人にではありません。たぶん神様でしょう。別の表現をすれば、生け贄を捧げたのです。」」
p342
「瀬在丸の両手が、水野の手に触れる。水野も、もう片方の手を添えた。」
p343
「「保呂草さんは、お元気かしら?」」
p347
「「なにかを破壊しようというのではなく、新しいものを建設しているのかもしれない。」」
p358
「「まあ、なんでもええふうに考えやぁ。いかん方に考えるよりは。」」
p359
「朝の気温にしては、暖かい。湿った空気だった。割り箸を振ったら、綿飴になるのではないか、と想像できるくらいで、一度そう思うと、白い景色が甘く感じられた。雲の中にいるみたいでもある。これが死後の世界だとしたら、死んだ人は、この飴を少しずつ食べ続けているのかもしれない。」
p363
「「僕の考えなんか、価値はない。」」
p369
「「変だと思う。」海月は頷いた。「しかし、理由なら、二つ思いつける。一つは、かけがえがない対象であっても、愛情の形は、人それぞれだ。欲求が抑えられない、ということは、まったくありえないというわけではない。かけがえのないものだからこそ、その欲求が大きくなる場合もあるかもしれない。生きているうちに、ただ一度で良いから体験したい、と考えることは、絶対に理解できないというほど、矛盾を含んでいない。想像の範囲内だと思う。また、第二に、自分の最愛の者を殺すことは、古来、神に対しては行われている。生贄という形で世界中で行われているんだ。特に、相手が真賀田四季であれば、どうだろう。彼女自身、自分の娘を殺したと言われている。神に認められたいのならば、確固たる動機になるだろう。自分の信念を示す、自分のコントロールの力を示す、そういう意味で充分な効果を持つ。逆に言えば、これを否定できる材料がない。」」
p372
「「これもレッテルと同じで、ただそういう処理によって安心したいだけだ。異常なんてものは、存在しない。あるとしたら、みんながそれぞれ異常を持っている。あるいは、ほとんどの人間は異常だ。異常を平均したものが常識という幻想だといっても良い。」」
p372
「もう一度考えろ。もう一度理解しろ。考え続けなければ、本当の理解ではない。どうして、理解しなければならないのかといえば、それは、安心のためではなく、自分というものの根本的な不安定さを認めるため、人間が持っている基本的な孤独を認めるためだ。」
p373
「異常という言葉で片付けることは、人間が安定した存在であり、それに反する状態であってはならない、と無理に思い込むことと等しい。その思い込みから脱するためには、問い続けなければならない。」
p373
「「あの死体を見たとき、綺麗だなっていうのが第一印象だったから。ああ、やっぱりそうなんだって思った。綺麗にしてあげたかったのかって。それって、考えてみたらもの凄い経験じゃない?きっと、泣きながらやったんだと思う。凄まじいよね。人間って。そんなことができるんだ。自分はこんなことができるんだって、きっと震えたんじゃないかな。異常ではないと思う。ただ凄まじいだけ。もちろん、私はそんなことしたいとは思わないし、それはやっぱり間違っていると思うけれど、でも、たとえば、イデオロギィの違いだけで無差別に他人を殺すことと比べたら、全然人間らしい行動なんじゃない?」」
p378
「どうも考えが堂々巡りになってきたが、そのうちに、ふと瀬在丸紅子のことを思い出した。そう、今回一番嬉しかったのは、彼女に再会できたことだった。本当に、昔のままの紅子さんだった。自分がこんなに変わってしまったのに、対照的といっても良い。」
p381
「納得のいく答が、必ずしも一般的な真実ではない、ということである。」
p382
「そうなると、PAPAに見える。」
p388
「東京の椙田には、また会うことができた。彼は、瀬在丸紅子の様子を知りたがったので、多少誇張して話しておいた。」
p389
「たぶん、瀬在丸の話のあとだったので、椙田は機嫌が良かったのだろう。いつにもなく饒舌だった。」
p390
「「紅子さんねぇ……。会いたいような、会いたくないような……。」」
p390
「佐々木睦子は、初秋の某日、瀬在丸紅子を訪ねた。姪から会ってほしいと言われたのが、彼女の中での理由だったが、考えてみたら、もっと早く、西之園萌絵の保護者として、瀬在丸紅子に挨拶をしておくべきだった。」
p393
「「よくもまあ、子供が育ったものだと、今になって思います。そうね、結局、育て方じゃありませんわね。その子が育ちたいように育つんだわ。人間なんですからね。」」
p395
「「生きる方法を見つけるでしょう、彼女ならば……。あの、これは、あくまでも私の想像です。この件で、ほかの方と意見交換や議論をしたこともありません。そうだ、創平さんとだって、話し合ったことはありませんのよ。」」
p397
「黒髪は長く、瞳は青い。」
p399
「それは、βという形になった。」
p400
「隅吉は、軽く跳ね、手摺を飛び越えて、その岩へ向かって最後の落下を試みた。」