
Ryu
@dododokado
2026年5月23日
世界が海におおわれるまで
佐藤弓生
読み終わった
卓上にバナナぶりぶりひしめいてまひるひみつの闇を飼いおり
遊園地行きの電車で運ばれる春のちいさい赤い舌たち
ひとつずつ赤ピーマンを切り分ける夏の盛りの検視の手つき
風鈴を鳴らしつづける風鈴屋世界が海におおわれるまで
世紀末はたしかにくると言いながらきみとつぎつぎくぐる夕照
鳥 やがて黒くおおきくかがやいて老星の帆となるはずの鳥
沛然と街をおとなう夕立に華やげ人も人の悪意も
食卓のランプをまるくともすとき点描の間にまぎれゆく人
たまさかに水をそそげばほの暗きサボテンの土ふうとふくらみ
入力を終えれば窓に窓枠のむこうに夕陽ぬれぬれと立つ
草迷宮ならねど風のやむゆうべ近づいているガスタンク五基
会えぬものばかり愛した眼球の終のすみかであれアンタレス
ひとひらの訃報とどいたあしたより野にはかすかに青いたんぽぽ
肺腑まで霧ふれてくる葦原に黒い子鳥の喉(のみと)の発火
白の椅子プールサイドに残されて真冬すがしい骨となりゆく
亡命のあてなき春かターコイズブルーに塗られ半開のドア
空に魚はなつ日のことハルニレは卵のようなみどりをゆする
雨あがり丘陵すこしせりあがり翡翠の風を迎えるしたく
星しずか かんかん照りの庭先の水道管に花の緋の降る
空のあの青いしげみに分け入って分け入ってもう火となれ ひばり
青空は犀の領域 一塊の熱量となり千鳥をまねく
ひづめより泥と花とをこぼしつつ犀は清濁併せ呑む顔
冬の夜の蒙いひたいに蠟燭をひとつともしてわたくしは犀
街道を流れつづける水冥く沢蟹ひとつ春のらんたん