蛾のおどり "文庫版 書楼弔堂 炎昼" 2026年5月18日

文庫版 書楼弔堂 炎昼
いかなる戦も愚策、とご主人は珍しく厳しい口調で仰いました。 「戦は愚策か」 「戦略とは、戦を略すと書くのです。戦わずに済ます方策を考えることこそが、人の上に立つ者の仕事ではないのですか。戦の道を選んだ段階で、もう国は護れていない」  それはご承知でございましょうとご主人は仰いました。 「その愚かな戦争に、そのような時代遅れの覚悟で臨んだならば、兵隊は皆死んでしまいまするぞ。いや、国が滅んでしまう。義を通すために国を滅ぼす、これはもう本末転倒ではございませぬか。陛下のために死ね、義を通すために死ねと謂われて、兵隊が皆死んでしまったとして――それで敵国が降伏したとしても、それは勝ちなのですか」 ----------.----------.----------. 時は移ろい万物は流転致しますとご主人は仰いました。 「諸行は無常でございますよ、塔子様。花は枯れ人は老い、死ぬ。移ろうこと、変わることは世の習い。当然のことにございます。ですから、変わることを畏れては――いけません」 「はい」  やっと気付きました。  変わってしまうのが怖い――それが、百日草を見た時の気持ちなのでした。  お祖父様のことも、結婚のことも、それ自体が厭なのではないのです。単に変化を厭うていただけなのでしょう。
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