
いぬい
@inuiru
2026年6月7日

浮遊霊ブラジル
津村記久子
読み終わった
短編集。確か岸本佐知子が面白いって言ってたからいつか読んでみようと思ってたはず。この作者の本は初めて読んだんだけどほんとに面白かったからほかのも読んでみたい。
「給水塔と亀」
いちばん最初に載ってるこの話がとにかくよかった。独身男が定年を機に故郷へもどってアパート暮らしを始めるっていう、特にこれといって何かが起こるわけでもない話なんだけど、なんだかすごくよくて読後に涙が出た。何がいいんだよって考えてみると、たぶんこれ、私自身を重ねたんだと思う。
" 乃代さんといいあんたといい、どうして一人でいられるの?"
乃代さんというひとは主人公が借りた部屋の以前の住人で、やはり死ぬまで独身で、部屋でひとりで亡くなったらしい。
" いつまでも気楽でいたいと思っていたわけではない。けれど、いろいろなことの間が悪くて、私も積極的になれなかった。後悔はしている。人間が家族や子供を必要とするのは、義務がなければあまりに人生を長く平たく感じるからだ。その単純さにやがて耐えられなくなるからだ。"
と言いつつ主人公は買ったばかりのクロスバイクに乗り、ビールを買い、「乃代さん」が遺した亀を引き取り、うどん屋で働こうと考える。
私も独身で、この先もそうだと思う。いまは後悔していないし、人生を長くも感じない。むしろ常に時間が足りないと思っている。家族や子どもがいないのに、やることが多すぎる。でもあと二十年も経ったら、後悔するかも知れない、とも思う。そのとき、それでも乗り慣れない自転車に乗り始めたり、ビールを買ったり、何かと暮らしたり、新しい仕事を始めたり、できたらいいなと思った。
「うどん屋のジェンダー、またはコルネさん」
女性客にばかり話しかける人気うどん店の主人と、そこで見かける女性と、主人公。私はあまり食べものにこだわらないと言うか、他人のこだわりを強制されてまでおいしいものを食べたいとは思わないんだけど、「好きなものをきらいな人間が生み出している」という状況ってほんとにあるから複雑だよな。
「アイトール・ベラスコの新しい妻」
前述の通り私は独身で子どももいないわけだが、なぜかたまに深刻に考えることがあって、「もしも子どもがいじめっ子だったらどうしよう」てやつ。なぜ存在しない子どものことを考えるのか分からないんだけど、もしかしたら「子育てしていたらぶち当たっていたであろうさまざまな問題」を想像することで子どもを持たなかった己をフォローしているんだろうか………………と、いま思いついてみたが、そこまで深くは考えていない。
「地獄」
これもメチャクチャ面白かったんだけど実際こうなったらやっぱり「地獄だな」としか言いようがない。それにしても七編中三編に「死後」の話があるのは興味深い。
「運命」
道を訊かれやすいひとって結構いるらしいんだけど私もそうで、この主人公のように、旅先で道を訊かれて困ることがわりとある。しかもそういうとき素直にじぶんも旅行者ですと言えずに地元民ぶって答えてしまうことがある。
「個性」
なんかちょっと甘酸っぱくてよかった。
「浮遊霊ブラジル」
岸本佐知子の本で知ったとき、べつに書評でもなんでもなくて前情報が何もなく、タイトルを見ても「たぶん幽霊の話なんだな」くらいしか想像がつかなかったんだけど、タイトル通り幽霊がブラジルへ行く話だった。アイルランドに行こうとしてブラジルへ行ってしまう。実際(?)幽霊ってどこまで移動できるんだろうとは以前から気になっていたので、だれかに憑依するってのは現実的だと思う。幽霊に現実的も何もないかも知れないが。

