雨垂
@amadare__
2026年6月8日

輝く断片
シオドア・スタージョン,
大森望
読み終わった
名作として名高い『マエストロを殺せ』が収録されているということで購入。
スタージョンはSF作家らしいのだが、この短編集にはSFはあまり収録されていない。編者が個人的に「もっともスタージョンらしい」作品を揃えた結果らしい。
スタージョンの読み方が分かってきたこともあるが、後ろに行くに連れて話のギアが明確に上がっていく感じがあった。
以下、話ごとの感想。
『取り替え子』
サイエンスではないファンタジー。長年、赤ん坊の仕事をしてきた男が類まれなる愛情を受けて本当の赤ん坊になってしまう話なんだが、主人公夫婦のカスさが気になる。めちゃくちゃ悪人ではないんだけど、そこまで褒められた人物でもない。
伯母の人物描写が誇張しすぎてて面白い。他の話を読む限り、スタージョンの文章は全般的に大げさだ(そして作中ではその大げさなことが実際に起こってしまっている)。
『ミドリザルとの情事』
何このオチ。“社会の外れ者に理解がある人”の中身はマッチョイズムに脳を浸した人だった訳だが、そんなことよりも最後の巨根オチ。そんなでけぇわけねぇだろ。
よく分からない部分(巨根男が消える所)はSF要素らしく、男が実は宇宙人で地球に馴染むのを苦労していたけれどマッチョイズム差別発言から学習したという考察を見た。だからなんなんだ。
『旅する巌』
これはシンプルにつまらないと思う。広義のミステリめいた所があって、問いは「なぜ心優しき傑作を書けた作家の2作目がクソ作なのか?(なぜこんなクソ作を書いた作家の前作があそこまで傑作だったのか?)」なのだが、答えは「謎の宇宙人の超科学により精神が穏やかで素直な状態にされてたから」。はぁ…………そうですか………。
編者の解説曰く「SFとしては失敗作」。やっぱり失敗作なんだ(SFとして以外でもどうかと思うが)。
『君微笑めば』
自分には共感能力が無いと語るヤな男視点の語りが延々続いた後で、舐めてた格下のいつも微笑んでる男によって殺される話。構造としては定番だが、当時にこの構造での話を書けたことに意味があるのだと思う。
でもストレスが溜まる長〜い振りに見合うオチかと考えると……そこまでではないと思う。
『ニュースの時間です』
これはコンセプトが一番好き。これもちょっと広義のミステリめいていて、問いは「なぜ男はニュース番組を熱心に視聴するようになったのか?そしてなぜ人から離れて一人で奇妙な暮らしをするようになったのか?」。その答えが、かつて足を失くした友人の話をまず出してからそれを踏まえて「人の死に死ぬほど傷つくからこそ、人の死に目を向けずにいられなかった。しかし傷つきすぎたので人類の一員であることを止めた」というのは中々スマートだと思う(この要約だと奇妙だが)。少なくとも『旅する巌』よりはずっと。
精神科医が仕事をこなす段落もスムーズで良い。
オチは理解はできるもののちょっと唐突だけど……。
タイトルも最初と最後で読み味が変わってくる所が好みだなぁ。
ただ、解説を読むとどうやらアイディアやプロットには大部分、ロバート・A・ハインラインの手が入っているらしい。じゃあ自分が褒めてたのはスタージョンではないのでは……。
『マエストロを殺せ』
これが目当てだった。そして前評判通り、確かに面白い。主人公(フルーク)は異常なぐらい醜く卑屈で、マエストロ(ラッチ)は異常なぐらい才能があって人格者。
ラッチも悪いよなこれは……ちゃんと怒って処罰を下してください。その点で彼は完璧ではないと思う。フルークもお前、喋りの才能があるんだからお前。喋りの才能抜きのフルークの気持ちを考えたことがあんのかよ。
あとマエストロを殺すためにバンドメンバーをなんとかしていくんだが、呆気なく殺したかと思ったら好きな女の時は外部メンバーを一晩だけ入れ替えるとかで済ませてて……は……?それ出来るんだったら他のメンバーにもそうしろや……。まぁスキッドを襲った時は指三本で済ませてるっぽいから、ラッチとフォーン以外のバンドメンバーにも好感度の差があったという描写なのかもしれない。でもお前何も殺さんでも……。
ラッチも悪いけど、沈んだまま発見されなかったり、残ったメンバーの気持ち考えるとすごく沈んだ気分になる。
『ルウェリンの犯罪』
面白い! 笑えないけど笑える。
19年間病院の事務手続きしてるのに売買の仕組みを一切知らないというのはどういうこと……?そんなことある……?逆にその状態の人でもこなせる事務手続きって何……?子供時代は……?と思うけど、実際そうなってるんだから仕方ない。
あと主人公(ルル)は異常にモテてる。モテようと頑張ってないのに2人の女から好意を寄せられているのは、異常モテ男といって差し支えないでしょう。
罪を犯すことができる悪い男にならなければならないという脅迫観念に支配されているが、無知で劣っているので結果罪を犯せない男の話。アイヴィとの相性が悪すぎるが、アイヴィに落ち度は無い。
ルルが意を決して悪い男になるための行動を起こす度にアイヴィに(偶然)先回りされて全てがお破産になるのは笑った。ルルからしたら笑えないんだけど。でもお前、罪を犯さないところを良い所として褒めてくれてるんだから、そこで考えを変えるということは……まぁそうならないからそうなってないんだけどさ。
『輝く断片』
表題作だ!
内容はルルのifみたいな感じで、劣等生でみんなからできない子扱いされてるからこそ必要な存在であることを求めている。こちらの方が共感はしやすい。
それにこいつは、料理もできるし買い物もできる!ルルより社会性がある!しかもおそらく、結構上手だ。わざわざ料理の描写を詳細にして文量を割いてるし、手に着目した描写があることからも、主人公は器用なんだと思う。なぜ裁縫や料理を専門にしない!? まぁ、自分に合った仕事を見つけるための能力は無かったということなんだろうけど……(あるいは、裁縫や料理を女の仕事みたいに考えてたとか?)。
主人公は傷だらけの女を介抱してその世話をすることで、自分が必要とされている実感を抱いて生きがいとする。でも回復した女は、怪我の原因でもあるトラブルもあってこの家と街から離れようとする(そらそう)。
『ルウェリンの犯罪』と同じく、女の好意から出た言葉がむしろコンプレックスを刺激してしまうという構成。ただルルが最後まで罪無き男でいたのに対して、こちらは……。
より社会性がある方がより悲惨な結果を招くとは。振り返れば『君微笑めば』も『ニュースの時間です』も『マエストロを殺せ』も、そしてもちろん『ルウェリンの犯罪』も、社会性と比例してキルスコアが上がっている感じがしなくもない。そういうことなんですか?(どういうこと?)