@s_ota92
2026年6月21日
p9
「この世は無数の矛盾と意味のない偶然に溢れかえっているのだから、どこを掘り返しても、幾らばかりかの不思議くらい出てきそうなものだが、今回は、掘り出したり探したりする必要さえなかったのである。」
p39
「「そうかそうか。塀の外から眺めているから、綺麗なところだけ見えるんだ。」」
p48
「若い女性だ。真っ白のスーツ。ブーツも白い。」
p48
「「あら、奇遇ですね。」西之園はすぐに小川に気づいた。」
p51
「「秘密です。」彼女は微笑む。しかし、カップをテーブルに戻した。口をつけていなかった。香りを確かめただけかもしれない。」
p51
「「さあ。」西之園は小首を傾げた。そして、口元を僅かに緩める。「以前に那古野で、高い場所で首吊りをする連続事件が起こりました。ご存知ですか?」」
p54
「西之園は答えた。そして、指を一本立てて見せた。「質問は一回だけ。」」
p54
「「どうかしら……。でも、そうですね。子供をあやすおもちゃみたい。」」
p58
「「西之園先生です。椙田さん、ご存じですよね?」返事がない。三秒ほど沈黙が続く。」
p60
「「天敵だと思ってもらえば良い。」「天敵ですか……、椙田さんの個人的な天敵なんですか?」「そうだ。もし僕のことを彼女が知ったら、僕はもう日本にはいられない。」」
p87
「「まあ、想像は自由。とにかく、口にしないこと。」」
p137
「やはり、学問には人類の歴史というのか、見えない重みが積み重なっているのではないだろうか。」
p140
「「もちろん、私が知っているのは、普段の彼です。マスクをしていない。」」
p141
「「以前は違いましたけれど、こちらへ来た機会に、自分にとって新しい分野にも手を広げていこうかなと思いまして……。これまでは、コンピュータばかり相手にしていたんです。でも、もともとは、私の恩師が手がけていた領域ですので。」」
p142
「「ずっと、子供の頃から、合気道を習っておりました。」」
p143
「「拳の握り方。親指の曲げ方。」微笑んだまま、西之園は答えた。「そのうちに歩き方まで変わってきますよ。お気をつけになった方が良いわ。」」
p151
「「無理に複雑にならない方が良いのよう。単純なままでいられるなら、その方がずっと幸せ。」」
p161
「テーブルの向こう側にいる女性を真鍋は見る。彼女も色のついたメガネをかけていた。煙草を片手に持っている。年齢は椙田と同じくらいか。しかし、一般人には見えない。女優か、それとも芸術家か、そんな艶がある。煙草を消したら、立ち上がってシャンソンを歌いそうな雰囲気だった。」
p162
「「馬鹿。ちゃんと奢るんだぞ、女の子には。」椙田が言った。」
p170
「「たとえば、鷲津伸輔が、実は横川さんだった、という可能性はないですか?」」
p232
「「煙草の銘柄を見られるとまずい。」」
p236
「「ええ、どうして、こんなに深いのか……。」西之園は顔を上げた。「これのまえに、なにかあったんじゃないかしら。」」
p239
「「ですから、私が興味を持っている事件と、今回の殺人とは、無関係だということです。」」
p252
「「牧村亜佐美か、ファンの三澤さんに、直接会いにいくべきじゃないかしら。」西之園は言った。「それで、解決するかもしれません。案外あっさり。」」
p258
「「そうだ、ちゃんと自分で考えなくちゃ。」」
p266
「おそらく、異性の場合は、長く友人関係が続かない。同姓の場合に比べれば平均的に短期間だろう。そうなると、続かなかったことを説明するのが面倒だ。」
p285
「「よく考えて、自分の判断で行動して。」」
p285
「「生きていれば、希望はあるわ。最善を尽くすの。逃げないで。」」
p286
「「大好きだった。貴女のこと。」」
p296
「「車が?」西之園は言った。「私を運ぶためだと思うけれど。」」
p297
「「真鍋君は、パスタは何が好き?」西之園が突然きいた。「え……、パスタですか?」真鍋は必死で考える。「いや、あれって、形が違うだけですよね。」「そうなの。良い着眼点ね。」西之園は言った。「でも、形が違うことって、大事じゃない?」「はい、まあ、そうですね。」「色が違うよりも、ずっと大事だと思う。」」
p300
「「私は西之園です。それ以外に私の立場はありません。」」
p300
「「疑問を持ちましたので、おききしたいと思ったのです。」」
p301
「「どうしてでしょう。保険のようなものかしら。誰にだって、不安はあります。信頼できるパートナでさえ、いつ裏切られるかわからない。保険をかけておきたくなったのかもしれませんね。」」
p302
「「悔いはありません。いえ、もちろん、悔いはある。でも、これを選んだんです。これよりも私らしい選択は、なかった。」」
p303
「「ごめんなさい。私は猫舌なんです。」西之園は家政婦に微笑んだ。」
p303
「「真実なんて、誰にもわからない。」西之園は言った。「みんなが、自分が認識していることを正直に話しても、それは真実ではない。認識が間違っている可能性は常にある。」」
p317
「「人間の行動って、そもそも一つの理由だけで決まっているものではないと思います。」真鍋は言った。「そのときの瞬間的な判断でさえ、いろいろなことに思いが巡るもんじゃないですか。」「うん、そうね。」「それをですね、動機はこれこれこんなことだとか、いちいち理由を決めて、そんなの間違っているとか、納得がいかないとか、議論すること自体がおかしいと僕は思います。」」
p321
「「あ、そうか、鈍感だから、周りを気にせずに、その分よけいなことを考える暇があったんですね。だから脳が発達したんだ。」「君をみていると、特にそれを感じるわよ。」」
p322
「「お久しぶりです、西之園さん。」片手を差し出した。「お元気そうですね。」西之園は握手に応じた。」
p325
「「そうそう、あの先生は?メガネの、えっと、何ていったっけ。」「犀川先生。」「そう、犀川先生だ。どうされています?」「いえ、特に変わりはありません。たぶん。」」
p325
「「違う違う。惚けているんですか?」彼は笑った。「ああ、そうか……。」西之園は気づいて、少し笑った。「惚けたわけではありません。」」
p330
「仕事なんかしなくても良いのに?生きなくても良いのに?殺さなくても良いのに?どうして、どうして、どうして?目まぐるしく、数々のシーンが頭の中で展開した。けれど、エレベータのドアが開くまでに、再びすべて凍らせ、冷凍庫の中に押し込んだ。自分が死ぬ間際には、沢山の「どうして」が一挙に解凍されてしまうのだろうか。それとも一緒に消えていくのか。」
p331
「こんなふうにして、モニタの名前だけを見て、何度かけ損なっただろう、と彼女は思った。」