
深見
@fukamireads
2026年6月12日

読み終わった
微ネタバレ注意
山村にあった新興宗教団体でかつて起きた集団自殺事件の調査依頼を通じて、奇跡の存在を証明しようとする探偵に、各々の思惑からその存在を否定しようとする敵たちが次々と推理合戦を仕掛けてくる、という多重解決ミステリ。多重解決もの自体、それほど数を読んでないので他と比較してどうとは言えないのですが、変わった切り口の作品で面白かったです。「それ以外のあらゆる可能性を否定することで奇跡の存在の証明とする」という主人公の証明スタイルゆえ、刺客たちは奇跡以外の可能性があることさえ示せればよく、対する探偵はどんな荒唐無稽な推理であろうとも明確な事実に基づいてその可能性はありえなかったことを示せなければ負けとなる、という一見探偵側に勝ち筋がなさそうに見える状況。実際、作中で刺客たちに提示されるトリックはおおよそ現実的とは思えないものばかりなのですが、それを作中で描写された事実だけを拠り所にいかにして探偵が反証するかという、探偵側の「否定のロジック」にミステリ的な面白さがある点が、この作品のユニークなところかと思います。加えて、すべての刺客たちとの推理合戦を制したあとに現れる、黒幕からの最後の挑戦には、それまでの推理合戦自体が布石となっているという点もあり思わず唸らされました。ただ、よくよく考えてみればそれに対して探偵が指摘する黒幕側の論理的瑕疵については割と初歩的な誤謬ではないか、という作品の分量に比して肩透かし感のようなものもなくはなかったですが。また、黒幕への反証に付して示される探偵と敵双方が陥っていたある前提、については割と早い段階から気づく読者も多いのではないかという点についても、やや力技感は否めないかもしれません。とはいえ、作中で提示された事実のみから「否定のロジック」をしっかりと組み立てている点と推理合戦そのものが最後の展開の布石となっている構成の巧みさはやはり見事で、総じて楽しく読み進められました。登場人物のややアニメ的とも言えるキャラクター造形も、過剰と捉えられて苦手に感じる方もいるかもしれませんが、個人的には逆に読みやすくてよかったです。
