
ni
@nininice
2026年7月6日

読み終わった
著者のいくつかの旅の断片。
「旅とはこういうものだ、と私は思う。たった一度の、二度とくりかえすことのできないその歩みのなかで、肩からさげたカメラでうつしとることのできなかった、しかし、心のカメラが知らぬ間にうつしとっていたある瞬間の、ある情景を、旅から帰って心のアルバムのなかに見つけること。それこそが、旅のなによりの醍醐味である。
だから、と私は思う。旅とは、旅から帰ったときにはじまるのだ、と」
思い返せば、わたしもそれなりに旅をしてきたと思う。子どもの頃の家族旅行からはじまり、一人旅も色々したし、仕事での出張もたくさんしてきた。しかしコロナ禍の後、ぴたりと旅をしたい気持ちが萎れてしまった。最近、旅行記ばかり読んでいるのは、旅を懐かしむ気持ちの反映なのかもしれない。
わたしの旅についての心のアルバムに残っているのはどのような情景だろうと、本を読みながら振り返ってみた。冬のニューヨークで、客が少なく部屋が空いているからと、一人では持て余すほどの広く素敵な部屋へ案内され、次の日の朝起きたらなんと窓の外一面の雪景色。仕事で訪れたローマのお屋敷の壁にひっそりとかかっていたボッティチェリの小さな絵画。大雪で全く景色を見れなかった万里の長城。ツアーで行った北京の京劇学校の、真っ白な湯気に溢れた食堂。祖父母の墓に舞う羽黒蜻蛉の群れ。初めての一人旅でやる事もなく人のまばらな春の浜辺で長いこと眺めていた海。
驚いたことに、今ぽつぽつと蘇る旅の記憶はどれも鮮やかで、なのに普段の生活の中ではもう思い出す事もなく、埋もれてしまっていた。しばらくこれらの記憶に遊びたいと思う。