
Yo
@otsuki
2026年7月9日

銀耳(新装版)
魚村晋太郎
読み終わった
形状以外の記憶に膨れつつ朝の快速で神戸市を横切る
遠い嫉妬がわたしのものになる雪の匂ひと思ふ肩を抱きつつ
どれがわたしの欲望なのか傘立てに並ぶビニールの傘の白い柄
盲目的に愛したあとにみてしまふ見られることに飽きた月夜を
政変に似てしづかなり或る夜の紅葉に走る葉脈の距離
夥しき未知の箪笥の育ちゐる林と思ふ雨水の午後に
部屋にはひるシーン十回部屋を出るシーンのないアダルト・ヴィデオ
驟雨千年 鯉の脳裏にずぶぬれの朱雀大路を走つてかへる
葉書大の意識失ふ戦争のあひまを太る青柿の下
闇に目が慣れるののに似てふとひとの心音を意識する土曜日
まるで悪意のごとき等距離 傾いた夕空に観覧車点れり
冷戦後の世界をさらに冷えゐつつ間諜ふたりサウナに眠る
想像のつかないきみの十代を知る奴に遭つたが関心はない
木の肌がわたしの窓を圧してくる二日返事を書かずにゐたら
墨をするごとき快美とおもひしがそれ以上濃くならざり闇は

