阿部義彦 "寡黙なる巨人" 2026年7月12日

阿部義彦
阿部義彦
@xtc1961ymo
2026年7月12日
寡黙なる巨人
寡黙なる巨人
多田富雄
第七回小林秀雄賞受賞作品。これは誰かの書評で強く勧められたのが頭の隅にあってマイ古本屋でたまたま目に入ったので。長い間積読にしてたのでもっと早く読めば良かったと。著者は免疫学者で2010年には亡くなりましたが、私も昔「免疫の意味論(青土社)」を読んだし、南伸坊さんと共著のちくま文庫「免疫学個人授業」も楽しく読みました。そんな多田富雄さんですが旅先で脳梗塞で生死の境を彷徨い、一夜にして、右半身不随で喉にも障害が出て言葉を喪い、食べ物を飲み込む事も出来なくなり、意思表示が出来なくなります。幸い奥様は内科医の医者でしたので、献身的介護のもと、左手でパソコンを操作して、長いリハビリの果てに、何とか車椅子から立ち上がり、自分でトイレはできる位には成りましたが、言葉は戻る事はありませんでした。「こうして重度の障害者としての生活が始まった。それは発作前とは全く違う営みである。違う人(寡黙なる巨人)が生まれたのだ。もう前の自分に返ることはない。私は半身不随と言語障害を抱えて、新しい人として誕生したのだ」その魂の記録です。リハビリの重要性にも関わらず、当時のお粗末な体制、(手間がかかる割に儲からない)その現場のお粗末さや、特に言語療法士はなり手が極めて少なく当時でも未開拓な分野でも有りました、そして小泉改革で、弱者切り捨ての政策が実施され、それに対する抗議運動にも参加します。多田富雄さんは歌舞伎や能にも造詣が深く、鼓の音色ではかなりの腕前だったようで、その音色を自分で出せなくなった時の無念感は胸に迫りました。素晴らしい本でした。
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