ひゃらりこ "朝に俗銭を得て 夕に詩をつく..." 2026年7月16日

朝に俗銭を得て 夕に詩をつくる
木下夕爾の詩を知ったのは、尾道の古本屋弐拾dB店主・藤井さんの八月の朗読がきっかけだった。中でも「角田寛英君に」という亡くなった詩友への追悼詩は、夕爾のことも角田寛英のこともほとんど知らなかった私の心に深く刻まれた。何度か訪ねたことのある「尾道市千光寺山」の階段の風景がよみがえり、亡き人への想いに胸が詰まった。この本にはその詩とともに夕爾の弔辞も収められている。 藤井さんが編集したこの本を読んで、人間・木下夕爾の魅力を知ると同時に詩人・俳人としての夕爾の優れた才能を再認識することができた。とても大正三年生まれで昭和四十年に亡くなった方とは思えない。文学や親しい人々や自然や日常を見つめて書いた夕爾の言葉の数々は令和の今の世にも古びずに読むものの目を開いてくれる。詩と俳句のどちらをも創作した夕爾がその間で悩み考えたこと。福山暁の星女子学院での講演「詩作の動機と表現過程」は学ぶべき深い内容でなおかつ楽しく面白い講義。文学史の中の人物としてその名と代表作くらいしか知らなかった井伏鱒二、久保田万太郎、堀口大學の御三方が夕爾の筆で描かれるとみな人間味あふれる文学者としてこちらに迫ってくる。特に久保田万太郎に添削された俳句の記述にはうならされた。 他にも夕爾がいかに魅力的な詩人・俳人かというのが読み進めるほどに明らかになった。これだけのものを集めて編集した藤井さんのご苦労はどれほどのものかと感じ入るばかりである。本当に素晴らしい本である。大切にして何度も読み返したい。 二年前に尾道に行くついでにふくやま文学館の木下夕爾生誕百十年展を見て句集と百年記念誌を買ったが、その時はまだ夕爾にちゃんと出会えていなかった。藤井さんの編んだこの本を読んだ今もう一度あの展示を見直したい想いだ。おそらく百二十年展も開かれるであろうからそれまで元気で長生きして、また福山と尾道を訪ねたい。
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