
Autoishk
@nunc_stans
2025年3月29日

眩暈
エリアス・カネッティ,
池内紀
読んでる
「なるほど、書物には流れる血はない。感情も持たぬ。苦痛もあるまい。動物や、またおそらくは植物が堪えるような苦痛も知るまい。だが、これまでに誰が無機体の無感覚を証明したというのか?(…)すべて思考する生物体には、有機体との間に学問が引いた境界線が、人間に係るあらゆる区別と同様に、人工的でかつ時代遅れと思えるような瞬間が訪れる。ここに抱懐されたひそかな矛盾は《死物》なる表現にあますところがない。死んだとは、生きていた証拠ではないか。生きたものではないというからには、死を認め、すなわち生を認めることではないか。書物の生命について、動物のそれほどにも考えないのは奇怪ではないか。目的を、換言すれば生存自体を決定する最大のものが、あの無力な、屠殺用の獣ほどにも生に関わっていないというのか。これこそキーンの疑問であった。」(p.63)
