
読書猫
@bookcat
2025年3月30日

ロマネスク
太宰治
読み終わった
また読みたい
(本文抜粋)
“喧嘩のまえには何かしら気のきいた台詞を言わないといけないことになっているが、次郎兵衛はその台詞の選択に苦労をした。型でものを言っては実際の感じがこもらぬ。こういう型はずれの台詞をえらんだ。おまえ、間違ってはいませんか。冗談じゃないかしら。おまえのその鼻の先が紫いろに腫れあがるとおかしく見えますよ。なおすのに百日もかかる。なんだか間違っていると思います。これをいつでもすらすら言い出せるように、毎夜、寝てから三十ぺんずつひくく誦した。またこれを言っているあいだ口をまげたり、必要以上に眼をぎらぎらさせたりせずにほとんど微笑むようにしていたいものだと、その練習をも怠らなかった。”
“重苦しくてならぬ現実を少しでも涼しくしようとして噓をつくのだけれども、噓は酒とおなじようにだんだんと適量がふえて来る。次第次第に濃い噓を吐いていって、切磋琢磨され、ようやく真実の光を放つ。”