@sotaono
2026年7月30日
p10
「簡単にいえば、リアルというものがどこにあるのか、という問題。」
p12
「けれども、個人に関しては、以前からなにも変化がない。個人は、相変わらず個人が認識するだけの存在である。自分とは、自分だと思っているだけのものだから、変化のしようがない。外部からその大部分を観測できない。ずっとできなかった。」
p15
「ただ、アミラはだいたいいつも漠然としている。それは彼女の知性の広大さによるものだ。」
p27
「「はい。実は、リアルの私が現在、その、行方不明なのです。」」
p30
「「つまり、その、私の肉体は、あるとき……、おそらく半年ほどまえに、ウォーカロンと挿げ替えられてしまったのではないかと。」」
p50
「「過去のことも、仕事のことも、嘘だったのかもしれません。私にはそんなことは問題ではありません。会っている時間は楽しかったし、何一つ嫌な思いをしていません。まったく損害はありません。私は初めから、彼になにも期待をしていませんでしたから。」」
p55
「「でも、殺人事件が発生した現場で、不鮮明でしたけれど、目の前に死体が横たわっていて、警察の人たちが取り囲んでいました。」」
p59
「「美味しい。」ロジが微笑んだ。「お世辞抜きで。」「君は、まえからお世辞抜きじゃないか。お世辞なんか聞いたことがない。」「グアトも同じ。」」
p62
「「しかし、キョートで殺害されたのは、マガタ・シキ博士の子孫だった。博士はその頭脳を手に入れたはずだ。当然、クローンで復活させただろう、と考えていたけれど、もしかして……。」」
p71
「「すべて、ここにあるのですね。」クラーラは、自分の頭を指差した。」
p77
「深海というのは、オーロラのユーモアである。」
p81
「そして、こうなった状況こそが、共通思考ではないのか。いうなれば、社会は、社会という生命体であり、その中で行われる思考活動すべてが、社会という頭脳による思考活動にすぎないのではないか。」
p83
「そう、リアルの人間は、一人で生きる能力に欠けているのだ。これは、人間という動物の弱みといえる。」
p85
「ズームアップすると、メーカのロゴらしきものがあり、<クリンメル>と読めた。」
p88
「「クラーラとケンだ。」」
p107
「「クラーラの鳥がいる。」」
p111
「「ここから、東へ百二十キロほどのところです。」」
p115
「「ヴァーチャルの人格が、リアルにログインして、まるでヴァーチャルにいるように暮らしていた、ということですか?」」
p121
「「間違いなく、赤毛のクラーラ・オーベルマイヤだった。」
p128
「ドイツ情報局の武闘派ウォーカロンといえば、まっさきに思いつくのはデミアンである。」
p129
「歴史を変えるのは、ヒーロではない。もっと精確で精密なシステムの積み重ねだろう。」
p130
「「セリンかペネラピを呼びましょうか?」」
p139
「「ほう、自分が人間だと、その人は知っていたのか。それはそれで、なかなかのものじゃないかね。」」
p140
「「今話した、自分の自覚を持ったスーパ・ネットワークとは、つまり共通思考なんだよ、マガタ・シキ博士のね。」」
p141
「「しかし、こうしてヴァーチャルを利用してはいます。今、我々の頭脳は、もちろんリアルに存在するわけですが、ヴァーチャルからの信号を受けているはずです。」「なんと!」ヴォッシュは、目を見開き、遅れて指を一本立てた。「そうか!意図的なものだったのか、これは。」」
p144
「ドアが空き、少女が入ってきた。ドアを閉めてから振り返り、僕を見た。赤い目が、貫くように僕を捉えている。「君か。」僕は微笑んだ。「名前を言わないように、かな?」少女は頷き、ゆっくりと笑顔に変わった。」
p149
「「私たちに予感させたのは、まえに君と一緒だったトランスファかね?」」
p151
「産業技術博物館の館長ミュラである。」
p172
「「ロジ、離れなさい。」僕は彼女に言った。「一緒に死ぬことはない。」」
p173
「ロジを抱き締めて死のう。」
p174
「少し離れたところに、髪の長い男性が立っていた。黒いスーツだった。こちらをちらりと見て、軽く頭を下げる。知った顔だ。デミアンである。」
p175
「デミアンは、片手に日本刀を持っていた。彼はそれを鞘に納めた。彼が、銃を握った腕を斬ったのだ。日本刀には電子部品は含まれていない。」
p176
「「トランスファの侵入を防げなかったのが1番の問題です。「そのとおりです。」ペイシェンスが言った。」」
p176
「「私はペイシェンスではありません。ペイシェンスが言った。彼女は、僕を見つめていた。「私の名前をおっしゃらないでください。」「あ、君は……。」僕はすぐに気づいた・」」
p179
「名前を口してはいいけないトランスファは、かつてデボラと呼ばれていたから、つい、その名前を発音してしまいそうになる。だから、今はその固有名詞を忘れよう、と思う。先日、久しぶりに再会したとき、彼女はもう昔のままではないと感じた。彼女の方も、僕に近づくことを避けているように思えた。難しい立場なのだろう、きっと。でも、今は助けにきてくれたのだ。そのことは、素直にとても嬉しい。コーヒーも美味しくなるはずだ。」
p179
「「いえ、天使になる必要はありません。人間のままでけっこう。人間って、そんなに浅はかなものではない、と私は思っています。」「私は、浅はかなものだと思っているよ。君は、まだ若い。」」
p180
「「名前はありませんが、不便でしたら、クラリスとお呼び下さい。」」
p185
「自分を責めがちな性格は、僕たち二人に共通するものといえるだろう。」
p186
「「ロジさんが泣いていますよ。」と囁く声が聞こえた。」
p186
「「はい。」クラリスの声が答えた。「この場合、彼女を励ましにいかれる方が良いと演算されますが、いかがでしょうか?」」
p186
「「ロジは、そういう平均的な人じゃないんだ。当てはまらないね。だいたい、人に涙を見せることが滅多にない。見せたくないんだよ。彼女のプライドを尊重した方が良いと思う。」「それは、グアトのプライドではないでしょうか。ご自分のプライドを尊重しているように見受けられます。」」
p187
「「期待されていると観察できますが。」「そうかな、それは、思い過ごしだよ。」「観察は客観的なものです。思い過ごすような要素はありません。」」
p190
「クラリスのユーモアは、最高だ。」
p191
「「怒っています。」クラリスが囁いた。「わかっているよ。」僕は言った。シーツの中からロジが顔を出した。「何がわかっているの?」「あ、いや……、その……。」」
p195
「「懐かしく思います。」クラリスが呟いた。」
p196
「「ペネラピは?」ロジが尋ねたのは、セリンより強力な戦闘員の名前である。」
p203
「「ええ、世の中、矛盾だらけなのですよ。神様なんていないのに、神様にお願いすることがあります。ときどき、自分の中に神がいるような気持ちにもなります。貴女は、自分を観察することができるのですから、自分の中に神様がいると思えませんか?」」
p204
「「はい。自分を観察できるならば、それが自分の実在の証明ですからね。それに、今思いつきましたけれど、もしかして、貴女を作ったのは、貴女自身なのではありませんか?そうお考えになったことがありますか?」」
p206
「みんなが笑顔だった。歓声も、交通音も、液体のように混ざり合う。同じように、人間の数々の思考が、こんなふうに溶け合っていくのだ。しかし、そこにあるのは、鬩ぎ合いではない。穏やかな融合、穏やかな融和だ。「また、お会いしましょう。」輝かしい光に包まれたクラーラが告げた。「いつですか?」僕はきいた。「いつでも。」そう、いつでも、どこにでも、誰にでも、神はいる。それなのに、神は一人。あらゆる思考が存在し、しかも、一つになる。自由に、みんなが考える。それが、神様なのか……。」
p209
「「だいたい、あとで後悔することになりますよ。」「後悔っていうのは、あとでしかできない。」「彼女の優しい雰囲気に呑まれたのですね。弱いですよね、ああいうタイプに。」」
p213
「「クラーラは、なんというのだろう……、もtっお……。」ヴォッシュが目を細める。「ヴェイグリィで、不鮮明で……。」「ファンタジィですよね。」僕は言った。「そうそう。夢を見つ感じだね。ああ、少女のように。」」
p216
「「基本に戻れ、とはゲーテの言葉だったかな。」ヴォッシュが言った。」
p218
「「六十五万八千五百三ですね。」僕は口にする。」
p219
「「三と二十九の倍数ですね。」セリンが言った。」
p221
「「一フィートを〇・五ミリにする比率は、さきほどの数字、六十五万八千五百三の三乗根の、ほぼ七倍になります。」」
p221
「「立体だからですね。」セリンが言った。「クラリス。」僕はセリンを見た。」
p222
「「ミニチュア・モデルか、ああ、ミニカーとか鉄道模型だ。」ヴォッシュは言った。」
p222
「「ハンブルクのミュージアムって、ケン・ヨウ氏のかつての勤め先では?」ロジが言った。」
p232
「「それじゃあ、このミニチュアの街が、つまり、センタメリカだったということですか?」」
p235
「「カップルの方は、二人で入ることができます。」案内の女性が言った。」
p240
「「楽しければ良いのよ、ほほほ。」女王は口を片手で隠し、高い声で笑った。」
p249
「「ケン・ヨウさんです。今も、ここのどこかにいらっしゃるはず。」」
p249
「「ここのおもちゃメーカ、えっとクリンメルの創業者を調べた方が良いですね。」」
p255
「「人形を動かしているとき、子供は、人形が自分で動いている、と観察するんだ。人形の自由意志で判断し、動いているとね。これが、つまり仮想の自律だね。」「では、あのコンピュータは、人形のクラーラさんを動かしているうちに、クラーラさん本人になってしまったのですか?」」
p258
「人がヴァーチャルへシフトすれば、肉体を失って、「一人」という概念がやがて曖昧になる。二人が融合したり、反対に、一人が二人に分裂することが当たり前の世の中になるだろう。アオレコ度が、マガタ・シキ博士の共通思考の基礎概念となるものだ。」
p259
「それは、クリンメルのロゴと、<いつもあなたとともに>と一時ずつ色違いの文字が示されていた。」
p260
「「グアト、私です。」突然人形が喋った。「メガネがなくても、これでいつでも話ができます。」「なんだ、君か。」僕は息を漏らした。クラリスである。」
p268
「「あのときの鳩ですか?」」
p271
「共通思考を手に入れた新人類は、あるとき、自分たちのリアルがどこに存在するのか、と不思議に思うかもしれない。」
p271
「僕たちは、鳩がどこへ飛び去ったかも知らない。あの人が、どうして、自ら命を絶ったのかも知らない。自分一人だと寂しくなる理由も。知らない。いくら肌を触れ合っても、いくら愛し合っても、身近な人の気持ちがわからない。おそらくは、そういう障害をすべて取り除こう、と彼女は考えたのだろう。そう、マガタ・シキという一人の天才は、自分が一人だということに疑問を持ち、それに抵抗したのだ。その孤独を打ち砕くために構築されたプログラムこそ、共通思考であり、そしてそれは、今のこの社会そのものの未来でもある。」
p274
「考えれば考えるほど、わからなくなる。一人で考えているから、このジレンマになるのか。みんなで考えれば、解決できる問題なのか。人間とは何だろう?人間が存在するのは何故だろう?僕は、どうして僕なのか?僕は、本当に一人なのか?ただ……考えることは、苦しくはない。解決できないことも、苦しいことではない。だから、もうしばらく、考えていこう、と思う。」