
あんどん書房
@andn
2026年7月30日
口笛吹きと音楽の犬
大滝瓶太
読み終わった
まず冒頭から「よ、読める…!」と感動した。前作があまりに数学すぎて読めなかったので…。
元天才ピアニストで、現在は芸大音楽家で作曲を専攻する青年・勅使河原秋。かつてはコンクール荒らしとも呼ばれ正確無比な演奏をしていたが、とあるコンクールで一人の少女の演奏を聴いたことで彼の中の音楽観が狂い始めてしまい、現在は挑戦的な音楽ばかりを作曲している。
そんな彼が先輩の伝手で出会い、コンクール用の伴奏演奏をすることになるのが口笛奏者の柚月春菜。天才しか入れないと言われる大学に口笛で入学した彼女は、まわりから「ほんのり残念な子」と言われるほどの無邪気さを持ち合わせている。
物語は彼らを中心とした音楽コンクールものとして進む…かと思いきや、続いて突然始まるのは、20世紀初頭にスペインで生まれた作曲家、イダ・デ・アンダの物語。パリの芸術家コミュニティとの関わりなど史実と絶妙にリンクした境界の曖昧なフィクションは、前作のギターの話の発展系という感じもする。
そこからは現代と20世紀パリの物語が交互に進んでいくのだが、次第にそれぞれの主要人物が鏡写しのようになっていることが分かってくる。
あまりにも良すぎる耳を持ち、その才能ゆえに苦しむ秋とイダ。そんな彼らの才能を見抜き、飄々としながらも導いてゆく小川先生と「先生」。倍音を持つ口笛を吹く才能を持つ春菜とアンドレス。
時代と国を隔てる彼らの物語は、やがて「口笛のための協奏曲」を通してつながってゆく。
本作に登場するのはさまざまな形の「天才」たちだ。自らの天才性ゆえに苦しむ者。あるいは自身の才能の特異さに全く気付いていない者。賢すぎて自身の生涯を見通してしまう者や、限界を突きつけられる者。
ここまで「天才」について突き詰めて考えるのは作家自身の何かしらの経験があるんじゃないかなぁと勘繰ってしまうが、才能を評価されたことのない人間にはとても想像できない世界の葛藤が描かれるのは読んでて面白い。
ただ、後半に視点があちらこちら移動してそれぞれの天才たちの葛藤が綴られていくのはちょっと詰め込み感もある。春夏秋冬、そして四季の名を持つ人物が出てくるが、それぞれのウェイトにはややばらつきがあった。そして、割と葛藤の質が似ている感じが。冬馬はもう少し掘り下げて欲しかった。
めちゃくちゃ雑にまとめてしまうと、才能を持つがゆえに届かなかった何かとの出会い小説、という感じになるだろうか。
ただ言語化のレベルが違いすぎて、しっかりと受け止められたのは全体の二割ぐらいかも。瓶太さんの作品は読み手の言語能力がものすごく問われる。。
あと、cosmo@暴走Pの名前とポプテピパロディが出てくる小説は初めて読んだし、おそらく今後出てくることもなさそう。
本文書体:リュウミンオールド
装丁:大島依提亜
装画:yasuo-range