勝村巌 "空ばかり見ていた" 2026年8月1日

勝村巌
勝村巌
@katsumura
2026年8月1日
空ばかり見ていた
クラフト・エヴィング商會名義で本の装丁の仕事もする吉田篤弘による12篇の連作短編集。 人称や世界観は格編によって異なるがホクトなるパントマイムの技能を持つ流しの床屋にまつわる話が集められている。 全体の雰囲気としては、明確な起承転結のない、静謐な日常や余白を大事にした登場人物の心の動きに焦点を当てた話が続きます。 全12篇の連作短編ですが、それぞれの世界観も日本の商店街が舞台の場合もあれば、時代や土地柄が特定のイメージから離れた幻想的な世界に迷い込むこともあり、かなり自由で多様性のある雰囲気を楽しむことができます。 主人公はホクトにまつわる誰かの場合もあれば、中心人物であるホクトの視点で描かれる場合もあります。ホクトが現れる場合もあるし、不条理にゴドー的な存在として、ホクトの不在が主題となる場合もあります。 そういう意味ではかなり多様性のある世界観を楽しむことが言えます。マジックリアリズム的ですし、イタロカルヴィーノ、堀江敏幸、諸星大二郎などを想起させるリリシズムに溢れています。 劇的な展開はないですが、心の動きが情景と関連しあって美しく共鳴するような場面が多く描かれているのが魅力。 「空ばかり見ていた」というタイトルと呼応して、星空や青空、水平線、曇り空など空にまつわる情景が登場人物の淡い感情と混ざり合って感情を揺さぶるような場面を作るのが大変巧みでした。 脚本家の三宅隆太がいうところの「窓辺系」の小説の特徴がかなりはっきり出ていると思いますが、こういうものを好きな人は一定数いると思います。 劇的なドラマではなく、繊細な心の動きが描かれた作品が好きな方は読んでみてください。
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