しんどうこころ "とどめの一撃" 2026年8月1日

とどめの一撃
とどめの一撃
ユルスナール,M.(マルグリット),
岩崎力
冒頭、「序」にて作者が語るように、閉じられた小さな世界、限られた時間の中で繰り広げられる物語。それは戦争という巨大な波に侵食されていく。しかし、「戦争は人を狂わせる」といった単純な筋書きではない。戦争は、人々の人生に小さなズレを生じさせ、その積み重ねが避けられない結末へと人を運んでいく。 しかし戦争は、重要ながらも本作のひとつのエッセンスに過ぎず、テーマは別のところにあるように思う。 戦争を含め、さまざまな出来事が複雑に絡み合い、それらは一つひとつ終着点へ向かう道程となる。繰り返しは起こり得ないし、やり直しも存在しない。 人は人生を選択の連続だという。しかし選択を迫られる瞬間は長く感じられても、過ぎ去ってしまえば、それは一瞬の出来事としてしか残らない。過去を振り返ると、人生は無数の線ではなく、点の連なりとして見えてくる。そして、その決断に至った理由さえ、もはや明瞭には語ることができない。 もしかすると人は未来を選んでいるのではなく、過去の延長を生きているだけなのかもしれない。 こう考えていくと、本作のタイトルでとある「とどめの一撃」と呼べるような決定的な瞬間は、作中に存在しなかったのではないか。あらゆる出来事が少しずつ終着点へ向かい、そのすべてが「とどめの一撃」だったのである。 環境、選択、時間。この全てはまったくもって無慈悲である。 比較的難解ではあったが、読むたびに新たな発見をもたらしてくれる作品だと感じる。また再読したい。
とどめの一撃
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