にゅっくり朝丸ロケット "吉里吉里人 上" 2026年8月6日

吉里吉里人 上
吉里吉里人 上
井上ひさし
やあ、ボク様だよ。  今日は思い出話をしていくよ。  震災の前年の初夏のことです、市立図書館の児童書架に「吉里吉里人」を紛れ込ませていたのは司書のおば……お姉さんの悪意だったのでしょうか。  「井上ひさし 吉里吉里人」……タイトルにも著者名にも画数の少ない漢字だけしかない、もうこんなの清く正しく心優しい作品に決まってる訳ですよ。  生まれてこの方10年近くの月日の大半を過ごした森の奥にある煉瓦の子宮、明石市立図書館(現在は県と市が建物の賃貸契約で揉めた結果森の外、駅前に縮小して移動済み)の児童室に悪いものなんてあるはずもないしね。  そしてそれまで原ゆたか先生や那須正幹先生の美しい児童文学を全身に浴び、慎み深く教養を深めていた育ちのいい美少年のボク様は夜行列車……夜半過ぎに遠くから聞こえる貨物列車の音をイメージしながら十和田3号の旅に没入していったのです。  ああ、世界は悪意に満ちておったのだ!  井上ひさしは日本語を使わせたら間違いなく文豪のカテゴリに収録される使い手である。  読者、まして防御力ゼロのクソガキなどは試し斬りに使われた豆腐も同然。圧倒的な筆力で蹂躙される!  ベルゴセブンティーン!中華料理屋のおかみさん!火吹き竹でぷうぷう!女子高生は既に女なのだ!etc……2ページに一度は炸裂する小3キッズには到底意味のわからない下ネタが脳みそに克明に刻まれ、一生着いて回る!  読書のスピードと劇中の時間経過が完全に一致する実験的な展開の技法から逃れる術はなく、ドパガキですら置き去りにする勢いでお得意の減反政策批判、40年後にバズっためちゃくちゃ真面目な医療崩壊の問題から似非中国語ギャグまで全てのネタを滑らせずに突き刺してくる。  ヒロコ佐久間さのおっぱいの描写が完璧で危うく精通するとこだったぜ(そこだけは確か理解してたはず)  キリキリ善兵衛のくだりを読み終えたあと、そこには悪党が一人茫然と座っており、「馬喰八十八伝」へと手を伸ばしていたのでありました。
読書のSNS&記録アプリ
hero-image
詳しく見る
©fuzkue 2025, All rights reserved