
サブレとポッポの往復書簡
@snowflake
2026年8月8日
とわの庭
小川糸
読み終わった
心に残る一節
読書日記
@ 自宅
導入で描き出されているのは、とても静かで優しさ溢れる穏やかな世界での母子の日常。そんな、幸せな時間も長くは続かなくて、ある場面からしばらくはとわちゃんにとって後々暗い影を落とす暗黒の年月が続きます。この辺りの展開が本当に生々しく、家の情景ととわちゃんの心情が自分自身の心とシンクロしてしまい、読むのが途中で辛くなってしまった程でした。
しかし、物語の中盤になるとそんな暗闇にも一筋の光が差し込みます。それまではただ、生命的な意味合いでの生存でしかなかったとわちゃんの命は、ゴールデンレトリーバーのジョイ、養護施設で出会った親友のスズちゃん、ピアノが上手なマリさんとの出会いと支え、優しさ、繋がりによって救われます。そして、ここからはこれまでの生存的な意味合いではなく、実存的な意味としての生きる力をとわちゃんは、自分の手で、ゆっくりと、時間を掛けて、少しずつ、だけど着実に取り戻していきます。本文終盤のロバのお話からの描写を借りれば、それはまるで、これまでの暗黒だった年月を少しずつ、少しずつ、井戸の上から、土をかけて、底をかさ上げして、やがては井戸から自分の力で出られるようにと。
幾多の人々との出会いと交流を経て、再び写真館を訪れたとわちゃん。そんな彼女にもたらされた思いがけないサプライズ。読んでいた私に再び込み上げてくる感情の波と涙。
ただ、もしそれをとわちゃんが舌で拭いてくれたとしたら『この涙は、前のとは全く別の味がするね』、なんて言って、笑って返してくれるような気がします。
この『とわの庭』という作品には、確かに前半には暗く、悲しく、胸が締め付けられるようなな展開が続くけれど、その場面があってこそ、後半の光や温もりの場面がよりそれらと対比されて、印象的に伝わってくるんだろうなぁって、読了して感じました。