
勝村巌
@katsumura
2026年8月9日
民藝のみかた
ヒューゴー・ムンスターバーグ,
古屋真弓,
朝倉圭一,
柳宗悦,
田栗美奈子,
鞍田崇
読み終わった
ドイツ出身のアメリカの美術史家ヒューゴ・ムンスターバーグが1957年にアメリカで刊行したFolk Arts of Japanの初の邦訳本とのこと。
民藝は民衆の工藝の略語で、ヨーロッパにおけるモリスのアーツアンドクラフツ運動などに連動する、工業化や機械化がもたらす非人間性に対抗するためのデザインや美学の民主化運動ともいえるようなもの。
民藝というのはものを指す言葉だが、その後に運動、とつくと、柳宗悦が主導したそういう人文的なコンセプトを指す言葉となる。
産業革命の機械化や工業化に反するこういった運動は19世紀の終わりくらいから、世界中で同時代的に発生していたようだ。ドイツ工作連盟とかね。
序文には柳宗悦自身が言葉を寄せており、柳を中心とした民藝運動の理念が、当時どのように海外へ伝えられ、受容されていたかを示す貴重な資料となっている。
解説は哲学者で民藝研究者の鞍田崇氏が務めており、当時の時代背景と現代における民藝の視点を分かりやすく整理している。この解説も民藝の精神を見事に言語化しており一読の価値がある。
■ 構成と「民藝」の分類
本書の良さは、「日常の品々に見出される美」という感覚的になりがちな民藝の概念を、具体的なカテゴリーに分類して整然と伝えてくれる点にある。
民藝のみならず、伝統的な工芸を素材や技法で分ける際のオーソドックスな王道的区分となっていて、参考になった。
1. 工芸品の分類
全国の民藝品を、素材や技法に基づいて以下の7つに整理して紹介している。
陶器 / 編組(竹・草など) / 漆器 / 木器 / 金属器 / 玩具 / 織物
2. 絵画表現と空間表現
実用工芸にとどまらず、絵画や建築空間へと視野を広げている。
大津絵に見られる素朴な絵画表現。
泰山荘(三鷹・ICU敷地内)に代表される、日本家屋の「空間表現」としての民藝。
3. 民藝の四天王
民藝運動を牽引した主要な作家4人についても章を割いて論じている。
濱田庄司(陶芸)
河井寛次郎(陶芸)
芹沢銈介(染色)
棟方志功(版画)
■ 民藝的選定
特に興味深かったのは「陶器」の章での産地の扱いである。
本書では、生活民藝の産地として小鹿田(おんた)や小石原(こいしわら)が詳しく取り上げられ、瀬戸や丹波立杭なども紹介されている。
一方で、日本六古窯のうち信楽、常滑、備前といった産地はほとんど触れられていない。これは著者の見落としというより、鑑賞用の高級陶芸と区別し、あくまで「暮らしのなかで使われる用と美」をすくい取ろうとした柳宗悦らの選定軸(民藝のフィルター)が反映された結果と言え、非常に分かりやすい。
その他にも結構、「これが一番いい」とか「最近は工業化されててダメ」みたいな主観的な判断が即物的に入ってくるのは面白い。あんまり人の意見とか聞き入れず、自分はこう思っとります! みたいな感じが強めで、実際に付き合ったらめんどくさい人なんだろな、と思った。
■ 総括
日常品に宿る美という日本独特の概念を、これほど具体的かつ分かりやすく整理した本は貴重である。
最後の解説では柳が民藝品に求めていたのは「親しみやすさ」インティマシーであった、というような言説があり、実際の柳の言葉も添えられているが、朝鮮の光化門の保護に尽力した話などと合わせて読み解くと趣深い。
手仕事の品々や日常の道具が急速に失われつつある現代において、日本の工芸や民藝の文化をこれから先の時代へ正しく継承していくために、何がその本質であり魅力なのかを冷静に捉え直す好著だと感じた。




