
トラ
@Toreads1234
2026年8月9日
![キング・タビー――ダブの創始者、そしてレゲエの中心にいた男 (ele-king books) ([テキスト])](https://m.media-amazon.com/images/I/51j6m2k+2LL._SL500_.jpg)
キング・タビー――ダブの創始者、そしてレゲエの中心にいた男 (ele-king books) ([テキスト])
ティボー・エレンガルト,
鈴木孝弥
骨太で重厚な伝記。本人のインタビューやレコードへのクレジットが少ないから、周りの証言を幹として本人の業績を浮き彫りにしていく。この本を読んでも、寡黙な地域の商売人が天才的・変態的な音楽のブーストをジャマイカ音楽に起こし、後年それは世界の音楽に波及したという、人物像と功績のアンバランスな部分が興味深いしミステリアスだと感じる。
ジャマイカの首都キングストン、その中の本当に狭い地域で、音楽的な革命が連続して起きていたという話。
〇〇を発明したと言い切るのはかなり難しい。似たプロダクトが累積されていった結果だから。また多くの「わたしがやった」という人々が現れるから。ただこのキング・タビーは「ダブ、ダブプレート、サウンドシステム、レゲエ、ひいてはジャマイカンミュージックの黎明期に活躍し、発展させた人物」であることは確実。ひいては、Hip Hopの誕生にも影響を与えている。それくらいの偉人だと思う。パフォーマーではないから単純な比較はできないけど、マイルスデイヴィスとかスクリレックスとかプレスリーとかクインシージョーンズくらい音楽にインパクトを与えた人だと思う。
「ダブ(ジャンル名)」
パーツで収録した各パートを組み合わせて音楽にしていたものを、もう一度バラして考え直して「ここでギターの音消す」「ベースにだけエフェクトかける」とか逆の発想を使ってするリミックスの原型。
「ダブプレート」
既存の曲を替え歌して、例えば君が代の歌詞の一部を「アメリカ最高」とするような、メッセージを強化した(その場限りの)レコードを即席で作る文化。レコードで作る場合、素材の関係で、悪ければ10回掛けたら劣化しちゃう独自の幻のようなレコードを作り、それをイベントでかける。「その人しか持ってない、今だけの曲」に価値があることはよくわかる。今ではデジタルだけど、それぞれの発注元を賞賛するダブプレート(別名スペシャル)は生き残っている。
「スレンテン」というリディム(伴奏、トラック)では、公式に200曲以上作られたらしい。私的なものであるダブプレートを含めるとどれほどの曲が作られたのか。
Carlton Pattersonという人が、タビーをミュージシャンとしてフックアップしたこと、知らなかった。
「彼は、ウォーターハウスの小さなスタジオから、ポピュラー音楽の歴史上、最も偉大なる革命のひとつを起こした━━ダブの発明者だ。」(p.23)
音楽史の中でそれほど注目されないけど、本当に偉大な功績だ。
「彼らは、イノヴェイションを自分たちに適応させ、道具を"反=取説"的に捉える天分に恵まれており、それをねじ曲げ、自分たちが飼い慣らせるまでこねくり回す。」(p.90)
自分が魅力を感じている部分。過程は違うが日本の加工貿易文化、魔改造文化と通ずる。
「システムの配線やセッティングは"上役"の特権仕事だ。で、俺みたいな若造がレコードをスピンしたんだ。」(p.101)
ここ、しびれた!レコードをかける人よりも、サウンドシステム(でっかいスピーカー)をセッティングする方が、上役。直観に反してて、なんとなく下働きの人々がお膳立てをして、レジェンドがレコードをかけるというイメージだったけど、逆だった。音を大切にしていたのではないかと、期待してしまう。
「ダブはガンジャでハイになったラスタによって発明されたという神話、クリシェはこれにておしまいだ。」(p.354)
とても大切な記録。
King Tubbyという稀代の音楽家の一生は、本当にわかりづらくてまだ謎が残る。でも彼が残したものにくらってるし、くらい続けている。レゲエのトレンドが大きく変わり、音楽を作る環境が整うところで殺されてしまったので、もし生きていたらどんなアプローチをしていたのか、本当に惜しい。読めてよかった。
本当に骨太。正しく、誠実に書こうとしているのがわかる。その反面、《》とか〈〉とか“”とか()とかが本当に多い。つまり文脈に依存する言葉がめちゃくちゃ使われていて、読むのに疲れた。周辺の人物が多く、それぞれの視点からの物語があるので、年代も行ったり来たりして混乱。4,50人の「俺はー」という話の連打で理解しきれたかは自信がない。これは文章読みの習熟度。
ジャマイカあるあるではあるが、ニックネームが各人にあって本名とニックネームでの表記揺れがエグい。これはジャマイカ理解の深さ(知識量)不足。
読者の幅を狭めることには反対だけど、ある程度ジャマイカ音楽とアーティスト、文化の知識を持ったジャマイカ中級者以上だとサクサク読めるのかも。