
トラ
@Toreads1234
あまり「美しさ」みたいなものは理解できない。物語とか知識による「刺激」が欲しくて読書してる気がする。ロマンスは嫌いでロマンが大好き。
- 2026年8月16日
新! 店長がバカすぎて早見和真「あの」店長が帰ってきた。宮崎で店長代理補佐をしていた山本猛が吉祥寺に。そこで正社員になった谷原京子と繰り広げるドタバタコメディ。今まで人に怒られてこなかった次期社長は、谷原に一喝されてどうなっちゃうのか。天然新人バイト山本のバックストーリーと、今後の展望は。 メタ構造を取り入れたある書店の物語。 以下ネタバレ含む愚痴 やはり、谷原と店長を好きになれるかにかかってると思う。残念ながら自分は2人ともイマイチ愛せなかったから、物語と自分に距離が生まれ、距離が生まれるとアホらしいなと感じてしまった。専務とのスレ違いコントも恥ずかしくなった。父親も、ギリギリ乗れない軽薄さで、山本さんも許容できない二面性。 所々面白い表現があって、その表現力でなんとか読み切った。 ただ、評価とは別に分かりやすい笑いをやろうとすると、こういう方向性に向かう人もいるのだろうと。自分はあまり刺さらなかったが、そもそも「刺さる」ことを求めていない人もたくさんいる訳で、そういう人にとっての娯楽読書としては、これくらい分かりやすく、ドタバタしている方がいいのかもしれない。書店員の苦境を描いた本作が、作者の思う「自分の持っている売れるメソッド山盛り本」なのだとしたら、恩返しとして筋が通ってるし、格好いい。 もう一つ悪口を書くと説教臭い。 作中作のある小説について 「素直な気持ちでそれを読んで欲しい。小説に限らず、創作物っていくらでも難癖をつけられるものだろう?(中略) それを補って余りあるおもしろさや文章の美しさ、熱量みたいなものを全て無視して、それらしい批判はできるはずなんだ。今回だけはそういう見方を排除してもらいたい」(p.245) とか 「読者は作家のたった一冊の駄作を許さない。いや、本当に駄作であったのならまだしも、自らの心理状態によって受け入れられなかった本をつかまえ、あの作家は終わったと断じ、二度と戻ってくることはない。」(p.258) みたいな言い訳がましく、書店員という役柄を利用した作者の本音と読まざるをえない文章が散りばめられている。それをセリフとか内言語ではなく、物語で表現するのが作家やろがい! 前作中で大西賢也という作家がデビュー作で熱いものを書いて、そのあとはイマイチ。そこから例の作品で盛り返すというストーリーがあり、それをもっと盛り立てれば、この説教臭いセリフが伝わるのに。 読みやすい。面白いところもある。ただ、自分向きではなかった。 - 2026年8月12日
BUTTER柚木麻子差別への抗議として、出版社を移した本作。旧版の新潮社文庫の方を読んだ。内容が変わっているのかは分からないけど。 軽くは無いが、文章が上手くて読みやすい。純粋なエンタメとしても、自分の何かを見つめ直す作品としても。はじめは「こんなもんか」って思ったけど、ページを追うごとに止まらなくなり、調べ物をし、ページを戻り。傑作。 「欲望」「社会性」「支配」を感じた。 様々な欲望(恐怖)で駆動される人達の物語で、特徴的なのは600ページ弱の中で体感としては100ページ分くらいは食べ物とその味わいに費やされていたこと。ブフ・ブルギニョンのように手がかかる料理、バター醤油ご飯のように手がかかっていない料理、両方食べたくなる本。ただ、メインは犯罪やジェンダー、生き方の話だと思う。個人の経験によるけど、自分にはミステリでもあり、ホラーでもあった。 「女性性」みたいなものへの解像度でこの話の読み取りは変わってくると思う。自分はそれが低いので、エンパシーを働かせながら読んだ。無知と無自覚を開陳するようで恥ずかしいが、これを多くの読者がシンパシーをもって読んでいたのであれば、とてもつらい現実と社会の構造を、上手く表した本なのだと思う。 ずっとバターが出てくる。実物として、構造として。なんとなく、このぬめっとした読み味も重なる。読みやすい文章だけど、読み進めるのがしんどい場面が多々ある。主人公・里佳の心情から出来事へとシームレスに繋がって混乱したり、ドラッグの描写を疑うような、ちょっと飛んだ表現があったりと仕掛けがたくさんある、表現力がみなぎる文章。 「嘘ではない笑みがこぼれ、里佳は身体の芯がほぐれるのを感じた。罪悪感からくる強い苦味さえ、アクセントになって、口触りが良く思えるほどに。」(p.472) 味わいを心情に反映させるような表現は多かった。 「ううん。今日は久しぶりに楽しかった。あなたの周りは変で面白い人ばっかりね」(p.581) 救いの一言。積み重ね、シチュエーション、タイミング全てが合致して最高の褒め言葉。 「梶井真奈子」という名前が、ずっと異物感がありひっかかり続けた。目の周りの描写も多く、どうしても「眼(まなこ)」を連想するし、他者からの視線も重要な要素だし、自分にとって珍しい名前だったから。 終盤、梶井の反撃があるが、これがそれほどまでに意味を持ってしまうということがリアルなのであれば、自分を含めた人々の真実への興味とその曖昧さが強烈で、あまり認めたくはなかった。新しくショッキングな情報に群がり、真実かどうかは問題ではなくエンターテインしてくれる物語をどんどん乗り継いでいく様は、老若男女いわゆるドパガキであることの証左だろう。 常に梶井を意識させられて、安心できる場面はとても少ないが話として抜群に面白かった。普通の書き手であれば3回くらい終われる箇所があった気がする。それなりに満足できるような。でもそこからの展開が素晴らしくて、波がどんどん大きくなっていった。 - 2026年8月12日
店長がバカすぎて早見和真中型書店で契約社員として働く谷原京子とその店の店長山本。2人が中心になって巻き起こるドタバタコメディ。職場の武蔵野書店、その近くの喫茶店・イザベル、実家の小料理屋・美晴という三つの場所で物語が展開する。 書店員の物語ということと、そのリアルさが話題になったのだろうが、コメディの中にミステリーみもあり、とても面白く読み進められた。魅力的なキャラクターと引きのある関係性が、物語の推進力になっている。 きっちり大小の事件が起きるし、人物の過去と現在が繋がっていく。細かい本屋事情、契約社員の苦しみ、出版社との関係などディティールが素晴らしいんだと思う。できればもっともっと書店員の実情みたいなところを読みたかった。 以下愚痴含むネタバレ 執筆から考えると10年弱なのか、それでも驚くほど時代が変化してしまったことを感じる。特にカスハラ客が出てくるが、こんなもん秒で出禁にすればいいと思ったし、常連の客に「前もその作家の本買ってましたね」と話しかけるのは職業倫理的にどうなのかとか、発売前のゲラの内容をレストランで話してしまうのはとか。常識が変わってしまったことと、その厳しい世間の空気を内面化してしまっている自分に気付き、楽しみきれなかった部分がある。当時読んでたら違ってたろうな。表現の端々やそもそもの構造から懐かしさを感じた。 それと、現在の「クイア役は実際のクイア俳優に」という論調に似ているが、男性作家が女性主人公を書くことの危うさについて考えさせられた。もちろん「殺人をしていない作家の推理小説」が成立するように、作家の属性とキャラクター造形に矛盾があって当然だし、想像力というものがそこを繋ぐと思う。だから男性作家が女性主人公を描くのは全く問題ではない。ただ、アホな女性主人公を書くと少しモヤる。正直、主人公の京子は戯画化された「情緒不安定な面白29歳女性契約社員」という感じで、あまりその内面描写や社会的状況に乗れなかった。気分が乱高下し、それと仕事が連動してしまうところとか、急にキレるところとか、店長に恋しそうになるところとか。なんというか、あまりに便利に投影しすぎではないかと。男性主人公ではダメだったのかな。 そもそも、自分はダメ店長に全く可愛さを見出せなかったので、この構図にずっとズレを感じていた。やっぱり恋愛の持ち出され方が安易だと感じてしまうとそこで冷めてしまうな。フィクションの中のリアリティのラインが自分とは違う。それでもある程度は面白く読めた。 - 2026年8月9日
キング・タビー――ダブの創始者、そしてレゲエの中心にいた男 (ele-king books) ([テキスト])ティボー・エレンガルト,鈴木孝弥骨太で重厚な伝記。本人のインタビューやレコードへのクレジットが少ないから、周りの証言を幹として本人の業績を浮き彫りにしていく。この本を読んでも、寡黙な地域の商売人が天才的・変態的な音楽のブーストをジャマイカ音楽に起こし、後年それは世界の音楽に波及したという、人物像と功績のアンバランスな部分が興味深いしミステリアスだと感じる。 ジャマイカの首都キングストン、その中の本当に狭い地域で、音楽的な革命が連続して起きていたという話。 〇〇を発明したと言い切るのはかなり難しい。似たプロダクトが累積されていった結果だから。また多くの「わたしがやった」という人々が現れるから。ただこのキング・タビーは「ダブ、ダブプレート、サウンドシステム、レゲエ、ひいてはジャマイカンミュージックの黎明期に活躍し、発展させた人物」であることは確実。ひいては、Hip Hopの誕生にも影響を与えている。それくらいの偉人だと思う。パフォーマーではないから単純な比較はできないけど、マイルスデイヴィスとかスクリレックスとかプレスリーとかクインシージョーンズくらい音楽にインパクトを与えた人だと思う。 「ダブ(ジャンル名)」 パーツで収録した各パートを組み合わせて音楽にしていたものを、もう一度バラして考え直して「ここでギターの音消す」「ベースにだけエフェクトかける」とか逆の発想を使ってするリミックスの原型。 「ダブプレート」 既存の曲を替え歌して、例えば君が代の歌詞の一部を「アメリカ最高」とするような、メッセージを強化した(その場限りの)レコードを即席で作る文化。レコードで作る場合、素材の関係で、悪ければ10回掛けたら劣化しちゃう独自の幻のようなレコードを作り、それをイベントでかける。「その人しか持ってない、今だけの曲」に価値があることはよくわかる。今ではデジタルだけど、それぞれの発注元を賞賛するダブプレート(別名スペシャル)は生き残っている。 「スレンテン」というリディム(伴奏、トラック)では、公式に200曲以上作られたらしい。私的なものであるダブプレートを含めるとどれほどの曲が作られたのか。 Carlton Pattersonという人が、タビーをミュージシャンとしてフックアップしたこと、知らなかった。 「彼は、ウォーターハウスの小さなスタジオから、ポピュラー音楽の歴史上、最も偉大なる革命のひとつを起こした━━ダブの発明者だ。」(p.23) 音楽史の中でそれほど注目されないけど、本当に偉大な功績だ。 「彼らは、イノヴェイションを自分たちに適応させ、道具を"反=取説"的に捉える天分に恵まれており、それをねじ曲げ、自分たちが飼い慣らせるまでこねくり回す。」(p.90) 自分が魅力を感じている部分。過程は違うが日本の加工貿易文化、魔改造文化と通ずる。 「システムの配線やセッティングは"上役"の特権仕事だ。で、俺みたいな若造がレコードをスピンしたんだ。」(p.101) ここ、しびれた!レコードをかける人よりも、サウンドシステム(でっかいスピーカー)をセッティングする方が、上役。直観に反してて、なんとなく下働きの人々がお膳立てをして、レジェンドがレコードをかけるというイメージだったけど、逆だった。音を大切にしていたのではないかと、期待してしまう。 「ダブはガンジャでハイになったラスタによって発明されたという神話、クリシェはこれにておしまいだ。」(p.354) とても大切な記録。 King Tubbyという稀代の音楽家の一生は、本当にわかりづらくてまだ謎が残る。でも彼が残したものにくらってるし、くらい続けている。レゲエのトレンドが大きく変わり、音楽を作る環境が整うところで殺されてしまったので、もし生きていたらどんなアプローチをしていたのか、本当に惜しい。読めてよかった。 本当に骨太。正しく、誠実に書こうとしているのがわかる。その反面、《》とか〈〉とか“”とか()とかが本当に多い。つまり文脈に依存する言葉がめちゃくちゃ使われていて、読むのに疲れた。周辺の人物が多く、それぞれの視点からの物語があるので、年代も行ったり来たりして混乱。4,50人の「俺はー」という話の連打で理解しきれたかは自信がない。これは文章読みの習熟度。 ジャマイカあるあるではあるが、ニックネームが各人にあって本名とニックネームでの表記揺れがエグい。これはジャマイカ理解の深さ(知識量)不足。 読者の幅を狭めることには反対だけど、ある程度ジャマイカ音楽とアーティスト、文化の知識を持ったジャマイカ中級者以上だとサクサク読めるのかも。 - 2026年8月6日
砂糖の世界史川北稔紅茶×砂糖は金粉寿司だった。 砂糖という、現在は1kg300円でも買える日常的な調味料。当然歴史があり、かなり理不尽さを含んで発展してきた農作物がどのように扱われてきたか。話の中心はイギリス、その周辺で何が起き、人の生活をどう変えたか。産業革命同様、世界にインパクトを与えた麻薬のようで甘い富の象徴。 酒の文化史でも出てきた記述だが、ある時期の労働(あるいは資本主義)というものが、生活にたくさんの要求をして、現在の生活様式に大きな影響が与えられた。そして今私たちが文化だと思っているものの中にも、そこで生み出された物もある。 世界史を把握していないので、細かく理解できてはいないけど、平易な文章でとても読み易く、驚きの詰まった本だった。 「1442年には、彼らはヴェルデ岬にまで到達しました。」(p.19) 脱線。W杯で話題のカーボベルデはベルデ岬の訳(ポル語?スペ語?)だと思うけど、ヴェルデ岬はアフリカ大陸のセネガルにあり、その岬の西側にある国に、その岬の名前つけるのおもしろい。 「砂糖のあるところに、奴隷あり」(p.28) はじめは意味があまりわからなかったけど、読み進めていくと、詳細に解説され、暗い気持ちになっていく。知ることがまず大切。 「この時代のヨーロッパの職人たちは、なお、週末には飲んだくれ、月曜日は二日酔いで仕事をさぼるというようなことが、当然のように認められていました。「聖月曜日」といわれる慣習がそれです。」(p.50) 日本と同じ。 「多くの人びとが慢性的に栄養不良の状態にあった時代ですから」(p.63) 結構、衝撃的だった。 「時代的にいえば、砂糖のつぎに、つまり産業革命の時代に圧倒的な『世界商品』となった綿織物は、化学繊維の発達ですでにその地位を失ってしまったようにみえます。」(p.198) 栄枯盛衰。 日本でも徳川吉宗が国策として砂糖の栽培を広めようとしたというのも初めて知った。サトウキビ糖とビート糖のシェア遷移もおもしろい。そして化学甘味料。 ジャマイカのラム酒文化にも影があったんだな。 イギリスではコーヒーハウス、フランスではカフェ等、世界では飲食を共にする場所がハブとなって、文化や科学の発展、思想の深化などが進められた事例が多い。喫煙所、料亭、バーなど日本でもそういう場所がある。口を開く行為が関係するのか、ゴルフやスカッシュなどを考えると、本質的には目的を2つ走らせる場所ではコミュニケーションがうまくいきやすいだけという話なのか。 大小様々なものがあって、現在を形成しているけど、その中で砂糖はかなり大きなウェイトを占めると思う。 - 2026年8月4日
テロリストのパラソル藤原伊織賞金稼ぎ的な作品の出自にひかれて読んでみたけど、滅茶苦茶おもしろい。まず文章にひっかかりがないから、話の中心にフォーカスしながら読める。その上で、この時代の「かっこいい」を表しているんだろうなと感じる。 主人公が新宿中央公園でテロを目撃して、そこから被害者との繋がり、加害者の探索。全共闘の同士だった優子と桑野が巻き込まれてる。ヤクザ、ホームレス、警察、巨大企業、活動家。大きく広がって、最後はとても小さく終わる。 時代性なのか、村上春樹に似ていると思った。 「彼女はまたアクセルを目いっぱい踏み込んだ。山崎家に到着するまで、私はシートベルトを装着することに決めた。」(p.279) 時代の変化。シートベルトをつけることに意味をもたせ、表現として幅をもたせられた時代。 「私たちは世代で生きてきたんじゃない。個人で生きてきたんだ。(後略)」(p.372) この考えは常に忘れずに持っていたい。 - 2026年7月29日
禁忌の子山口未桜医療ミステリー。緊急医をしている武田の所へ自分にそっくりな患者が搬送されてくるが、死亡を確認する。この事件を昔からの友人で、同僚、感情面以外は完璧な城崎に相談し、2人で解決して行く。生島という医師がなんらかの事情を知っていると睨んで、話を聞きに行くあたりから話は大きく展開して行く。 自分そっくりの死体の身元、多くの容疑者、何か隠されていると匂わされる事実。それらを繋いで真相へ。 大きな流れとしてはとても面白かった。納得できる裏切りも多くあって、軌道修正をしながら楽しく読み終えた。 以下ネタバレ含む 生殖医療の問題を中心に、謎が連鎖して行くという大筋はすごく面白い。 ただ、文章表現として合わないところが。 医療関係の描写、正確に描こうとするあまり冗長で「こんなに書くなら何か謎に関係するかな」と思ったら、全く関係ないという肩透かしを何度も味わった。意図していたとしても、手法として好きではない。 前提知識が違っていて、用語の説明に過不足がある。「バックル外し」とか「クラーク」とか一瞬ではピンと来ない単語や表現が。これは自分の知識不足。 城崎を特別視・神格化したい筆者とこちらのズレ。武田の口を通していかに城崎がすごいかを演出しようとしているっぽいけど、逆にぺらく感じてしまった。魅力の薄いホームズは見てられない。 最後、唐突なメロドラマ。ただ、倫理観がぐちゃぐちゃでそこは人間らしくていいなと思った。 - 2026年7月26日
引き合いに出されているRHYMESTER宇多丸や、他のラッパーがどう受け取るか、聞いてみたい。 ラッパーの言葉は強い。2003年にお姉さんを亡くしたSEEDAは曲の中では姉の死を2002年とした。「曲に出すときにはニ〇〇ニ年にしたかった。嘘にしたかった」(p.363)と語っていたそうだが、短い言葉ながら心情がよく伝わる気がする。 他にも多くのラップの歌詞が紹介されているけど、恐らくその時の本人にはそうやって表現するしかなかった心の内を吐き出している。 個人的にいい飲み会とかインタビューって、「話し手が頭の奥にしまっていて、意識してなかったような、でも本当の話をできた時」だと思ってる。ラッパー(その他の表現者も)は、韻というルールに合わせる形で自分の考えを推敲して推敲して作品にすると思う。氷山の一角を見つけたらその下に潜って丁度いい言葉を見つけてそれを歌ってる。そこに美しさを感じている。 コラボしましたーの代わりに 「次の次元行けるように豪傑同士結合し曲げる鉄格子」と叫ぶし 子供時代大変だった、の代わりに 「よくある話子供でもロンリー 真っ暗な家に慣れた小2」と。 というシリアスな面もあるし、本書では射程に入っていないけど言葉遊び、アイディア勝負なところもある。 「いま世に溢れている歌は、思考のリズムと乖離した遅すぎる言葉の表現でしかない。」(p.27) ラップの大きな特長だと思っていて、格好いいとか含蓄があるとかもあるけど、情報量が多いというところに魅力を感じている。それにビートの解釈が自由。歌謡曲が1小節を4〜8で捉えていたものをその隙間を見出して「ここにも言葉入れられるじゃん」ってするところが好き。 以下愚痴、not for meだったと思うところ。 批評の目的を知らないが、本人の理解を整理するためなら成功してる。考えを伝えるためなら、私は想定読者に含まれてなかった。インテリ向けだと感じた。 自分が批評を読み慣れていないからかなりきつかった。「〇〇的」とか「〇〇性」ばかりで読んでいてぼんやりしてくる。適当に開いた1ページで数えたら10個の〇〇的、7個の〇〇性が使われていた。誠実・正確に説明しようとするとそうなるのだろうが、ぼんやりとした概念をぼんやりした言葉で説明するから何を読んでいるかわからない。知識不足だが、ページ内の知らない語彙が許容量を超え続ける。 この本を簡単に表すと「日本語ラップ×批評」だと思うけど持論として、こういう場合どちらかにピンときていればなんとか読み通せることが多い。でもこれは「日本語ラップ」への興味はそれほど必要なく、「批評」に関する耐性とか知識が必要条件になるのではないかと感じた。章ごとに5行くらいの要約つけて、その説明と証拠をその章で書く形じゃだめ?知的な退廃を招く?もう少し平易な文だと助かる。 音楽(芸術)という、半ばマジックのようなものの批評はどこまでその作品の価値を高めるのか考える契機になった。分析することはその文化を豊かにすることに対して寄与するが、原初的な「よくわかんないけど楽しい!ノレる!」という部分も大切で、今後ラップを「いや、これは意味の二重性という面でうんたらかんたら」と、したり顔で評価する知識人が増えて、陳腐化していってしまうことを危惧する。ただ、映画のように当たり前に批評がなされることが行き渡ったことの証拠だとも思うけど。 それと、デリダだ柄谷だドゥルーズだと、ビッグネームの言葉を使うのが作法なのかもしれないが、著者の思考との接続があまりスムーズじゃ無い気がして、読み進めるのにパワーが必要だった。正確には何が言いたいのかが把握できないまま、目が滑っていった。自分にとっては「読みづらいけど分かりたい!」にならなかった。頭の中で「分からない」「集中できない」「納得できない」の三つがグルグルし続ける、苦しい読書だった。 10年後くらい、批評やヒップホップにもう少し詳しくなったら読めるようになるのかも。 「ヴィルノが注目する、エルネスト・デ・マルティーノのきわめて興味深く刺激的な『呪術的世界』は、近代的な存在、意識の様式であるところの、ハイデガー的現存在および現在意識の分析を参照しつつ、前近代的な呪術世界における生の在り様を描き出す。」(p.227) もうボケみたい。全部聴き取れたのにってなる。 - 2026年7月7日
ジャガー・ワールド恒川光太郎糸を撚って布を編んで、立体物を作っていくような、丁寧で重厚な物語。630ページあるのでできることであり、無駄を削ぎ落としたから雑味が無い。面白さがギチギチに詰まってる。 マヤをベースにアステカをミックスしたようなある王国と周辺の話。主人公スレイは平民から奴隷へ、運と勇気で戦士になるがそこからどう振る舞っていくか。期待を裏切る成り上がり。 他にもゴリゴリの戦士や神官、宗教者など準主役たちのばらつきが話を分厚くしていく。 文章としては、内省はあるが感情表現が少なめで、出来事の積み重ねで描写していって、要所要所で少しエモーショナルな表現という、サラッとした書き方で進めるところが自分には合っていて、とても読みやすい。 会話も砕けた表現で自然に近く読みやすい。 トップクラスの頭脳が戦う問答のシーンは「未来をどう作っていくか」という、現代的なテーマでやり合う熱いシーン。 重要ではないと思っていたキャラが意外な所で、不可逆なことをしでかして、世界を進めていくという働きをする。 少し歴史が関わるが、感覚は現代だから知らなくても楽しめると思うし、長いけど続き気になって読んじゃうだろうし、圧倒的なエンタメを求める人におすすめ。 「人を支配するのは恐怖こそ最良の道具である。舐められないからこそ内政が混乱しない。だが━━著しく愚かであることはどこまで許容されるのか。」(p.85) 暴力的な暗君に対して。 「生贄はこの大地で千年以上連綿と続いている文化である。王と神官の社会構造に根深く関わっており、それらの否定は〈非文明人の思想〉ではないか。」(p.235) パラダイムシフト。今とは逆の価値観。どっちが正しいとかではなく(現在の倫理観では明らかに誤り)。 - 2026年7月3日
こういった本は眉唾な記述が多いので、話半分で。 アーティストとその見出し語を掛け合わせたイラストがとてもいい。 Def(最高な)がDeath由来でDefinitleyにも繋がっていくのか?hook up withでセックスすること。cypherは暗号(身内言葉)みたいな意味だと思ってたけど、ゼロ・輪が語源か。言われてみれば。 用語集としては基本編だけど、日本でもアーティストが使うようなスラングが多数含まれるので、これを知るだけでも、音楽への理解が多少深まる。 なにより、アメリカのヒップホップの有名どころの名前がたくさん出てくるので、それを追っていくだけで全体像をある程度掴める(2017年まで)と思う。 - 2026年7月1日
アンケートや警察の検挙数などのデータ、法律や村の掟、各種証言などを通して、その当時、お酒はどんな扱いをされていたかを描写する本。それぞれの時代で、お酒を飲むことに託された意味が変遷していくのが面白い。 「村落社会の中核的生産物(米)を、半生産的な液体へと変換し、しかも無目的に浪費する、という飲酒儀礼の本旨にとって、濁酒ほど似つかわしい酒はほかになかった。」(p.45) これは、本当に今の自分からは絶対に辿り着けないお酒を飲む意味。大切なものの浪費=無駄だと思うけど、無駄からしか生まれない文化は確実にあると思う。 「昼酒に対する戦後社会の不寛容さ」(p.84) パラダイムがシフトしていることを感じる一文。 「余暇飲酒の労働化・理性化と呼ぶべきこの現象」(p.91) これもパンチライン。 「だがその一方で、専門家の知見から大きく逸脱した、正反対の薬効イメージも、日本社会では広く信仰されてきた。アルコールには勤労者たちの疲れをとり除き、労働力を回復させる、すぐれて生産的な効能が含まれている、という想像・信仰である。」(p.122) 「『薬効』についての広告規制のゆるさもあいまって、20世紀前半のメーカー企業が自社ビールに付与したイメージは酒というよりは、疲労回復剤や栄養剤のそれに近いほどだった。」(p.168) お酒は回復薬として扱われていた。 「年間の種類別消費量において、ビールが清酒を追い抜いたのは1959年度である(清酒65万キロリットル、ビール71万キロリットル)。」(p.166) なぜここで逆転するのか、清酒の独走を許さずビールの台頭を呼び込んだ時代的な要請。 皮肉なことに今の風潮として、アルコールは迫害され「無」へと向かっていると思う。巻末にノンアルと清酒の量が並んできてる話が載っているが。 確かに、飲酒の害が喧伝されたり酒の場での犯罪や事件など、迫害を後押しする事象が多く観測される。しかし、社会問題が解決していったとしても、この文化が無くなってしまうことには反対だ。 - 2026年6月27日
あなたはなぜ雑談が苦手なのか桜林直子勝手な偏見で、そこそこ上手くやってきたコミュニケーション強者が、雑談を盛り上げる手法を伝達する本だと思ってたけど少し違った。 「地面の上で上手に走る方法を知る前に、土の中から自力で地面に這い上がることを頑張らないといけない人もいる。」(p.178) 親子関係に苦労があった著者の定義する「雑談」とその効能について。心理的安全性みたいなものも含めて、かなりコミュニケーションに混乱をしていた著者が、脳を回して、人と話して、内省し、行動し、積み上げて積み上げて崩れた部分を補修して、血で塗り固めてきた現在、コミュニケーションを職業とする中での気づきや提言。自分を知り、自分の中の蓋をしていた領域を解放していくためにも他者との関わりが重要だと。 正直、真摯さと努力の量が違いすぎて、全然話が入ってこないところもある。 また、「雑談(こちらが聞くこと中心)」っていう、目的を設定できちゃえば、そこそこできる気がする。生活の中の会話は、この目的のコンセンサスを取りながら進めるから難易度が爆上がりする。話を広げるのか、まとめるのか、傾聴するのか、相手は何かもっているのか、こういった判断の部分に自分は難しさを感じていると気づけた。かといって友達と話す時に「今日は話を盛り上げるタイプ?聴いて欲しい感じ?それともひたすら打ち合う?」みたいな確認して始めないし。いわゆる「お喋りの技術」ではなく、この空気の読み方・作り方みたいなものが自分が必要とする能力だ。 「自分語りは脳内で快楽物質を分泌させる」みたいなネット記事を読み(これは自分の元からの考えを強化するもので)、自分のことを話すことは避けてきた。自己開示が苦手。でも、桜林さんの柔軟さは憧れる。 態度と言葉選びがとても好き。 「わたしは断るのが得意で、なんならやりたくない人がやるのは相手に対して失礼だから、断るのは相手のためだとすら思っている。」(p.98) 「伝わりにくい相手に伝えるためには、言葉が通じ合う場所を探さないといけない。言葉が得意だからといって言葉でねじ伏せるのではなく、相手と問題を共有できる場所を探り、敵対せず、伝えないといけない。」(p.185) 絵や動画、言葉(書き言葉と話し言葉)など、自分が使えるツールの中から柔軟に選んでいきたいし、チャンネルを増やしていきたい。 前提、抽象度、節の短さ(話題の掘り下げ方)があまり自分にはフィットしなかったが、学びのある本だった。連載を追いかけて毎週の楽しみとしての方が自分にはよかったかもしれない。 - 2026年6月27日
成瀬は都を駆け抜ける宮島未奈三部作の完結編。終わってしまって、本当に寂しい。姪っ子みたいに、成瀬の成長を見守りたい。 平野レミ、古畑任三郎、ルフィとかみたいに、「この人だったらどう考えるかな」が成り立つような、魅力的で強烈で芯のあるキャラクター。強くて、フラットで圧倒的な善(を探っている)。人を惹きつける求心力と、周囲の人が成長したくなるような遠心力がえげつない。 就職したら敬語使えるのかな、何の仕事に就くのかな、これから何枚賞状もらうかなと、成瀬の未来が希望をくれる。もちろん出来すぎたフィクションなんだけど、ワクワクさせ続けてくれるエンターテイメント。 島崎のこの心情は、読んでない時には意味が分からないが、一作でも読めばその影響力を上手く表現した文に感じる。 「自分が大津の空気にチューニングされていくのがわかる。このまちには成瀬がいるのだ。」(p.197) - 2026年6月26日
アルプス席の母早見和真カバーとタイトルから熱い青春系かと思ったけど、そこから一本筋をずらしたような。前半の裏切ってくる、「なんの話?」という部分は苦しいけどよかった。漫画のバトルスタディーズを別の視点から見た感じ。 悪役もいるにはいるが、最後まで読むと「いい人に恵まれてよかったね」となるので、構造が簡素化されてるように感じてしまう。 - 2026年6月19日
夜のピクニック恩田陸とにかく青春。朝日を感じられる、生命力に満ちた作品。 高校最後の歩行祭(夜通しで80km歩く)で何が起きるのか、起きないのか。 融と貴子はお互いのことを意識するあまり恋人関係にあるのではないかと周りに疑われる。 昼から次の朝まで歩く中、色んなことを話し、色んなことに気づいていく。自分のことだったり、自分の外のことだったり。 途中の犬の死体とか水死体の意味は掴みきれてないけど、人生はあっという間だからうだうだしてられないよということかな。ずっと読みたいと思っていた本だけど、なんかタイミングが合わず。イラつく描写もあるけど、高校時代の未熟で甘い感じ、でも1日が明確に光ったり闇ったりしてた感じ。よかった。 「普段は、二人の会話は雰囲気だけで進んでいく。言葉の断片だけがやりとりされ、二人が描いている絵は周囲の人間には見えない。」(p.142) 「だけどさ、雑音だって、おまえを作っているんだよ。(中略) このノイズが聞こえるのって、今だけだから、あとからテープを巻き戻して聞こうと思った時にはもう聞こえない。」(p.144) 「誰かを個人として、恋愛対象として愛していたのではなく、彼女たちの存在そのものに、彼女たちが自分に感じさせてくれる空気に、強く惹かれ、焦がれていたのだ。」(p.326.327) - 2026年6月15日
- 2026年6月11日
単純な脳、複雑な「私」池谷裕二脳科学者の、高校での特別講義。一部難しいところもあったけど、わかりやすく面白い。脳に関する蘊蓄がたくさん。脳の仕組みの精緻さといい加減さを感じられる。自分の理解とズレがあるところがかなりあって、これこそ読書(知識の獲得)の醍醐味。 HPでアニメーション公開していたり、パラパラ漫画が仕込まれていたり、ギミックも凝っていていい。 脳は騙せる。騙せないところもある。騙せば一時的には上手くいくけど、あまりに乖離が酷いと心身のバランスを崩してしまうこともあると思う。この匙加減は難しそう。 自己組織化とか創発とかが理解しきれなかったから、また読む。 「とくに実験科学が証明できることは、『相関関係』だけだということです。因果関係は絶対に証明できません。(中略) つまり脳がそう解釈しているだけ。因果とは脳の錯覚な訳です。」(p.28-29) 「全体をひとまとめに認識するやり方のことを『ゲシュタルト群化原理』と呼びます。」(p.43) 「もう一歩踏み込んで言えば、『正しい』というのは、『それが自分にとって心地いい』かどうかなんだよね。その方が精神的には安定するから、それを無意識に求めちゃう。つまり、『好き』か『嫌い』かだ。自分が心地よく感じて好感を覚えるものに対して、僕らは『正しい』と判断しやすい。」(p.130) - 2026年6月4日
ありか瀬尾まいこ母子の話。びっくりするような事件がある訳ではなく、日常を丁寧に丁寧に積み重ねて、人の成長を感じさせてくれる。 ひかり(5歳-6歳)の言動がかわいすぎる。名前の通りこの話の光・希望となっているし、「おけつもの」とか「落ちてないし、こぼれてないよね?」など言葉でも救ってくれる。 ラスボスとの戦いはきついところがあるが、成長に必要な展開。 不安があることはわかるが、颯斗・三池・宮崎が最高。そこに林田も加わり、無敵の布陣に。ただ、現実はこの「家族・ママ友・仕事」においていい関係が築けている人がどれほどいるか。ネタバレするとシンママが上手くいくストーリーで、とても希望に満ちているけど、どうにもならずしんどさに押しつぶされている家庭がたくさんあるんだろうな。似たような状況にある人に、希望も絶望も与えうる物語だと思う。薄い依存先をたくさん作ることの大切さ。 「美空(みそら)を育てることに必死で(後略)」(p.52) 初めて「美空」と呼ばれる。「ママ」と「姉さん」はもっと前に出てきている。「美空」としての自分があまり認められず、好きになれていないんだろうな。 「(前略)じゃなかった。すごくうれしい。」(p.106) 美空がどんどん変わっていく。 「宮崎さんの子どもさんなら、それこそしっかりしてそうですけど」(p.115) 難癖に近いけど「子どもさん」っていうゆるい表現が、おおらかさとかを感じさせて凄くいいと思った。 「私なら、ひかりを笑顔にできる。つらさを和らげることができる。私にしかできないことがあるのだ。」(p.210) 完全に仕上がった。 こちらのリテラシーの問題だけど、会話のリアリティって本当に難しいと感じる。6歳が「まっさら」って使うかなとか、大人同士の会話を子供って意外と聞いてない?とか。 - 2026年6月2日
武道館朝井リョウNext Youという6人組アイドルグループから1人が脱退するところから始まる。 愛子は小さい頃から歌ったり踊ったりするというアイドル的な行動が大好きで、選択・決断を繰り返してアイドルをやってきた。グループの目標である武道館のライブが近づいてくる。しかし、あることがきっかけで一度立ち止まることになる。時を同じくしてエースの碧も大きな問題と向き合うことを決断する。 アイドルファン・アイドル自身必読の書なのではないか。アイドル=偶像、この幻想の上で成り立っている「ビジネス」だと。よく使われる言い回しだが、彼女も一人の人間なのだという意識があれば(熱狂は薄まるけど)平和になる。もちろん運営側が売り上げを出すために熱狂を生み出そうとしている面もあるけど。 時代は違うけど、イン・ザ・メガチャーチとペアリングして読むとより味わい深い。 太ることを気にする真由とラーメンに行くシーン、名古屋に車で行くシーン、振付の先生のアジテーションもいい。 関連する仕事の話が挟み込まれているのも立体感を増している。 全体的にビジュアル・視線を重視した作品だと感じた。 - 2026年5月30日
ウォード博士の驚異の「動物行動学入門」 動物のひみつアシュリー・ウォード,夏目大動物の社会性とその生態についての分厚い本(700ページくらい)。まず文章が面白いし読みやすい。どれくらい正確なのかは分からないけど、動物の行動を「反射・本能」ではなく「感情・関係性」に寄せて説明していくから、物語のように話が進む。 種や食物連鎖などで関係しそうな動物を数珠繋ぎで紹介していってくれるから、意識が途切れない。 バッタの孤独相と群生相の話は、社会性が低いと感じている自分にとっては、拠り所にしたくなる話。 クジラや象など大きい動物はやっぱり人間的というか、わかりやすくて面白い。逆にアリやオキアミのように小さな生物は反射に近いような、でも種の存続のために最適化されてきた行動がわかって興味がわく。 最後はありがちだけどチンパンジーとボノボ。やっぱりここは「人間」について考える上でとても重要な要素だと思う。似てるけど違う、違うけど似てる存在。 各動物、性差がありそれがそのまま社会的な役割の差にもなっている。人間はここから脱しようと試行錯誤しているけど、日々SNSでは議論が起きている。でもそれはしょうがないなと思った。人間しかやらない(観測した範囲では)ことをやっているんだから、試しながら苦しみながら人間らしい営みを見つけていくしかないと思う。 他の動物と比べて、人という動物は脳とか思考、情緒みたいなものの能力が高い。ただ、それで種全体の幸福量みたいなものが増えていってるのかとか、どんか要素があればよりよい種族と言えるかなど、比較しながら「人」について考えるきっかけをたくさんくれた本になった。 「シロアリの側も絶えず偵察活動をしている。アリの隊列が近づいてくれば、アリたちの発するわずかな振動で察知できるよう常に警戒しているのである。」(p.124) 「鳥たちはいわば『伝統主義者』であり、自分の周囲の社会に影響を受けやすいのだと言える。」(p.263) 「六百万年というと非常に長い時間のように思う人も多いかもしれない。レストランで料理の提供を十五分待たされただけで怒り出す人がいる時代なのでそれも無理はない。」(p.560) 「チンパンジーは、自分と敵対する相手が背後から近づいて来た時には、たとえ、恐怖の表情を浮かべてしまったとしても、いったん気持ちを落ち着かせ、口を閉じて真剣な表情に変えてから後ろを振り向く」(p.582)
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