
Ryu
@dododokado
2025年3月31日

空の怪物アグイー
大江健三郎
読んでる
「ぼくは自分の部屋に狙りでいるとき、海賊のように黒い布で右眼にマスクをかけている。それは、ぼくの右側の眼が、外観はともかく実はほとんど見えないからだ。といって、まったく見えないのではない。したがって、ふたつの眼でこの世界を見ようとすると、明るく輝いて、くっきりした世界に、もうひとつの、ほの暗く翳って、あいまいな世界が、びったりかさなってあらわれるのである。そのために、ぼくは完全舗装の道をあるいているうちに不安定と危険の認覚におびやかされて、ドブを出たドブ鼠のように立ちすくんでしまうことがあるし、快活な友人の顔に不幸と疲労のかげりを見出して、たちまちスムーズな日常茶飯の会話を、困難な渋滞感につきまとわれた吃りの毒で、台なしにしてしまうことがある。しかし、やがてぼくはこれに慣れるだろう。」
明日から会社員生活がはじまる。折に触れていつも読み返す本であるが、「もうひとつの、ほの暗く翳って、あいまいな世界」というのが、いまはもう、目の前にありありと存在するもののようにも感じられる。

