
sayatakenoko
@sayatakenoko
2026年8月12日

楽園
夕木春央
読み終わった
『方舟』『十戒』と読んできた読者としてのわたしは、麻衣ちゃんに対して「この人は自分の生存のためなら躊躇なく他人を殺せる」という強烈な既知の情報を持っていた。これを基に今作の設定下でも(どうせ)麻衣ちゃんがバッタバッタと殺し回るのであろうという予測をする。わたしは康之くんすらリスクとして最終的には排除するのだろうと思っていたけれど、そういうことは起こらなかった。麻衣ちゃんは康之くんに「麻衣ちゃんのところ」まで来てくれることを求め、康之くんはそれを成した。麻衣ちゃんが言ったことには「自由でいるためにはどんなことでもする」。だけど、どうなるにせよ、「ずっと康之くんには一緒にいてほしい」。
思い返せば殺人をしているときの麻衣ちゃんは、『方舟』でも『十戒』でもすごく寂しそうだった。柊一くんも里英ちゃんも、麻衣ちゃんがしたことを知った上で「麻衣ちゃんのところ」には来てくれなかった。病的なまでの自分本位とそれを成し遂げる行動力と悪運のつよさに目を眩まされ、読者であるわたしには麻衣ちゃんの「自由でいるためにはどんなことでもする」という覚悟しか見えていなくて、その覚悟と同じくらいつよく彼女が「麻衣ちゃんのところ」まで来てくれる他人を欲しているのだと気づかなかった。
だから本作のどんでん返しに引っ掛かる…… そしてどんでん返しに引っ掛かれるのは、きっとミステリにおけるいちばん幸福な読書体験である。