
amy
@note_1581
2025年4月4日

戦火のバタフライ
伊兼源太郎
読み終わった
感想
読んだ。明確な反戦、そして戦争を始め、終わらせたふりをし続けているかつての政府と現政府への批判が込められた小説だった。
太平洋戦争末期から現在まで、民間戦争被害者への国家補償の実現を目指す官僚とその周囲の人々の姿を描いたミステリー。ミステリーの要素はありつつも、かつての政府と今の政府、そして個人であることを手放した大衆への批判が通底している。
戦争中の描写、とりわけ空襲の描写が前半にかなり多く登場する。著者が相当調べて書いたのだろうと思ったら、最後の見開き1ページにぎっしりと参考文献が記載されていた。
前半の戦地に赴いた兵士の視点では、人間が人間であることを手放さなければ人を殺すことも、戦争もできないということが示されている。また、戦地ではなく、いわゆる銃後の人々もまた日々命を脅かされ、家族や友を失うことを国が強いてきたのだと描かれている。
緻密な取材(下調べ)に基づく描写が、つらく、恐ろしい。ここを読み進めるのがいちばん気力を使った。
この作品はフィクションであるけれど、こうした光景がめずらしくもなく、当たり前だったのだろうと思うと、怒りや悲しみよりも、途方に暮れてしまう。
約500ページと分厚いが、文章自体は読みやすく、すっきりとしている。
政府の、個人を無視した動きをずっと批判しているし、排外主義が強まりつつある今、反戦的なメッセージや「自分の意志を持つことこそが自分たちの幸福につながる」という内容は、多くの人に読まれてほしいと思った。
戦後80年のタイミングに、刊行されるべくして刊行された小説だと思う。
