@sotaono
2026年8月31日
p58
「その言葉の嫌らしさは、僕が抱いている気持ちには微塵も存在しないものなのに、そのままは伝わらないだろう。それでも、その言葉しかないというのが、つまり、言葉が生まれながらにして汚れていることの証拠だ。」
p87
「常々思うことだけれど、幸せというのは、つまりは、転んだあと立ち上がって、ああ、怪我がなくて良かった、とほっとするときに感じるものなのだ。」
p96
「こういうのは若いときからのことで、僕は、彼女が求める承諾を断ったことは一度もないはずだ。もっとも、だから別れることになった、ともいえる。あの最後の承諾だけは、断るべきだったかもしれないし、もしかしたら、彼女も断ってほしいと思って言ったのかもしれない。これは、僕の勝手な憶測にすぎないか。」
p122
「「サリィは、素晴らしいパートナだ。私は、彼女を愛している。三十年も一緒に暮らしているんだ。こんなに長続きするオペレーション・システムはない。」「細かいバージョンアップがあったのですね?」「それは、そのとおり、お互いにそうだね。いつも、修正して、パッチを当てる。そういうものだろう?でも、最も大事なことは、最初の基本設計だ。なんだって、そうだ。人間もそう。修正ができるということが、重要な性能なんだ。わかるかい?」「うーん、頑固者では駄目だ、ということですか?」「そう、それもある。すべての情報を素直に受け入れる。自分の間違いにできるだけ早く気づくセンサを持っていること。人から指摘されるまえに気づいた方が良いからね。「どうしてですか?」「自分で気づけば、バージョンアップできる。人が指摘すれば、それはエラーになる。」」
p189
「浄化しているようで、実は沈澱して、濃度を増している。すべて、時間のせいだ。」
p204
「語りたいことは、語りたい口から出る。銃から出る弾丸みたいに、つまり、押し出されてくるものであって、引き出すことはできない。」
p226
「「君は彼女を愛したいのか、それとも、君は彼女から愛されたいのか、どっち?」」
p249
「取り返せない愛というのは、とてつもない重さがある。それは、人生の間、ずっと背負い続けることになるかもしれない。」
p256
「僕も、悲しいとは思う。だが、悲しいという気持ちさえ、彼らには無視できるほど小事なのだ。」
p264
「「誰でも、そういう苦しみに長く浸かると、余裕がなくなるわ。良心とか友情といったものは、余裕のある心が交わす約束なんです。自分が苦しくなれば、それどころじゃない。そうやって、人は地獄へ落ちていくの。」」
p292
「でも、一度でも、そうではない経験をすれば、現実というものの残酷さに気づくことになる。ほとんどのものは、たしかに自分には関係がない。ただし、ほんのときどき、無関係だと思えたものが、隕石みたいに自分の頭の上に落ちてくる。現実という魔物が襲いかかるのだ。そのときには、もう逃げることはできない。運良く死ななくても、周囲で多くのものが失われる。簡単に消えていくのだ。」
p306
「「うん、まあ、それもあるけれど、僕は、あまり人を慰めない人間なんだ。僕は、結局、僕自身を慰めているだけだよ。」」
p314
「僕は、人殺しというのは、すべて切実なものだと考えている。戦争だってそうだ。テロだって例外ではない。どうしても避けられないものだから、この最後の道を選ぶしかない。これ以外に生きて通れる道がない、という意味だ。」
p371
「そうだ、いつも開けてあるんだ。いつだって、僕は待っている。今も。これからもずっと。君を待っているんだ。たとえ、砂の唇でも。もう一度。温かさは、僕の躰全体に広がっていった。暗闇の中でも、唇を探すしかない。砂の唇を。きっと、重ねるうちに、生きた唇になると願って。」