
内田紗世
@uchidasayo
2022年11月13日
心の壊し方日記
真魚八重子
読み終わった
帯には「兄が死んだ。その知らせに帰ると実家がゴミ屋敷になっていたーー。」「サブカルと家族と鬱」とある。植本一子さんの帯文に惹かれて買った。内容は帯通りといった感じで、なかでも彼女の自殺未遂、首をくくるリアルな流れがものすごい勢いでくらってしまった。障害物ありのジェットコースターに乗っているような日々の記録に息切れしながら読み終え、書かれていることをそのまま受け取った。だけど何故か胸にザラリと嫌な残り方をする。寝て起きると少し感想が変わった。彼女が壊れてしまったのは抗えない運命ー認知症 癌 借金 鬱 マルチ商法 セルフネグレクト SNS炎上 自殺未遂ーが理由だろうか。いやこんな怒涛の嵐が吹き荒れる中、変わらない、「不在であること」が強い存在感を放つ人、夫がいた。彼女の夫への記述はそこまで多くないし、この本のメインテーマではないから実際のやり取りは別にあり描かれていないだけなのかもしれないが、私は違和感を持った。例えば彼女が自殺未遂をしてまず電話をしたのは夫だった場面。夫は「なにやってんの!」と言った後「救急車を呼びなさい」と言うのだった。随分冷静で落ち着いて正しい判断をくだせるようだ。真魚さんは夫の電話を切り救急車を呼ぶ。私だったらー。自分もパニックになるかもしれない。なにより「大丈夫なの!?」と言うだろう。電話をかけられるくらい大丈夫な事は百も承知で。私だったらー。自分が代わりに救急車を呼ぶだろう。たとえ仕事中でも。搬送され着いた病院にはいつの間にか夫もいる。精神科医はこう言う。「こんな立派な旦那さんがいるのに」本当にそうだろうか?立派な旦那さんがいる妻が何故2度も連続して首をくくったのだろう。何故?真魚さんの実家の家族を巡る問題が原因なのか。私はこの夫の発言にピキンとガラスが凍るような冷たさを感じた。彼女が壊れてしまったのはー襲う運命に1人で立ち向かっていたからではないだろうか。お風呂にも毎日は入れないくらい鬱がひどく暮らしている彼女のそばで夫は何をしていたのだろうか。
私が結婚していないから夫婦とはどういうものなのか分からないが、例えば夫の癌が判明した際、真魚さんは医師に「どうしてこんなになるまで放っておいたの」と言われる。本人に言って欲しいが。その言い草は何だか真魚さんに彼の健康管理をする義務を暗に示しているようだった。妻が自殺未遂しても夫は何故立派だなんて言われる?その夫はと言うと寝込んでいる食事を作れない妻の横で毎日のようにマックを食べていた。彼女はそれを「あてつけ」のように感じ自分で栄養バランスを考えて食事してほしいのにと「思う」。作中母親が息子に自分の貯金を勝手に使い込まれていた際に通帳を分けることでやめてほしいという思いが伝わると思った、と言い、真魚さんは言わなきゃ伝わらないよと言う。だが真魚さんは夫には言わない。家賃を夫が払ってくれていることと関係があるのだろうか。結果夫は癌になるわけだが痩せたり血便がでたり身体の異常はあったのにも関わらず向き合おうとしなかった。彼が毎日マックを食べても平気なことから分かるように妙に無頓着なのである。それにしても。私は大人になってからマックを食べないので余計分からないのかもしれないが、いや、でも、てか普通にマック毎日は食わなくね?
夫の癌の外科的治療を終えた後真魚さんは夫の健康を考えてお弁当を作り始める。それも仮に夫から「僕は自分で栄養を考えたり自炊をするのが苦手で、悪いんだけど会社に持っていきたいから良かったらお弁当を作ってくれない?」だとかの言葉が果たしてあったのか?と不思議に思う。何の言葉もなしに真魚さんの善意でやっているのだろうか?さらに彼女が自殺未遂をしたロープを夫に気持ち悪いものを片付けさせてごめんと謝る場面があるが、夫の反応は特に描かれない。生きていてくれて良かった、死なないでほしい、そんな言葉はあったのだろうか。夫妻が引っ越した家は一階で日当たりも悪い。が夫のそんなことを言っていたら部屋が決まらないという意見により決定された。これも奇妙だ。もう少し言い様がある。夫は良いのだろうけど、私も一階に住むのは怖いし日当たりは良いに越したことはない。それらがしょうがないとしても。この部屋だったらペット可だし猫のために少し我慢しようよとか、そんな風に言って欲しいかな。理想が過ぎるだろうか?なんだか家賃を払うのは俺なのだから文句を言うなとピシャリと閉じられたように思った。
本の中表紙には「もし自殺未遂に呆れた夫に離縁されるようなことがあってもー」とあるが、自殺未遂をするまで追い込まれているのに我関せずと無関心でいる夫と自ら別れるという発想がなさそうなのが不思議だった。真魚さんは文中、夫が悪いなんてカケラも書いておらず思ってもいなさそうで、だからありのまま書いているのだろうが。真魚さんは何度も実家へ帰ったり介護施設への手続き相続あれこれに翻弄されるが一読した限り夫が実際に同行した様子はない。母親が亡くなり葬儀に行けなかったときも真魚さんが行けなかったのはどうしようもない事情があったと分かるが夫も行っていないようなのだ。義理のお母さんが亡くなっても葬式に行かないのは普通なのだろうか。彼女は1人だった。夫婦ってこんなに独立していて寄り添ったり助け合ったりしないものなのだろうか。いや別に夫が悪人だとは思わないけれど得体の分からない何かを感じずにはいられない。真魚さんが夫の生命保険の受取人を誰にしているのかという質問を何度かしても答えなかった点も「まじでなんなの?」と思った。そこで妻に名義を変更してくれれば少しでも安心できたのに。

