CandidE "イタリア紀行(下)" 2025年4月4日

CandidE
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@araxia
2025年4月4日
イタリア紀行(下)
イタリア紀行(下)
ゲーテ,
鈴木芳子
ゲーテが凄すぎてコメント不可。すべてが濃厚で幸運で力強く、そして繊細な旅路である。 個人的に印象深いのは、ローマのカーニバル(謝肉祭)の最終日の夜。高い建物に囲まれた狭い通りの窓辺や桟敷に、無数のろうそくや提灯の燈が優雅に瞬くなか、誰もが「くたばれ!」とふざけ合い罵り合う、その様が実にいい。 長くなるが、引用したい。 ーー「くたばれ」というわめき声が隅々から激しくこだますればするほど、この言葉がもつ罰当たりな意味合いはどんどん薄まっていく。こう罵っても、たわいなさゆえに、相手が誰であろうと字句通りその風前の灯をたちどころに消すことのできるローマの地に、自分がいることもどんどん忘れていく。  この文句はしだいにまったく意味をなさなくなる。他国語でも、呪いや無礼な言葉が、しばしば称賛や喜びのしるしとして用いられるのを耳にするが、「くたばれ」はこの晩の合言葉、歓喜の叫び、あらゆる冗談、からかいと賛辞のリフレインなのだ。ーー 規範がその瞬間に逆転し、生と死は入り混じりながら、言葉が本来の意味を超えていく――これは、ゲーテがイタリアで発見した南欧的な生のあり方そのものだったように思う。“Sia ammazzato!”
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