
あんどん書房
@andn
2025年4月3日

冥土めぐり
鹿島田真希
読み終わった
@ 自宅
2012年の芥川受賞作。先々月の「文學界」で町屋良平さんが骨太な評論を書かれていて知った作家。
「冥土めぐり」
旅のさまざまな場面で蘇ってくる家族の記憶に苛まれる奈津子。その横で何しらぬ顔でのほほんとしている太一。しかし最終的に、太一の存在が奈津子を吹っ切れさせることになる。
マイペースで、気が利かず、介助してもらえることを当たり前と思っていて……と決して褒められる感じでもない夫ではあるが、それでもその存在に救われている、と実感した時に家族の呪いが解けたのかなと思った。
(太一にとっては最初から全てが平等だったのかもしれない。自分の要望は当たり前に受け入れられて、逆に誰かの要望も当たり前に受け入れる、というような)
搾取してくる家族に対してできたのが待つことだけだったというのは消極的だけれど、リアルかもしれない。
「99の接吻」
町屋さんの書評から想像していた鹿島田作品には、こちらの方が近い気がした。
どう読めばいいのかがいまいち掴めなかったが、「らしさ」をめぐる物語なのかなと思った。
三人の姉たちは、どこか「女性らしさ」をイメージを代表しているようにも感じられる。純粋、サバサバしている、したたか。一方で「わたし」はそんな姉たちの別の側面を知っている。
そこに重ねられるのが、舞台になっている「谷根千」の土地柄だ。Sのようなよそ者にとっては下町風情のある観光地だが、そこに何代も住む者にとってはとうてい下町などではない。
求められる「らしさ」にすり合わせながらも、一方的に消費されるだけではない……というところが中心になってるのかな?と思った。
本文書体:リュウミン
装幀:高柳雅人
装画:牧野千穂


