ユメ "月夜の散歩" 2025年4月3日

ユメ
ユメ
@yumeticmode
2025年4月3日
月夜の散歩
月夜の散歩
角田光代
文庫本の裏表紙に記されているあらすじって、たまに本の中身に対してしっくりこないことがあるが、本書の「ふつうの生活がいとおしくなる、日常大満喫エッセイ」には膝を打った。角田さんのエッセイの魅力がぎゅっと詰まっている。角田さんは日常の中の一見とるにたらない、でもよくよく考えてみるとちょっと面白いものごとに眼差しを向けていて、読みながら「私の場合はどうだろう」と思いを馳せてみるのが楽しい。 たとえば、味噌汁に入れる具がその人の個性を表す、という話。私もどちらかといえば保守派で、つい定番の豆腐、わかめ、葱、油揚げ辺りを選びがちなので、「分かる分かる」と頷いた。大人になってからの(レシピ本などで覚えた)新しいレパートリーとしては、卵や茗荷などがある。初めは「本当に味噌汁に合うんだろうか?」と半信半疑だったが、これが(私にとっては)意外なことに、美味しい。——と、こんな風にして、まるで角田さんとお喋りしているような気分にさせてくれるエッセイなのである。 歳を重ねるにつれて固有名詞の抜け落ちた会話が増える、という話における、「若いころってもの覚えがよかったんだなあという考え方を、私はしない。若いころって、テレパシー能力が皆無だったんだなあ、と思う。年齢とともに私たちはこのすばらしき能力を手に入れ、立派に育てているのである」という考え方も素敵。加齢に対して焦るのではなく、こんな風に前向きに生きていけたら、と思う。
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