

ユメ
@yumeticmode
紙の本と本屋さんを愛してやまない人間です。
吉田篤弘さん、辻村深月さん、三浦しをんさん、森見登美彦さん、今村翔吾さんが特に好きです。
- 2025年5月22日パディントン フランスへマイケル・ボンド読み終わった感想行く先々で愉快な騒動を巻き起こすパディントンが夏休みにフランスへ旅行するだなんて、絶対に面白いことになるに違いないと読む前からとても楽しみにしていた。本を開けば想像以上に痛快な珍事の数々が待っていて、終始ワクワクしながら読んだ。何度声に出して笑ったことか分からない。殊に、パディントンがテントを建てようとしてグランディ長官を閉じ込めてしまったくだりと、三輪車でツール・ド・フランスに参戦するくだりは大笑いした。 パディントンが身近にいたらきっと大変な目に遭うけれど、それでもシリーズを読み進めるにつれ、パディントンが家にいたら毎日楽しいだろうなという思いが募る。旅の終わりには、もっとこの珍道中を見ていたいとちょっぴり寂しくもなったけれど、結びの文章がとてもよかった。以下引用。 パディントンは、車の窓から外を見ながら、ゆっくりうなずきました。フランスでの休暇は、この上なく楽しいものでした。けれども、新しい日が来るごとに、何か新しいことが起こるということを知るのはよいことでした。 「それが、クマであることのいちばんいいところよ。」と、バードさんがいいました。「クマには、いろんなことが起こるんですもの。」
- 2025年5月21日若旦那さんの「をかし」な甘味手帖 北鎌倉ことりや茶話moko,小湊悠貴読み終わった感想小湊悠貴さんの『ゆきうさぎのお品書き』シリーズが好きなので、この新シリーズも楽しみにページを開いた。四季折々の花が咲く、北鎌倉の花桃屋敷の美しい庭にある甘味処——という絶好のロケーションで繰り広げられる物語。花桃屋敷に派遣されてきた家事代行サービススタッフの秋月都が作る料理と、屋敷の主である羽鳥一成が作る「ことりや」の和菓子、どちらもとても美味しそうだ。大葉と味噌を加えたタルタルソースでいただくアジフライと、濃厚な抹茶アイスが載せられたクリームあんみつは、読んでいて特に羨ましくなった。
- 2025年5月18日遠慮深いうたた寝小川洋子読み終わった感想ひさしぶりに読んだ小川洋子さんの文章に、くらくらと陶酔した。あとがきに「話題はあれこれ出てきますが、どれも平凡な日常生活での出来事ばかりです」とあるが、確かに日々を綴ったエッセイであるのに、ふとした瞬間に彼方と此方を隔てるヴェールがめくられているような、小川さんにしかない不思議な持ち味がある。 文学、創作に対する真摯な眼差しには感銘を受けた。故人から贈られたバッハのCDの話が印象に残っている。自分が死んだあとも世界は変容し続けるということに、私は時折途方に暮れたような思いになりもするのだけれど、バッハは変わらず流れるであろうという事実は確かに慰めになってくれる。
- 2025年5月17日
- 2025年5月16日アンの幸福ルーシー・モード・モンゴメリ,村岡花子読み終わった感想再読サマーサイド高校に校長として赴任したアンは、離れてすごすギルバートへせっせと手紙を送る。アンの綴る文章は彼女らしい個性に満ちており、活き活きと読む者の心をとらえる。「全世界に在る アンの腹心の友人たちへ」という献辞に相応しい巻だ。 私はモンゴメリの書く家や屋敷が好きだが、この『アンの幸福』に登場する柳風荘も本当に魅力的だ。ケイトおばさん、チャティおばさん、レベッカ・デュー、そして猫のダスティ・ミラーの住まう柳風荘は、アンのことを愛し、アンに愛される。自分の家というものを持たなかったアンが、シリーズを通してグリン・ゲイブルスを筆頭に素敵な家々と心を通わせる様に胸が温まる。 小さなエリザベスや副校長のキャサリンとの交流にも気持ちが和み、三年の時を経てアンがサマーサイドを去るときには私もすっかり寂しくなっていた。レベッカ・デューの振る白い大きなタオルが、物語を優しく締めくくってくれる。
- 2025年5月14日まだ温かい鍋を抱いておやすみ彩瀬まる読み終わった感想心に残る一節彩瀬まるさんの文章には、登場人物に対してまったくの他人事でいることを許さない鋭さがあるように思う。読んでいるうちにいつのまにか物語の内側に取り込まれ、内省を促されているのだ。そこが私は怖くもあり、好きでもある。家族と自分との自他境界について考えさせられる「シュークリームタワーで待ち合わせ」が特に刺さった。 どのお話でも食べることと生きることの切実な関係が描かれているのだが、「シュークリームタワーで待ち合わせ」に出てくる、料理研究家である主人公と幼い子どもを亡くしたばかりである友人の 「食べるってすごい。すごくて、こわいね」 「こわい?」 「生きたくなっちゃう」 というやりとりが印象に残っている。
- 2025年5月12日アンの友達ルーシー・モード・モンゴメリ,Lucy Maud Montgomery,村岡花子読み終わった感想再読この巻はアン自身の物語ではなく、アンの周辺の人々に起こる出来事を描いた短編が収録されている。アンはちらりと登場する程度だったり、名前が挙がるだけだったりするが、モンゴメリの豊かな人物観察眼によって、どの話も〈腹心の友〉たる読者を惹きつける。恋愛には側から見るとある種滑稽な一面もあること、それでいて当人にとってはやはりロマンティックでもあることが、活き活きと描かれているのだ。 貧しい老淑女がかつて恋仲だった男性の娘のゴッドマザーとなる「ロイド老淑女」、男性嫌いの女性と女性嫌いの男性がひとつ屋根の下に閉じ込められてしまう「隔離された家」が特に好き。
- 2025年5月10日パラソルでパラシュート一穂ミチ読み終わった感想心に残る一節一穂ミチさんの作品は、これまで読んだ短編集二冊も素晴らしかったのだが、この『パラソルでパラシュート』で完全に心を掴まれてしまった。 主人公の美雨は、偶然ライブ会場でお笑い芸人の亨と出会ったことを機に、亨や相方の弓彦、仲間の芸人たちと「日の沈まない夕方」のような日々を送ることになる。 美雨と亨と弓彦、三人の関係がとても好きだ。異性間の感情も、同性間の感情も、ひとつとして軽んじられることなく丁寧に描かれている。恋も愛も友情も、名前の付けられないような気持ちも、いずれにも優劣をつけることのない一穂さんの眼差しが心地よく、何だか泣きたいような思いがした。それを象徴するような、亨の「ただのひとりとひとりとひとりですわ」という台詞がすごくすごく好きだ。 美雨は、三十歳での契約終了を目前にした受付嬢という立場でもあり、女性が否応なしに他者からのジャッジに晒される居心地の悪さもしっかりと描写されている。きっと誰にとっても生きていくことって大変だけれど、美雨が人との繋がりに見出した希望が、私の心にも小さな明かりを灯してくれた。 そして、美雨の会社の先輩である浅田さん(自分の力で三十歳定年を越えての契約を勝ち取った、強くて格好いい女性だ)の、「現実を見てるからこそ、非現実を愛してんのに。『現実逃避すんな』って、逃してくれへんくせに。わたしにとってこれは、現実と向き合うために必要なエネルギー」という台詞がすごく刺さったし、救われた。
- 2025年5月8日人よ、花よ、下今村翔吾読み終わった感想父・正成を死に追いやった張本人とも言える坊門清忠。その子・親忠と邂逅を果たした多聞丸が、徐々にわだかまりを解き、平和を実現させるべく道なき道を切り拓くのを助け合う姿に胸が熱くなる。元来さほど気の強くないであろう親忠が多勢に無勢の中で勇気を振り絞るのに、何度となく想いが込み上げた。 そして、後村上天皇との出会いもまた、多聞丸にとって、否、お互いにとってかけがえのないものだった。共に「英傑の子」としての生き方を強いられていた二人が、「生きたい」という願いを共鳴させ、苦しい状況の中で「この日ノ本に生きる全ての者の光に」と誓うのに胸が詰まる。 南北朝の動乱の行末を知っているだけに、残りのページ数が少なくなるにつれ辛くなったし、分かっていてなお「どうか」と祈らずにはいられず、最後は涙してしまった。今村さんらしい、読む者の感情を熱く掻き立てる作品だった。
- 2025年5月6日人よ、花よ、上今村翔吾読み終わった感想英傑を描いた物語は数あれど、「英傑の子」を主役に据えた物語は珍しい。本書の主人公は、楠木多聞丸正行。あの楠木正成の長男だ。 「英傑の子」として生きる道を敷かれることへの苦悩や反発が手に取るように描かれ、平和を志す多聞丸が下す大きな決断に、どうかその企みが実るようにと願わずにはいられない。弟や従兄弟たちとの日々には青春という言葉も似合うように感じられるからこそ、彼の「皆で生き延びたい」という願いがいっそう切なるものとして胸に響く。 「桜井の別れ」で正成が語った言葉にも感銘を受けた。今村さんの歴史小説には、「史実がこうであったらよいのに」と思わされる、抜群の面白さとひとの心を揺さぶる力がある。
- 2025年5月4日読み終わった感想シリーズもいよいよ20冊目、今回は番外編。サチさんや秋実さんがまだ存命で、藍子が中学生、紺が小学生、そして青がまだ幼稚園児だった頃のお話だ。 青が家族全員からいかに愛され、大切にされていたかがよく伝わってきて、胸が温まる。突然子どもをひとり連れて帰ってくるなんて本当にとんでもないけれど、この家族だから、堀田家だから大丈夫だったのだと改めて実感した。 そして、今作の語り手は秋実さん。サチさんがいつも秋実さんのことを「堀田家の太陽のような女性」と紹介しているけれど、本当にその言葉通りのひとだなあとつくづく思った。当人がいつも明るく優しいだけでなく、周囲の心を掬い上げる強さを持ったひとだ。 思いがけなかったのは、秋実さんが「古本屋の隣でカフェをやればいいのに」と密かに考えていたこと。時を経て亜美さんがそれを実現させて、きっと秋実さんも空の上で喜んでいることだろう。
- 2025年5月3日読み終わった感想シリーズ第19作、とうとう花陽と麟太郎が結婚することになる。1巻ではまだ小学生だった花陽がこんなに大きくなって——と、シリーズを長く読んでいると親戚の子どもが結婚したかのような気分で嬉しい。 医者になるという目標と結婚したいという願いがうまくリンクしないのだと話していた花陽が、麟太郎からのプロポーズを受ける決心がついたのは、何人もが自分を案じて〈東京バンドワゴン〉に集まってくれたからなのかなと思った。人との繋がり、縁を大事にするこのシリーズらしい。 披露宴で〈LOVE TIMER〉と〈TOKYO BANDWAGON〉がタッグを組んで演奏した「ヘイ・ジュード」には感動したし、花陽が読み上げた手紙には目頭が熱くなった。LOVEに溢れた堀田家のことが、今日も大好き。
- 2025年5月2日アンの愛情モンゴメリ,村岡花子読み終わった感想再読念願叶ってレドモンド大学へ進学するアン。フィル、プリシラ、ステラとのパティの家での暮らしは、昔も今も私の憧れだ。こんな風に、素敵な家で、気が合うだけでなく互いを高め合うことができる仲間と共同生活を送れたらどんなにいいだろう。ジェムシーナ伯母さんというよき理解者に見守られ、暖炉の前で猫たちが丸くなり、故郷からの愉快な手紙が届き、勉学にも遊びにも励む娘たちの笑い声が響く小さな家を思い描くたび、私は微笑まずにはいられない。 モンゴメリは家や屋敷を描くのが本当に巧みで、アンシリーズにはグリンゲイブルスを筆頭に数多の魅力的な屋敷が登場するけれど、パティの家もそのひとつだ。百万長者が集まる住宅街に「建てられたのではなく生えている」小さな愛らしい木造の家の、なんと心をくすぐることだろう。アンたちが干していたリンド夫人に贈られた掛布団を、隣家のタバコ王が欲しがるささやかなエピソードも好き。 私はギルバートの一途さに好感を持っているので、ロイ・ガードナーの登場には何度読んでもやきもきさせられるし、この結末には毎度ホッと胸を撫で下ろす。アンがお伽話の王子様ではなく、共に笑い合える「あたしの生活に属している人」を選ぶところが好きなのだと思う。
- 2025年4月30日アンの青春モンゴメリ,村岡花子読み終わった感想再読この『アンの青春』の原題は、『アヴォンリーのアン』。前巻『赤毛のアン』の原題は『グリン・ゲイブルスのアン』で、タイトルの通りアンの世界が徐々に広がり、彼女が村の人々から広く愛されているのが嬉しい。 クイーン学院を出たアンは、アヴォンリー小学校で教鞭をとる。己の理想をしっかりと掲げるアンと、幼い子どもたちのやりとりが微笑ましい。中でも、アンと〈同類〉であるポール・アーヴィングとの心の交流の瑞々しさは印象深い。ミス・ラヴェンダーとのあいだに芽生える友情もしかり、アンにとっては魂が惹かれ合う者同士に年齢は関係ないのだ。 ミス・ラヴェンダーの人物造形はとても魅力的で、シリーズの中でも私が好きな登場人物のひとり。モンゴメリは、歳を重ねても心に若さを宿した人物を書くのが上手いなと思う。 マリラとレイチェル・リンド夫人の友情の実直さも素晴らしい。マリラが双生児やリンド夫人をグリン・ゲイブルスに迎え入れたのは、もちろんマリラ自身の誠実さゆえでもあるけれど、アンの影響もあってのことだろうなと思う。アンは周囲を感化せずにはいられないヒロインなのだ。
- 2025年4月28日赤毛のアンモンゴメリ,ルーシー・モード・モンゴメリ,Lucy Maud Montgomery,村岡花子読み終わった感想心に残る一節再読氷室冴子さんが少女小説に対する愛を語ったエッセイ『マイ・ディア 親愛なる物語』を読んだら、モンゴメリの作品を読み返したくていてもたってもいられなくなった。本当に、アンシリーズは何度再読しても鮮やかな感動をもたらしてくれるし、そのたび新たな発見がある。 プリンス・エドワード島の美しい自然の描写や、いつだって明日への希望を失わないアンの人生哲学にも変わらず心惹かれるのだが、今回の再読でとりわけ感銘を受けたのは、マシュウとマリラがアンに注ぐ愛情の深さだ。 寡黙なマシュウの優しさには、何度か涙ぐんでしまった。手違いでグリン・ゲイブルズにやってきたアンをひきとらないかと主張するマシュウの、「わしらのほうであの子になにか役にたつかもしれんよ」という言葉や、右往左往しながらアンにクリスマスプレゼントとしてパフスリーブの洋服を贈る名シーン、エレーン姫を演じようとして溺れかけ落ちこむアンにささやいた、「お前のロマンスをすっかりやめてはいけないよ」という言葉、どれも本当に温かくて心を打たれる。 一方、厳格な印象のあるマリラだけれど、表に出さないたちなだけでアンのことを深く愛していると伝わってくるのに胸が詰まる。そして、頑固だった彼女がアンに感化されてちょっぴりユーモアを身につけてゆく描写もまた素晴らしい。
- 2025年4月28日
- 2025年4月28日
- 2025年4月28日
- 2025年4月26日マイ・ディア氷室冴子読み終わった感想氷室冴子さんが少女小説/家庭小説に対する思いの丈を存分に綴ったエッセイ。私も少女小説が大好きなので、とても楽しく読んだ。明日を夢見る芯の強いヒロイン、ロマンティックな恋愛、香ばしさが漂ってくるような料理の数々に、美しいドレスの描写。名作と評される少女小説には、時代を経ても色褪せることのない魅力がたっぷり詰まっている。 中でも私はモンゴメリの作品をこよなく愛しているので(いちばんの愛読書は『丘の家のジェーン』だ)、彼女に対する氷室さんの評価には「分かる分かる」と頷くことしきりだった。人間観察眼にすぐれたモンゴメリの筆は、もちろんヒロインである少女たちを描くときも活き活きとしているけれど、中年以降の女性を描くときにも冴え渡るのだ。アンシリーズやエミリーシリーズが有名なモンゴメリだけれど、大人が主役となる『青い城』や『もつれた蜘蛛の巣』も私は大好き。〈腹心の友〉に捧げる氷室さんの文章に触れていたら、モンゴメリを読み返したくてうずうずしてきたので、さっそく『赤毛のアン』を本棚から出してきた。 さて、本書では数多の少女小説が紹介されており、中には私の知らなかった作品もたくさんある。今では絶版になってしまっている本も多いのは残念なことだが、河出文庫から復刊されている氷室さん一推しの『リンバロストの乙女』と『そばかすの少年』は絶対に読みたい。
- 2025年4月24日できたてごはんを君に。行成薫読み終わった感想『本日のメニューは。』と同じ街を舞台にした、飲食業で奮闘する人々の物語。かつ丼、ロコモコにスパイスカレー、ラーメン、米粉パンと、店で出しているメニューも店を始めることになった理由も様々な登場人物たちだが、来てくれる客や自分の愛する人にとびきり美味しいものを食べさせたいという想いは共通している。その志の熱さがひしひしと伝わってきて、胸を打たれた。 中でも、パン屋の息子である照星が、小麦アレルギーの子供のために美味しい米粉パンを作ろうと一念発起する「ハッピバースデー・トゥー・ユー」がよかった。幼いながらにずっと友達と同じものが食べられないことを我慢していた菜乃花が、初めて口にするパンの味に泣き笑いするシーンの、「パンの力で、人に人生をプレゼントすることだってできる」という照星のモノローグに痺れる。照星の熱意によって、物語に登場する店が繋がってゆくくだりは感動的だ。
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