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@nininice
2026年9月15日

読み終わった
自然を主(あるじ)とし、人間を客とせる、小品の記文、短篇の小説、無慮百篇を一巻に収む。
この、自然を主、人間を客、という意思を持ってわたしも生きていこう。彼の目を通すと一日のあらゆる瞬間が、奇跡のように美しい。明治一年生まれの著者が生きた時代から比べて現代に、まだかろうじて残っているかもしれない共通の美しさを探したい。
抜粋メモ
栗
栗は野人なり。木膚も葉もがさがさとして如何にも朴訥に、如何にも巧言令色を嫌へばとて、毬の逆茂木、厚革の鎧、猶其上に渋染の鎧下までつけて、奥深く甘き心を秘するは餘りならずや。然も余は栗を愛するなり。
良夜
月より流るゝ風梢をわたる毎に、一庭の月光と樹影と相抱いて跳り、白揺らぎ黒さゞめきて、其中を歩するの身は、是れ無熱地の藻の間に遊ぶの魚にあらざるかを疑ふ。
櫻
向ふより歩み来る男あり。鼠色の洋服の甚く色褪めたるを着て足駄穿き、朱鞘の長刀を落し挿しにし、左手は繃帯して頸より釣り、右手に今を盛りの山櫻の枝を朋輩の鼻さきに突つけ、何やらん早口に二言三言口走りつゝ、呵々(からから)と打笑ひつ。
月を帯ぶ白菊
墨の如き樹影を浴びて、獨り中庭の夜に立てば、月を帯ぶる白菊ほのかに香りて、花の月と囁やく聲も聞く可き心地す。俯きて、其一枝を折らんとするに、しとゞ露にぬれたり。折れば、月影ほろほろとこぼれぬ。
夏の興
姫百合車百合撫子桔梗、其他あらゆる夏秋の草花浅茅にまじりて、畫の中を行く心地あり。馬を牽ける小娘を喚びて、折らすれば一抱ばかり摘み来りぬ。馬首に載せて、其香色を愛でしが、後には吾が前に海水浴帽を冠りて馬背に跨れる友を、背後より花の礫にうちて行く。
恍然(うつとり)