
RIYO BOOKS
@riyo_books
2026年9月26日
ダフニスとクロエー
ロンゴス,
松平千秋
読み終わった
やがて春が立ち初め、雪も消え、土が露われて草が萌えでると、牧童たちはみな家畜を牧場に連れだしたが、ダフニスとクロエーとは──なにしろただならぬ牧者[エロース]に仕える身であるから、牧場に出たのはどの牧童よりも早かった。二人はさっそくニンフの洞穴に向かい、そこから松の木の下のパーンのところへまわる、ついで例の樫の木に行き、その木陰に坐って家畜を見守りながら、互いに接吻をかわす。また神さま方の像にかぶらせようと花を探すこともある。花は西風にはぐくまれ、日の光に暖められて、まだやっと顔を出したばかりではあったが、それでも菫や水仙にるりはこべ、それにいろいろな早咲きの春の花は見つけることができた。クロエーとダフニスは、数頭の山羊と羊から新しい乳をしぼり、神像に花輪をかける時にその乳をふりかけてお供えした。そしてこれも神さまへの初穂のつもりで、笛の初吹きをした。それが鶯たちの歌心をよびさましたとでもいうのか、やぶの中で鶯が笛に答えるように鳴きだし、長いあいだうたわなかった歌をだんだんと思い出してでもいるかのように、イテュス、イテュスの歌声も少しずつ上手になっていった。


