

RIYO BOOKS
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読了した作品の感想記事を書きます。作家が作品に込める哲学、思想、主義などを出来る限り汲み取ろうと努めています。ご覧になる方にとって、これらの記事が作品と出会う切っ掛けになれば幸いです。
- 2025年11月22日
桜の園A.P.チェーホフ,小野理子読み終わったおれたちはお互いに威張りあっている。だが生活はどんどん過ぎて行く。おれが長く、疲れもせず働いているときは、思考も楽で、どうやらおれにもなんのためにおれは存在しているのかわかっているような気がする。だがきみ、ロシヤには、なんのためかわからず存在している人間がどれほどいることか。 - 2025年11月15日
花ざかりの森・憂国三島由紀夫読み終わった今から自分が着手するのは、かつて妻に見せたことのない軍人としての公けの行為である。戦場の決戦と等しい覚悟の要る、戦場の死と同等同質の死である。 三島由紀夫『憂国』 - 2025年11月8日
黒猫・モルグ街の殺人事件 他五篇ポオ,E.A.(エドガー・アラン),E.A.(エドガー・アラン)ポオ,中野好夫読み終わったクルーチは「病的」「黄昏」などを悪い意味に使用しているが、貝殻の病気から真珠が生まれることを信じている私は、例によって、この点には同意出来ない。むしろ逆に、私などはドイルの白昼的平俗にあきたらず、ポオの夜の夢(黄昏ではなくて夜だ)の「架空のリアル」に心酔するものである。私のもっとも愛するポオの言葉「この世の現実の出来事は、私にとっては単なる幻影にすぎない。これに反して、夢の国の物狂わしき影像こそ、私の日々の生命の糧であり、さらに強く、かかる夢の国のみが、私にとっての全実在である」 江戸川乱歩『探偵作家としてのエドガー・ポオ』 - 2025年11月1日
レクイエムアンナ・アフマートヴァ,木下晴世読み終わった石の言葉が投げつけられた 私のまだ生命のかよった胸のうえに なんてことはない 覚悟はしてきた これも何とか切り抜けられるはず 私は今日はすることが山ほどある 想い出をひとつ残らず死なせること 心を石にしてしまうこと もう一度生き方を覚えること さもなければ……夏の燃えるような葉ずれの音 窓の外さながら祝日のよう 私はもうずっと前から知っていた この 明るい一日と人気のない家を アンナ・アフマートワ『レクイエム』「宣告」 - 2025年10月25日
夜の来訪者 (岩波文庫 赤294-1)プリーストリー読み終わったかれらの生活、かれらの希望や不安、かれらの苦しみや幸福になるチャンスは、すべて、わたしたちの生活や、わたしたちが考えたり、言ったり、おこなったりすることと絡みあっているのです。わたしたちは、一人で生きているのではありません。わたしたちは、共同体の一員なのです。わたしたちは、おたがいに対して責任があるのです。 - 2025年10月18日
灰と土アティーク・ラヒーミー,関口涼子読み終わった老人のダスタギールは、アフガニスタンの過去、伝統、慣習、そして名誉を象徴している「年長世代」です。彼の息子モラードは現在、私の世代です。彼は鉱山で働くムジャヒディンの世代、いわば「混沌の世代」です。孫のヤースィーンは「将来の世代」です。戦争によって障害を負い、耳が聞こえなくなっています。これらの世代間による対話が実際に存在しないというのは事実です。私の世代、つまりムジャヒディンと共産主義者の世代は、過去とも未来とも対話することができていません。 アティーク・ラヒーミー「Aftaab Magazine」インタビューより - 2025年10月11日
内なるゲットーサンティアゴ・H・アミゴレナ,齋藤可津子読み終わった私にとっては、忘却は記憶よりも多くの生命をもたらすという、かなり単純で、明白でさえある考えがあるからです。ですから私はよくこう言っています。私の祖父は、ホロコーストについて沈黙を強いられた理由を言葉で表現しようとはしませんでした。私の両親の世代、特に私の母と彼女の二人の姉妹は、みんな精神分析医でしたが、話すことよりも聞くことに全生涯を捧げました。そして、私の世代では、少なくとも二人の従兄弟がこの祖父と彼の沈黙について書いています。私たちの世代は言葉を探しています。もしかしたら、言葉を見つけるのは私の世代ではなく、私の子供たち、あるいはその次の世代かもしれません。しかし、これはすべて、もはや言葉を探す必要さえない世代が来ることを願っているからです。 Tenoua「courage persons interview」より - 2025年10月4日
クロイツェル・ソナタ (1951年)トルストイ,中村白葉読み終わった肉の愛がなにか特に高尚なものででもあるように考えることをやめなければならぬということと、人間に値いする目的は、人類に対する奉仕にしろ、祖国に対し、科学に対し、芸術に対する奉仕にしろ(神に対する奉仕は言うにおよばず)、すべてわれわれが人間に値いするものと考えるほどのものである以上、いかなるものであろうとも、結婚ないし未婚における恋愛の対象物との結合によって達せられるものではなく、反対に、恋愛とか愛の対象との結合などは(詩や散文の中でいかにその反対を証明しようとつとめようとも)、けっして人間に値いする目的の達成を容易にするものでないばかりか、むしろ常にそれを困難にするものである トルストイ『クロイツェル・ソナタ』後語 - 2025年9月27日
- 2025年9月13日
ソラリススタニスワフ・レム,沼野充義読み終わった始まりさえも覚えていないこの存在が経てきた、様々な経験や感情の一覧表だろうか?束の間の生を享けて解放された山々の願望と情熱、希望と苦悩の記述だろうか。数学が存在に、孤独と断念が豊穣に変容することだろうか。しかし、このすべては伝達不可能な知識なのだ。もしもそれを地球のいずれかの言語に翻訳しようとしても、価値と意味のあらゆる探索は無残な失敗に終わり、向こう側に残ったままだろう。しかし、結局のところ、『信者』たちが期待しているのは、そういった科学より詩学の名に相応しい新発見の数々ではないのだ。なぜならば、彼らは自分でもそれとは知らずに、〈啓示〉を待ち望んでいるのだから。それは人間自身の意味を説明してくれるような啓示なのだ! - 2025年8月30日
痴人の愛改版谷崎潤一郎読み終わった君、君、盲人蛇に怖じずとは君のことだよ。そりゃあ成る程、君に取ってはこの女は世界一の宝だろう。だがその宝を晴れの舞台へ出したところはどんなだったい?虚栄心と己惚れの集団!君は巧いことを云ったが、その集団の代表者はこの女じゃあなかったかね?自分独りで偉がって、無闇に他人の悪口を云って、ハタで見ていて一番鼻ッ摘まみだったのは、一体君は誰だったと思う?西洋人に淫売と間違えられて、しかも簡単な英語一つしゃべれないで、ヘドモドしながら相手になったのは、菊子嬢だけではなかったようだぜ。 - 2025年8月23日
大理石像 デュランデ城悲歌 (岩波文庫 赤 456-1)アイヒェンドルフ読み終わったしかし稲妻が僅かの間光っただけで消えてしまうと、恐ろしい幻影も、それが起った通りにまた消えてしまった。もとの薄明が再び部屋をみたした。婦人は前のようにほほ笑みながら彼を見たが、黙っていて、悲しげで、やっと涙を抑えているようだった。 - 2025年8月16日
死都ブリュージュG.ローデンバック,窪田般弥読み終わったああ!中断することのないこれらのブリュージュの鐘の音、死者たちのために、休みなく大空に聖詩を歌うこの盛大なお勤め!そこからは人生の嫌悪が、いっさい空のはっきりとした意味が、徐々に迫りくる死の告知が、どんなにしみじみと感じられることか…… - 2025年8月9日
花・死人に口なし 他7篇シュニッツラー,山本有三,番匠谷英一読み終わった幽靈。──幽靈はゐる。確かにゐる。──死んだものが生きてゐるふりをするのだ。凋んだ花が徴臭くなつても、それは花咲き、薫つてゐた頃の思ひ出にすぎない。我々が死んだ人達を忘れないかぎり、彼等はまた歸つて来る。──彼女がもはや話すことが出來なくても、それはどうだつていゝことだ。──私は今でも彼女の聲を聞くことが出來る。彼女はもはや姿を現はさない。しかし私は今でも彼女を見ることが出來る。 - 2025年8月2日
ヘンリー五世シェイクスピア,松岡和子読み終わった今日はクリスピアンの祭日と呼ばれている。 この日を生き延び無事に帰国する者は、 この日のことが話題になるたび背筋を伸ばし、 クリスピアンという名を聞いて奮い立つだろう。 この日を経験し、老年まで生きながらえた者は 毎年その前夜祭のたびに隣人をもてなし、 「明日は聖クリスピアンの日だ」と言うだろう。 そして袖をまくり上げ、古傷を見せながら 「クリスピンの祭日に受けた傷だ」と言うだろう。 老人はもの忘れが激しい、だが他のことはすべて忘れても その日に立てた手柄だけは、尾ひれをつけて、 思い出すだろう。 『ヘンリー五世』第四幕第三場 - 2025年7月26日
シェイクスピア全集(24)ウィリアム・シェイクスピア,松岡和子読み終わったリチャードが、涙をこぼさんかぎりにしていった言葉は いま振り返ってみれば予言に等しい。 「ノーサンバランド、お前は、従弟のボリングブルックが 私の王座に昇ってくるための梯子だ」── 神もご存じだが、あの時の私にはそんな意図はみじんもなかった、 だが、当時の状況が国家に平身低頭させ、私もやむなく 王座という偉大な権力に口づけしたわけだ。 「いずれきっと」と彼は続けて言った、 「いずれ必ず、この汚い罪は化膿してふくれ上がり、 破れて膿を噴き出す」──そう続いた言葉は、 まさしく今の状況と我々の友好関係の決裂とを はっきり予言していた。 『ヘンリー四世 第二部』第三幕第一場 - 2025年7月12日
シェイクスピア全集26 リチャード二世シェイクスピア,松岡和子読み終わったさあ、従兄弟、王冠をつかめ。さあ、従兄弟、 こちら側は私の手で、そちら側は君の手で。 さて、この黄金の冠は深い井戸のようなものだ、 二つの桶が代わる代わる水を満たす、 空になったほうはいつも空中に跳ね上がり、 もう一方は底に沈んで人目に触れず、水でいっぱいだ。 底に沈み、涙でいっぱいの桶は私だ、 一方のあなたは高々と昇ってゆく。 『リチャード二世』第四幕第一場 - 2025年7月5日
絵のない絵本改版アンデルセン,ハンス・クリスチャン・アンデルセン,Hans Christian Andersen,矢崎源九郎読み終わったヒバリが歌いながら野から舞いあがって、棺の上のほうで朝の歌をさえずりました。それから、棺の上にとまって、くちばしでむしろをつつきました。そのようすは、まるでさなぎを裂きやぶろうとでもしているようでした。それからヒバリは、ふたたび歌いながら、大空に舞い上がりました。そしてわたしは赤い朝雲のうしろに引きさがったのです - 2025年6月28日
死と乙女アリエル・ドルフマン,飯島みどり読み終わった彼らの行動が実際に形をとる某国にあっては、自分たちの被った損傷を表に出せぬままこれとどう向き合うべきか自問する多くの人々をしり目に、己の犯した罪がだれの目にも触れる形で晒されるのではと恐れつつ生きる別種の人々がいるからだった。 アリエル・ドルフマン『死と乙女』チリ版あとがき - 2025年6月21日
ブロンテ姉妹 ポケットマスターピース12侘美真理,ブロンテ姉妹,桜庭一樹,田代尚路読み終わった神はその創造物を通して崇拝するのが賢明である。実際、神の属性の非常に多くのもの、また神の聖霊そのものが大いに輝き得るのは、その忠実なる僕をおいて他にはない。その者を知るが、正しく理解できないとすれば、それは私自身が愚鈍であり、感受性に欠けているからである。そして、それ以外に私の心を捉えるものはない。
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