

RIYO BOOKS
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読了した作品の感想記事を書きます。作家が作品に込める哲学、思想、主義などを出来る限り汲み取ろうと努めています。ご覧になる方にとって、これらの記事が作品と出会う切っ掛けになれば幸いです。
- 2026年10月10日
存在の耐えられない軽さミラン・クンデラ,千野栄一読み終わった人生のドラマというものはいつも重さというメタファーで表現できる。われわれはある人間が重荷を負わされたという。その人間はその重荷に耐えられるか、それとも耐えられずにその下敷きになるか、それと争い、敗けるか勝つかする。しかしいったい何がサビナに起こったのであろうか?何も。一人の男と別れたかったから捨てた。それでつけまわされた?復讐された?いや。彼女のドラマは重さのドラマではなく、軽さのであった。サビナに落ちてきたのは重荷ではなく、存在の耐えられない軽さであった。 これまではそれぞれの裏切りの瞬間が裏切りという新しい冒険に通ずる新しい道を開いたので、彼女を興奮と喜びで満たしてきた。しかし、その道がいつかは終わるとしたらどうしたらいいのか?人は両親を、夫を、愛を、祖国を裏切ることができるが、もう両親も、夫も、愛も、祖国もないとしたら、何を裏切るのであろうか? - 2026年10月3日
スケッチ・ブック(上) (岩波文庫)アーヴィング読み終わったいつもと變らず、入口のところには人が集つてゐたが、どの顏もリップには見覺がなかつた。人の性質までが違つてゐるらしく思はれた。なにか忙しさうで、落着かず、理窟つぽい調子があつて、從前のやうな悠長さやけだるい平和などは見えないのだつた。 - 2026年9月26日
ダフニスとクロエーロンゴス,松平千秋読み終わったやがて春が立ち初め、雪も消え、土が露われて草が萌えでると、牧童たちはみな家畜を牧場に連れだしたが、ダフニスとクロエーとは──なにしろただならぬ牧者[エロース]に仕える身であるから、牧場に出たのはどの牧童よりも早かった。二人はさっそくニンフの洞穴に向かい、そこから松の木の下のパーンのところへまわる、ついで例の樫の木に行き、その木陰に坐って家畜を見守りながら、互いに接吻をかわす。また神さま方の像にかぶらせようと花を探すこともある。花は西風にはぐくまれ、日の光に暖められて、まだやっと顔を出したばかりではあったが、それでも菫や水仙にるりはこべ、それにいろいろな早咲きの春の花は見つけることができた。クロエーとダフニスは、数頭の山羊と羊から新しい乳をしぼり、神像に花輪をかける時にその乳をふりかけてお供えした。そしてこれも神さまへの初穂のつもりで、笛の初吹きをした。それが鶯たちの歌心をよびさましたとでもいうのか、やぶの中で鶯が笛に答えるように鳴きだし、長いあいだうたわなかった歌をだんだんと思い出してでもいるかのように、イテュス、イテュスの歌声も少しずつ上手になっていった。 - 2026年9月19日
教科書で読む名作 セメント樽の中の手紙ほかプロレタリア文学中野重治,佐多稲子,宮本百合子,小林多喜二,葉山嘉樹,黒島伝治読み終わった松戸与三は、湧きかえるような、子供たちの騒ぎを身の廻りに覚えた。 彼は手紙の終りにある住所と名前を見ながら、茶碗に注いであった酒をぐっと一息に呷った。 「へべれけに酔っ払いてえなあ。そうして何もかも打ち壊して見てえなあ」と怒鳴った。 - 2026年9月12日
義とされた罪人の手記と告白ジェイムズ・ホッグ,高橋和久読み終わったこの瞬間から私は、自分が福音の使者というよりはその闘士として、この世から主の敵を一掃するよう神慮によって定められたのだということが分った。そして、剣で罪人たちを倒す方が、説教壇に立って罪人たちを悔悟させようと熱弁をふるって説ききかせるより自分には似つかわしいと思われ、その使命に有頂点になったのだ。しかも、人間の運命は神によってあらかじめすっかり定められている以上、罪人が悔悟するということなど実際上は永遠に不可能ではないか。こうしたことに考えを巡らせば巡らすほど、聖職者が、罪人たちをとても出来るはずのない正しい行いに就かせようと、懸命に忠告を与えて一生を過していくのがどれほど愚かしく、また矛盾したことであるか、ますますはっきりと分ってくるのだ。神が人の子として生れてくるあらゆるものの運命をすでに最初から決められているからには、不可変の神慮によって創造主から破滅を宣せられたものを人間の力で救おうとするのは、何と無駄なことであろうか。私は、最上の師が教えてくれ、また聖書のすべての言葉が指し示しているとされた教理を言じないわけにはいかなかったが、その教理から見ると、キリスト教界の理法はまったく矛盾に満ちたものであると思えるのだった。 - 2026年9月5日
人間の運命 (角川文庫 シ 27-1)ショーロホフ読み終わった身内を失った二人の人間、未曾有の力を持った戦争の烈風のため見知らぬ土地に吹きとばされた二つの砂粒……この先、何が彼らを待っているのか?不屈の意志を持ったこのロシヤ人が、万事を見事に持ち堪え、あの子が父の肩で成長し、大人になった時には、祖国が求めるならば、あらゆる事に耐え、行く手のあらゆるものを克服し得る人間になる、と私は思いたかった。 - 2026年8月29日
隠者の夕暮,シュタンツだより (岩波文庫 青 703-1)J.H.ペスタロッチ読み終わった玉座の上にあっても木の葉の屋根の蔭に住まっても同じ人間、その本質からみた人間、一体彼は何であるか。何故に賢者は人類の何ものであるかをわれらに語ってくれないのか。何故に気高い人たちは人類の何ものであるかを認めないのか。農夫でさえ彼の牡牛を使役するからにはそれを知っているではないか。牧者も彼の羊の性質を探究するではないか。 - 2026年8月22日
オズの魔法使いライマン・フランク・ボーム,柴田元幸あなたに必要なのは自信だけです。危険を前にして、怖がらない生き物はありません。ほんとうの勇気とは、怖くても危険と向き合うことであって、そういう勇気を、あなたはふんだんにお持ちなのです - 2026年8月15日
- 2026年8月8日
地霊・パンドラの箱F.ヴェデキント,岩淵達治読み終わったこの国の現代文学がどうしようもないのは、あまりに文学的すぎるからなんだ。僕らは作家や学者のあいだで問題になるような問題しか扱わない。同業者仲間の見方でしかものが見れない。もう一度力強い偉大な芸術に辿りつくつもりならば、できるだけ、本などは決して読んだこともない人間とつき合うようにしなければ駄目だ。ただただ単純な動物的本能に従って行動するような人間とつきあわなければね。 フランク・ヴェデキント『パンドラの箱』 - 2026年8月1日
ミーチャの恋・日射病 他十篇ブーニン,高橋知之読み終わった愛は、情欲は、魂は、肉体は?いったい何なのだろう?いやそんなものはない──存在するのは、何か別のもの、まったく別のものなんだ!まさにこの手袋の匂い──これだってカーチャじゃないのか?愛、魂、肉体じゃないのか?農夫たちも、車内で働いている人たちも、不恰好な赤ん坊を洗面所に連れていく女性も、コトコトと鳴るランプの淡い焔も、春の荒れ野を覆う薄闇も──すべては愛であり、魂であり、苦しみであり、いまだ語られざる喜びなのだ。 - 2026年7月25日
わが夢の女: ボンテンペルリ短篇集 (ちくま文庫 ほ 5-1)マッシモ・ボンテンペルリ読み終わった幾度も私は、両手で頭をかかえ、アンナのことを、ほんとうのアンナのことを考え、実物の美しい彼女を、ふたたび見ようと思うのだが、だめだった。いまだに、だめなのだ。だから私は、いまだに、手紙を書いていないのだ。私は、彼女を失い、彼女は私を失った。きっと、私を恨んでいることだろう。 - 2026年7月18日
風知草宮本百合子読み終わった十二月はじめに、はじめての大会がもたれることになった。赤旗編韓局という表札と同様に衆目の前でもたれる大会として、それは最初のことであったが、歴史の中では第四回目に当った。 いろいろの大衆的集会も活気にみちてもたれていて、一九四五年の冬は、日本の民主主義の無邪気な発足の姿であった。 木枯の吹く午後おそく、ひろ子は、前後左右ぎっしり職場の若い婦人たちで埋った講堂で、ニュース映画を観ていた。それは「君たちは話すことが出来る」と云う題であった。十月十日に、同志たちが解放される前後を中心として、治安維持法と、その非道な所業、その法律の撤廃を描いた映画であった。山本宣治を殺して出来た治安維持法が、小林多喜二を虐殺し、渡辺政之輔その他たくさんの人々を犠牲とした。 - 2026年7月11日
国際エピソード (岩波文庫 赤 313-2)ヘンリ・ジェイムズ読み終わったところがベッシー・オールデンがつくった影繪は、肝腎の侯爵の姿と一致しなかった。そしてその不調和が時として彼女を、自分でも譯が解らないくらい、苦しめた。彼が傍にいないときには、不調和は勿論大して目立たなかった。そういう時の彼は高い責任と愛すべき性質とが充分美しく結合したもののように思われた。ところがいったん眼に見えるところに坐って、いつもの快活さと單純さとで笑ったり喋ったりしていることになると、勢い彼女はより正確に測るようになり、ランベス卿の地位は堂々たるものだが、青年自身にはあまり堂々たるところがないことを痛切に感じるのだった。そういう時には彼女の想像は彼から離れて──遠く離れてさまようのだった。 - 2026年7月4日
赤毛のアンモンゴメリ,村岡花子読み終わったあたしがクイーンを出てくるときには、自分の未来はまっすぐにのびた道のように思えたのよ。いつもさきまで、ずっと見とおせる気がしたの。ところがいま曲り角にきたのよ。曲り角をまがったさきになにがあるのかは、わからないの。でも、きっといちばんよいものにちがいないと思うの。それにはまた、それのすてきによいところがあると思うわ。 - 2026年6月27日
- 2026年6月20日
斜陽 他一篇太宰治読み終わったああ、何かこの人たちは、間違っている。しかし、この人たちも、私の恋の場合と同じ様に、こうでもしなければ、生きて行かれないのかも知れない。人はこの世の中に生れて来た以上は、どうしても生き切らなければいけないものならば、この人たちのこの生き切るための姿も、憎むべきではないかも知れぬ。生きている事。生きている事。ああ、それは、何というやりきれない息もたえだえの大事業であろうか。 - 2026年6月13日
氷 (ちくま文庫 か 67-1)アンナ・カヴァン,Anna Kavan,山田和子読み終わった少女は強烈な寒さに耐えられず、ずっと震えつづけて、ヴェネツィアンガラスのように砕けていった。その崩壊の過程は実際に見て取ることができた。少女は次第にやせ細り、さらに白く、さらに透明に、亡霊のようになっていった。この変容は何とも興味深いものだった。少女は完全にエッセンスだけの存在となり、動くことすらなくなった。 - 2026年6月6日
十五少年漂流記ジュール・ヴェルヌ,波多野完治読み終わったそんな小さなことで──と思うかもしれない。だが、少年たちの生活は社会の縮図である。人間は、子供の時から、一人前の大人のように扱ってもらいたいものなのだ。 - 2026年5月30日
盲目の梟サーデク・ヘダーヤト,中村公則読み終わった昔の人間の行動や思想、願望や習慣はこのお噺という手段を通じて、後世の人々に伝えられて来たのではあるまいか。このお噺は我々の生存にとって必須欠くべからざるものの一つなのではないか。幾千年となく、人類は同じようなことを喋り、同じようにセックスし、同じように子供じみた悩みを抱いてきたのだ。人間の一生というのは、始めから終わりまで一つの面白可笑しいお話、信じられないほど馬鹿馬鹿しいお噺にすぎないのではないか?私が今書いているのだって自分のお話なのではないか?ものを書くというのは、挫折した願望にとっての排け口であるにすぎない。所期の目的を達し得なかった願望、作家自らが受け継いだ知力の範囲内で抱かれた願望にとっての。
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