Haruhito "歩道橋の魔術師" 2026年9月27日

歩道橋の魔術師
歩道橋の魔術師
呉明益,
天野健太郎
1961年から92年まで、台北市・中華路に実在した商業施設「中華商場」を舞台とした連作短編集。 作者自身、21歳まで中華商場で暮らしていたこともあってか、回想形式の短編にはどこか”懐かしさ”を感じさせるものがある。それと同時に、死や失踪といった喪失の要素によって、中華商場で過ごした幼少時代がもう二度と手に入らないものと感じられるようになっている。この感触なんかは、エドワード・ヤンの映画『牯嶺街少年殺人事件』にも似ていて親しみやすい。初恋や将来、夢といったものが確かにあったはずなのに、私たちはいつどこで無くしてしまったのだろうか。 それぞれの短編は主人公を異にするが、狂言回しの役割を持つ魔術師の存在によって一まとまりに貫かれている。「魔術師がいなければ、歩道橋はない。歩道橋がなければ、商場の八棟の建物はつながらない。つながらなければ、それはもはや商場ではない」と語られるように、魔術師の存在自体と彼がもたらす非現実的な要素(マジック・リアリズム)もまた、中華商場の存在や幼少期に感じていたあらゆる感情の不確かさを浮かびあがらせる効果をだしている。 少年たちが魔術に魅せられる背景には、退屈や不安だけでなく、貧困や親の暴力から逃れるためでもあるだろう。シビアな現実にささやかな魔術を信じたくなる気持ちが、現代を生きる私にも日毎に積もっていて、そんな今の気分にあった物語ということもあって一気に読んだ。
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