サブレとポッポの往復書簡 "リズム" 2026年10月3日

リズム
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森絵都
ちょっとワルっぽいお兄さん風味の従兄弟の真ちゃんは、確かに中卒だし、金髪だし、バンド一辺倒だしで、決して大人たちの期待に添った生き方とはいえないけど、さゆきがそんな真ちゃんに憧れの思いを抱いてるのには、ちゃんとした理由があります。 それは、自分のやりたい夢をはっきりと持っていること。そのために、ずっとバンドの練習もアルバイトも頑張っていること。 そして、小さな頃から変わらずに、可愛い象のイラスト入りの湯たんぽカバーを使い続けていること。 夏休み最終日、さゆきは真ちゃんのバイクに一緒に乗せてもらいたい一心で、一人では終わらせられないだろう宿題を、友達に助けてもらって(ちょっとズルもして)手分けして初めて終わらせたり、弱虫だけど妹思いの幼なじみのことを放っておけず、いじめのリーダー格の男子にも敢然と立ち向かっていったり、計画的で勉強も出来る姉と、真ちゃんに対する評価を巡って喧嘩をしたり、そんな中学一年生としての日々は、まさに思春期の1ページを切り抜いたかのような瑞々しさに溢れています。 作中、読んでいて心に残ったふたつのシーンがあります。 1つ目は、上京を決めた真ちゃんが、大切にしていたドラムのスティックをさゆきに託す場面と、そこでの彼の言葉。 『これからさゆきがさ、回りの雑音が気になって…親とか、教師とか、友達とかの声が気になってさ、自分の思うように動いたり笑ったり出来なくなったら、その時は、このスティックでリズムをとってみな。さゆきにはさゆきだけのリズムがあるんだから ~ それを大切にしていれば、さゆきはさゆきのままでいられるかもしれない』 この真ちゃんのドラムのスティックを見るたび、手にするたび、さゆきは真ちゃんの言葉を思い出して、自分を信じて進み続けていけるだろうなと思います。 私に置き換えてみると、きっと父が遺してくれた手紙と、これまで書きためてきた読書ノートがそれらの役目を担ってくれているのかな、と考えています。 2つ目は、話の後半、担任の三木先生がさゆきたちのズルを見抜いていながら、敢えて気付かない振りをしつつ、後の然るべきタイミングで 『思い出は、誰かに代わりに書いてもらうのではなく、自分で書くものよ』と諭す場面。 お説教の理由が、ルールだから、ズルをしてごまかしたから、そういう表面上の事柄ではなくて、視点が、こう、もっと本質的で大事な部分に立っていて、なおかつ、さゆきと先生が同じ高さの目線に立ってその事を伝えているのが伝わってきて『ああ、三木先生って、いい先生なんだなぁ』と私に思わせたのだと思います。 こういう大人が近くにいてくれるだけで、きっと当の本人も何となく普段の安心感を覚えるんだろうなと思うのです。 加えて、三木先生が言うとおり、思い出というのは、自分だけのたったひとつのものだから、決して代えが効かないと思うのです。 例えば、読書の感想や批評なども、それと同じことが言えると私は考えていて、要約やあらすじならば確かにAIでも担えるかもしれないけど、読んだ上での感想文やコメント、実際に読んで自分で考え抜いた先に生まれる批評や考察というものは、それは他でもない、自分自身が作り出すものだと思うからなのです。
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