
𓂋⟢˖⊹ ࣪
@nmccormick
2026年10月4日

青い骨
吉村昭
読み終わった
◯青い骨
英一は立つと、玉城かけからタオルを取り、久光のワイシャツを脱がせた。久光は、英一のなすがままになっている。
英一の眼に、久光の形のよい繊細な骨格が映った。
英一は、息をつめたように左手でその温く薄い肩にそっとふれ、濡れた背中を拭きはじめた。肌の香りが漂っている。
英一のタオルが胸にふれ首に移ったとき、英一の手がふっと止った。
久光の眼に涙がはらんで、英一の顔をじっと見つめている。
「どうしたの?」
英一のかすれた声が終るか終らぬうちに、久光の華な体が英一の肩にぶつかってきた。
「ねえ、きみ。死んでよ。死んでくれよ」
息が、英一の胸の皮膚にかかった。
英一の顔から、急に血がひいた。
久光が、表情をうかがうように英一の顔を見上げた。
英一の顔は、白けていた。
英一は、タオルを車び手にすると久光の頭を拭いてやった。
「また、癖が出たね」
久光は、ぎくりとしたように身を退いた。目に不安な色が浮んだ。
「どうして?」
英一は、妙な笑い方をした。
「君は、前に一度僕に恥をかかしたからね」
英一が以前久光から死を誘われたとき、久光の燃えるような眼の輝きに、英一の頭は自熱とうなずいてしまっていたのだ。
すると久光は、途端にそれまでの哀願の態度をがらりと一変させて長い睫毛を伏目にし、ひどく満ち足りた色を口もとに浮かべてほほえんでいたのだった。
結局、それきりであった。死を誘った事などけろりと忘れたように、はればれした顔をしていた。そして、その後どことなく英一に自信のある対し方をするようになった。
病弱、悪戯な小悪魔美青年がそこに、いた
久光
肌やシャツの白と吐いた血の赤
エロスとタナトス