
kohhee
@kohhee
2026年10月5日

洪水はわが魂に及び
大江健三郎
読み終わった
なんか知らんけどもっと観念的な作家ってイメージあったけど、意外と具体的なストーリーがあってかなり面白かった。
核シェルターで引きこもり生活してる元エリートのおっさんが、「自由海賊団」を名乗るヤンキーたちに勉強を教えることになり、ついでにヤンキー少女に本当のセックスをわからせたりしてるうちに、国家権力と闘うことになって、みたいな。なんか結構なろう小説みたいな感じ。
いわゆる「あさま山荘事件」の発生に影響を受けたと思われる前と後でかなり毛色は違っているが、どちらも面白い。
前部は核シェルターでの、知的障害のある子供との自閉的な生活のスケッチって感じで、なんか相当SF的というか、前後するが椎名誠のフィクションって感じで、むしろもうすでに核戦争が起こったあとの世界が舞台という気配すらある。ポストアポカリプスの『よつばと』みたいな。そのなかに自由海賊団の『AKIRA』的世界が挿入されていく的な。
後部はもっと「外部」が描かれるようになって、現代日本(1970年前後だけど)が舞台だと明確になり、「あさま山荘事件」に向かうまでのスリリングな展開を読ませる。そしてそうした暴力のただなかに発露するBLドラマが意外と楽しい。赤面×多麻吉とかアツい。
もちろんノーベル賞受賞者の代表作のひとつとされる本作なので、政治的・思想的な示唆に富んでいるんだろうとは感じるし、そここそがこの作家の価値の本質なんだろうけど、そこを無視して読んでも全然おもしろい。イデオロギー的に古びた感があって、今やかなり軽視されてる雰囲気だが、ノーベル賞受賞作家の作品を「原著」で読めるという我々の特権を行使してみてもいいんじゃないでしょうか。
ただやっぱりヤンキー少女の伊奈子を、「人間」じゃなくて「女」として書いてる感じとか、知的障害のある息子を「天使」にしちゃってるのとかは、今読むとちょっとだせえ感じはある。そこら辺は時代のあれだと思ってちょっと薄目で読んであげる必要はあるかも。


